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村上春樹『街とその不確かな壁』新潮社

 コロナのロックダウンの間、ずっと書き継がれていた小説。書店の平積みの上に、そんなポップが立っていた。確かに、小説に出てくる街は、コロナのせいで人通りが消えた、たちの悪い静けさと同じような気配が漂っている。

 懐かしい人々。いったいどうしてそう思うのか分からないが、この小説の登場人物はみな、懐かしい。前世紀の幻を見ているようでもある。ところで誰もスマホを持っていないのは、いったいどうして、、、。

 黄昏は、現実と夢、生と死、大人と子供、比喩と描写が交錯する。それを書き留めたような小説。

 Zoomの画面にあるボタン「全員に対してミーティングを終了する」。これが死のイメージだ。コロナのロックダウン中、そのボタンを何度、押したことか。小説の中で、死は、影のない人として描かれる。そう言えば、Zoomの中の人には、影がない。

 大学の研究棟があった所が、村上春樹ライブラリーになった。つまりそれは、1970年代の思い出だった場所にある。この小説の懐かしさと、どこか繋がっているような気がする。