『おひとりさまの老後』 上野千鶴子 文春文庫
おひとりさまは、ずっとシングルだった人だけではない。夫婦で過ごしてきた人も、パートナーが亡くなればシングルに戻る。そして、平均寿命が長い女性の方が、おひとりさまの老後を迎える可能性は高い。
その老後をどう過ごすか。団塊の世代が60歳代になった2007年に出版されたこの書がベストセラーになった次第だ。
子供と同居するのではなく、住居を含めてこれまで蓄えてきた資産、積み立ててきた年金(場合によっては夫から相続したそれら)を使って、なるべく最後まで自立して暮らす。介護が必要になったら外部から呼べは良い。
2007年当時はそう言われて、目が開かれた人が多かったのだろうか。10年以上過ぎた今では、さほど目新しい話ではない。これからは出来ればそうしたいが、資産が不十分、年金も足りない、介護制度にも不安がある、そちらの方をどうしてくれるんだ、と言う人の方がずっと多いだろう。
こう書いてしまっては、この書の値打ちも分からなくなってしまうので、視点を変えよう。どんな人間も死ぬときは一人だ。死へとつながっていく孤独は、遅かれ早かれやってくる。上手な生き方とは、その孤独をいかに有意義なものにするか、もっと踏み込んで言えば、生を孤独によっていかに最後まで際立たせるかだ。この書は、10年前には実践的と考えられた方法を提案しているのだ。この書で提案しているのは当時としても中流の上でなければ実現できない方法、という批判も多いが、まず中流の上と言われる層が実現して、広めて欲しかった。
一つ付け加えてみる。趣味を聞くと、その人の孤独との向き合い方が分かるな、と思うことがある。例えば楽器の演奏を趣味とする人は、自分が作り出す音色に自分の心の光陰や襞を乗せているのかもしれない。この意味で、趣味は職業より深いものだとも言える。おひとりさまにとって趣味は、楽しみ以上のものになるはずだ。
お金を稼ぐための仕事で朝から晩まで埋め尽くされ、仕事とは関係のない人とのコミュニケーションをする機会がほとんどなかった人は、孤独を味方に付ける準備がほとんどできていない。男性の多くがそうだろう。こういうのをジェンダー格差と言って良いのかどうか分からないが、女性が「おひとりさま上手」になりやすい立場とすれば、男性の役割を果たしてきた人はどうすれば良いのだろうか。