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『展望台のある島』山川方夫 慶應義塾大学出版会

 山川方夫の没後50年を記念して刊行された、晩年の作品集。巻末に、作家・坂上弘による解説と詳細な年譜がある。前半「I 夏の葬列」は不条理な死をモチーフとした短編(ショート・ショートと言われている)が集められ、後半「展望台のある島」は、少年期から青年期までの体験をベースに、他人との隙間にある濁った青のような空気感を描いている。
 はるか昔に読んだ『海岸通り』の文体の記憶が、この短編集に手を伸ばすきっかけとなった。静かな海辺を思わせる文体に沈潜する憂鬱が、まだそこにあるか確かめたかったのだ。

 その憂鬱は、冬の湘南海岸のような描写と対照するように描かれた、人間の不条理やエゴが発するものであることに気がついた。作家がもう少し生き長らえていたら、日本のカミュと言われたかもしれない。風景の中に置かれた誰もが、美しくない。
 今回は特に、不慮の死がこだわるように描かれているのが、刺さった。不条理のシンボルとしての死なのだろうが、まるで、作家の突然の事故死が暗示されているようである。もしかしたら作家は、湘南の空気を妨げる車の音に、自分の死を予感していたのかもしれない。

 運命が不条理に筋を通すのだ。