見出し画像

アンフォールドザワールド 11

11

 私に殴り倒され、オープンカフェのテーブル席に倒れこんだイチゴを、周囲の客は見て見ぬふりをしていた。
「すみません、当店での撮影はご遠慮ください」
「ああ、すみませんでした」
 カフェの店内から慌てて出てきた店員に対し、ちかこは素直に謝罪し、カメラをトートバッグにしまう。一人でも目立つ服装のクラウドイーターが三人も揃っているし、ちかこはカメラを構えているしで、なにかのコスプレ撮影とでも思われたのだろう。

「イチゴが動かなくなったな。リブートを待つのもめんどうだし置いていくか」
「えー、ここの人が困っちゃうよ。橋の下に捨てとこうよ」
 ミッチがイチゴを軽く蹴飛ばし、フータがそれを肩に担ぐ。オープンカフェを出た橋の下に、イチゴを雑に転がす。
「あんたたち、あんま仲良くないのか?」
 私の質問に、フータとミッチは聞こえないふりをしている。

 私とちかこ、フータとミッチという不思議な面子で、青紫川橋を渡り、対岸の工事現場へ向かう。
「君たちの学校でナニガシを捕らえ損なったとき、この周辺でその反応が消えたんだ」
「たぶん、ほのかちゃん? とかいう子も一緒なんだよねー。だけど、一昨日から、ほのかちゃんの反応が全くないんだ。ナニガシの反応はこのへんで時々みつかるんだけど」
「反応がないってどういうことだよ!」
「俺たちの今回の目的は、ナニガシを捕獲し転送することなのだが……」
 ミッチが建築中の建物を見上げる。どこまで説明したものか、悩んでいるようだった。
「ナニガシが三体、こっちに出現することは予測出来てたんだよ。でもさあ、この世界もそこそこ広いしー、あちこちに散らばると面倒だから、好餌を撒いたんだけど」
「こうじ?」
「君たち三人は、それを浴びたんだ」
「あっ、あれのことか!」
 私はちかこの撮ったムービーを思い出す。空から降ってきた謎の光。私とちかこを取り巻く、魔方陣のようななにか。
「好餌を浴びたほのかは、ナニガシに連れ去られたと推測される。だが一昨日、リバーサイドモールから、好餌の反応が消えたんだ」
「そ、そもそも、ナニガシってなんなんだ」
 ほのかの反応が消えた。私は最悪の事態を想像したくなくて、微妙に話題を変える。
「うーん、全部を説明するのは難しいんだけどー」
「簡単に言えば、受胎のエネルギーを媒介に出現するクリーチャーだ」
「なんかが生まれる直前のエネルギーっての? 動物とか人間とかー、生き物じゃないなにかとかでも」
「なるほど。だから子供を身籠もっていた雌キリンから、あの化物が出てきたのですね」
 ちかこはトートバッグからカメラを取り出しかけて、それをまたしまう。ミッチに取り上げられたくないのだろう。

「じゃあ、これはなんなんだよ!」
 私は肩にかけていたバッグから、水色のノートを取り出す。 夢中で書き殴ったのに、なぜだかつまらないものになってしまった、私のアイデアノートだった。
「これがどうかしたのか?」
「このノートから、猫みたいな化物が出てきたんだ。あれはナニガシだろ。なんで私のノートからナニガシが」
「そのような事例は聞いたことがないが、確かにナニガシの痕跡が検知されるな」
「へー、こんな薄っぺらいものから出現するなんて、珍しいねえ」
 ミッチは私のノートをペラペラとめくる。ページに手のひらをかざし、調べるような素振りを見せる。
「いまは全く感じられないが、この紙になんらかの強いエネルギーが宿っていたのかも知れないな」
 私には心当たりがあった。生まれるはずだった私の物語。それはきっと、異世界から来た化物に、奪われてしまったのだ。
「私の最高傑作……、私の処女作だったのに!」
「まだ一作目なのだから、処女作が最高傑作なのは当然のことですね」
「ミッチ! ナニガシを捕まえれば、そのエネルギーは戻ってくるんだな?」
「ああ。それを取り戻し、ナニガシ本体を元の世界に転送するのが俺たちの目的だからな」
「私の処女作、絶対に取り戻してやるっ! あと、ついでにほのかも!」
 私は高らかに声をあげ、拳を振り上げた。

12へつづく

1から読む

ここから先は

0字
明るく楽しく激しい、セルフパブリッシング・エンターテインメント・SFマガジン。気鋭の作家が集まって、一筆入魂の作品をお届けします。 月一回以上更新。筆が進めば週刊もあるかも!? ぜひ定期購読お願いします。

2016年から活動しているセルパブSF雑誌『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』のnote版です。

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?