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2022.2.4 - 2.5


昨日見たChris MarkerのSans Soleilは、本当に美しい映画でした。世界を旅する写真家から届いた手紙を、一人の女性が朗読をする形を取っていて、映像も言葉も本当に素敵で、見れて良かったです。目黒シネマに向かって川沿いを歩いている途中、自分の時間を、映画を見たり音楽を聴いたり本を読んだりすることにただ振り分ける生活は、それらメディアによって自分が消費され続けている日々なのではないかという感覚に襲われて、踵を返して自宅へ帰ろうかと思ったんです。でも、やっぱり見て良かったです。

最初に見たショートフィルムの2本は途中で寝てしまって何も覚えていないのですが「映画館でハシゴ何作可能?深夜も稼働のバルトなんかどう?で、そのうち一本にまぁ感動くらいがちょうどいい」って、RHYMESTERも歌ってましたしね。

冬晴れの光は迷いがなく好きです。都心へ出る用事があったので、今日も川沿いを目黒駅まで歩きました。途中、おじいさんが、奥さんの写真を持って、ずっと川を眺めていたんです、眺めていたというか、写真に目黒川を見せていました。その写真に写る女性はピースサインをしながら少し恥ずかしげにカメラを見て微笑んでいました。私は、その表情を知っています。その女性と、カメラの先にいる人との関係性も分かるような気がします。でも、あの光景を表す適切な言葉は持っていません。


ラーメンを食べているとき、東京の街を歩いているとき、部屋で本を読んでいるとき。ふと、どこかとても寒い国に、静かに雪が降り続ける夜のことを想像します。その場所はオレンジ色のガス灯が並ぶ石畳の坂道であったり、月明かりに青白く照らされた林や雪原であったりします。

その光景は、私が幼少期に父の車に乗って誰か知らない人の家にパンを届けた日に降っていた雪の景色に由来するものかもしれないし、ここ数年で旅をしながらアイスランドやセルビアや北海道で見た白い風景を混ぜ合わせたものなのかもしれません。その両方なのかも、どちらでもない、まだ見たこともこれから行くこともない、存在のしない景色なのかもしれません。

とにかく私はときどき、この世界にあるのかもわからない曖昧な冬景色のことを思います。そして、あなたが今日も、大きく息を吸えていることを願っています。温かく美味しいご飯を食べていることを願っています。詩を美しいと思えていることを願います。芝公園から東京タワーを眺め歩きながら、中目黒のSegafredoでコーヒーを飲みながら、部屋のラグに落ちた埃を、掃除機で吸い取りながら。


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