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アンフォールドザワールド・アンリミテッド 6

 次の日になっても、イチゴは学校に戻ってこなかった。私の隣の席はあいたままで、おそらくちかこのクラスにいるフータも欠席しているのだろう。ミッチはどうなったのだろうか。
「ねえ、きずなちゃん、このままイチゴくんたちが戻ってこなかったらどうするー?」
 休み時間に、ほのかが私の席のそばにやってきて尋ねる。不安を能天気さで押し込めているような口調だ。
「うーん、それは困るよな。だってまだ、ナニガシがこっちの世界にいるんだろ? なんらかの被害が出るかも知れないし、私のノートだってまだ見つかってないし」
「ふうん」
「ん? なに?」
「私、きずなちゃんにちょっとがっかりしたー」
「は? なんでだよ」
「だってー、ミッチくんがあんなことになったのに、イチゴくんたちだってきっと大変な状況なのに」
「それはそうだろうけど」
「なんかー、最近のきずなちゃんって、自分のことばっかり」
「な、私は最初から、あいつらのことを歓迎してたわけじゃないし」
「いっしょに部活やったりー、いっぱい助けてもらったのに?」
 確かに私はイチゴに命を救われた。だけどそれは、そもそもあいつらが私たちの世界にやってこなければ、起こらなかった事件のはずだ。
「放送部だって、あいつら強引に入ってきて……」
「きずなちゃんは、イチゴくんたちのこと好きじゃないんだ」
「別に好きとかそういうの、ないし」
「わかった。じゃあ、イチゴくんは私がもらうから」
「はあ? なんでそういう話になるんだよ。好きにすればいいじゃん」
「好きにするよ」
 椅子に座ったままの私を見下ろすほのかの目つきが、いつもと違って見える。のほほんとした口調で吐かれた言葉が、私の心を不快にえぐった。

 なんなんだ。なんでほのかにあんな風に言われなくちゃいけないんだ。私が間違っているのだろうか。不服に思いながら放送室のドアを開けると、ちかこが長机に向かっていた。机上に置かれたノートパソコンのモニタには、体育倉庫の映像が映されている。
「これ、このあいだの映像?」
「ええ、なにか映っているかと思ったのですが、なにもありませんでした」
 ちかこが悔しそうな声を上げ、映像を止める。
「あのさ、あんま思い詰めるなよ。あいつらどうせすぐ帰ってくるって」
「なんの根拠があるのですか」
「なんとなく、私たちが帰れっていっても居着いてそうじゃないか」
「きずな先輩は、彼らに戻ってきて欲しくないのですか」
「だって……」
 反論しかけて口をつぐむ。ほのかやちかこはいつの間に、これほど彼らのことを想うようになっていたのだろう。まるで親友を失ったように不安を感じている。もしかして、私の方がおかしいのかも知れない。私はどうしてこんなに薄情なのだろうか。自分の身の回りに起こっていることの全てが、まるで他人事みたいだ。
「きずな先輩?」
「おう、なに?」
「大丈夫ですか」
「……なにが?」
 ちかこが私の顔を覗き込む。
「いえ、なんでもありません。勘違いでした」
 意味の分からないことをいって、ちかこはまた映像の再生ボタンを押した。

7へつづく

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