とある高額カードの買取実録

 あらかじめ述べておく。これは店舗批判ではなく、ただのお気持ち表明と日記である。もしこの記事を読んで、文章内のカードショップを推察し、そのカードショップへの私の恨み節をあなたが感じ取ったとしてもそれは気のせいである。私自身珍しい経験をしたので、日記がてら記事にしたいと思った。余談だが、実際に自身の過去のnoteを日記代わりに読み返すことがあり、意外と楽しい。ぜひみなさんにもおすすめしたい。もし、この記事を読んで詳細を知りたくなった、気になることができた方は私のSNSへ連絡してもらっても私は一向にかまわない。


 某日。私はとあるカードを売ることを決意した。それは通販サイトでは約50万と高値がついているカードだ。売却にいたった経緯は今回の趣旨から逸れるため、省略させていただく。とにかく、人生初と言っていいほどの高額カードを売りに出す経験をした。カードショップにカードを売りに行った経験はある。と言っても高くなってもせいぜい総額3万程度だ。1枚50万とドカンとインパクトのある取引はいまだかつてない。

 自転車を15分ほど走らせると、全国でも有数のカードショップが密集しているエリアに到着する。人の往来は平日休日問わずせわしなく続き、そのメインストリートは暗黙的な歩行者天国のようにもなっている。

 私は事前にいくつかの店舗に目星をつけていた。少なくとも1店舗で即決取引をするつもりはなかった。さすがに額が額である。店舗によって数万違うことは予想されるため、比較はしたい。1店舗目は今年できた新規店舗ながら取り扱いは充実している印象だ。さらには先日、1枚300万という超特例の取引を行った実績もある。実のところ私の大本命である。買取申し込み用紙に必要事項を記入し、提出する。私はそのフロアでショーケースを眺めつつ、遠目にスタッフの動向を見守る。買取窓口のスタッフから担当と思わしき人物にカードが流れていき担当が変わる。やや、浮立つような様子をカウンター越しに感じ取る。査定に出したカードの枚数は3枚で、買取待ちもない。経験的に5分程度の待ち時間かな、と予測していたがどうやら延びそうだ。どこかに電話し相談するスタッフ。1人のスタッフに決定権はないようだ。体感15分程度経ったぐらいだろうか、受付時に渡されたナンバープレートの番号を呼ばれる。そそくさと買取カウンターにむかう。カウンターには買取窓口のスタッフが待っている。説明を受けて想定外の言葉に早々に目を丸くした。「うちでは買取できなんです、委託ならできるんですが…」とやや申し訳なさそうに告げるスタッフ。まずできないことに驚き、カードショップでは聞きなれない「委託」という言葉の詳細が気になる。「委託ってどういうことですか?」ここで窓口のスタッフからさきほど電話していたスタッフへ選手交代する。以下は要点をまとめたものを記述する。

 「各タイトルごとに買取上限金額が存在し、今回の買取はそれをオーバーするものである」「そのため買取はできないが、委託であればショーケースにカードを陳列することができる」「委託だと、カードが購入された時に初めて売却者に現金が渡される。それまでは店舗に預けている。」「陳列には料金が発生しない。その代わり売却された場合、値段の10%を店舗がいただく。置く値段はあなたが決められる。」といった内容の説明を丁寧に受ける。そういうのもあるのか、と驚きつつも店舗の姿勢には感銘を受ける。

 マニュアルとして定まった流れだとしても、こういった代案を提示していただけるのは好印象を抱く。極端に言えば「買い取れません」で終わってもいい案件である。そこを建設的に進めてもらえるのはありがたい。双方向に話ができる余地があるというのは「大人の話」としては当然ではあるのかもしれないがほとんどの店舗では「ガキの使い」である。目の前のスタッフはアルバイトで詳細もわからず決定権もなく、奥から出てきた正社員も踏み込んだ話の余地はないのがほとんどである。

 それが悪いわけではなく、店舗としては当然である。日々多く寄せられる買取案件をひとつひとつ決定権のある人間がさばくわけにはいかないだろう。そこで誰がやっても同じような買取ができるように買取表が存在するわけだし、そこに交渉なぞあればトラブルの種になりうるのかもしれない。買取カウンターでごねる客など目障りだと対応するのもわかるし、昨今のカードゲーム事情を鑑みるとそこは切れ味鋭く切り捨てるのにも納得する。ブランド品で装飾し、セカンドバックを抱えた40代の小太りのおっさんおばさんにうんざりしているだろう。

 しかし、一利用者としてはこういった前向きな交渉や柔和な対応は非常にありがたい。結果はどうあれ、しっかりと対応してもらったという充足感さえ抱く。客のわがままであることは重々に承知しているが、専門店としてはここまでやっていただきたいのが本音だ。少なからず私はこの店舗からは「専門店の矜持」を見たような気がする。


 しかも条件も悪くない。ここからは完全に余談であり、もしかしたら明後日の方向の話をしているのかもしれないし間違ったことを言っているかもしれない。あくまでも素人の感覚の話なので話半分で読んでいただければ助かる。その素人感覚だと利益率40%がだいたい妥当かと思う。1000円販売のカードを600円で買い取る。700円800円だと強気の買取だと思う。しかし今回の場合は額面が大きい。1000円販売のカードを600円で買い取り、売ることができれば400円の売り上げ。10000円販売のカードを6000円で買い取れば4000円の売上。利益率は共に40%ではあるが、売り上げの差は大きい。行っている作業は同じ1枚のカードを売る業務であるし、もちろんかかるコストと時間は同じである。高額カードの買取の場合だと、この利益率を守っている店舗は及び腰のようにも見えてしまう。もし、10000円販売のカードを8000円で買い取り、売ったとしても2000円の売り上げである。400円の売上と比較してもまだ売上は立っている。かと言って、それなら9500円買取で500円の売上でもいいのか、というとそういうわけではない。そういった利益率を度外視した買取はパフォーマンス的には存在するが、全体の利益率を考慮するとあまりよろしくない。利益率と実際の売上のバランスを取ることができるのが理想的なのかなと思う。高額カードの強気な買取で乱れた利益率も安価カードの買取で整えるなんで考え方もできるのかもしれない。100円販売のカードを10円で買い取り、売る。利益率は90%。今回の場合、50万で置いたとしても店舗には5万、自身に45万。上記の感覚から「買取35万ぐらいが妥当かな…?」と思っていたのでむしろ良い。ただし、手元に現金が手に入るのは実際に売れた時だけ。


 1店舗目ということもあり、他の店舗も見てきて決めさせてもらってもいいか尋ねてみる。対応したスタッフは快諾してくれた。他店舗も回ってみる。2店舗目は私の中ではそのエリアの代表格と印象のあるところだ。察しの良い方はお気づきだろうが、1店舗目のボリュームや内容からなんとなく今後の展開がわかるかもしれない。ここからは上記とは逆の対応をされだんだんと雲行きが怪しくなっていく様子を楽しんでいただきたい。

 同様に買取受付表を提出し、待つ。さすが人気店、4人ほどの待ちがあるようだ。あとからも待っている間にも3~4人が着く。また店内をぶらぶらしながら見守る。やはり査定担当のスタッフがどこかに電話している。その間にも買取順番は前後して自分の持つプレートよりも後ろの番号がモニターに表示され、スタッフのアナウンスが店内に響く。20分ほど待っただろうか。待つというのは何故疲れるのだろう。受付の若いスタッフから提示されたのは20万。特に何も説明はなく、事務的なやりとり。私が承諾するか取り下げるか選ぶのみだ。私自身そこにホスピタリティを求めすぎてはいけないことを重々に承知しているし、目の前のスタッフは与えられた業務をこなしているだけ。おそらくアルバイトだろう。これ以上求めるのはこちらがおかしい。おとなしくキャンセルを告げる。


 3店舗目。話題性のある店舗だ。もしかしたら、パフォーマンス的にも思わず唸るような対応を…と期待したのがよくなかった。「対応できるスタッフ外に出ておりまして…。もう少しで帰ってくると思いますが、もしよければ査定終了次第携帯に連絡しましょうか?」と丁寧に対応してもらう。携帯で知らせてもらえるのはありがたい提案だが、正直ぶらぶらとそのエリアをまわる用事もないため、フリースペースで待たせてもらう。やがてそれらしき人がバックヤードに入っていく。入店から20分ほどだろうか。カウンターで提示されたのは、査定ケースにさかさまに入ったカードと「28万」という金額。逆によくつけてもらったほうかもしれないなと心の中で自嘲気味に笑い、キャンセルを告げて足早に店舗から去る。


 まだまだ取り扱い店舗はあるものの、私は1店舗目へ戻る決断をしたのだった。おそらくもうここまでの高額カードの取引をすることはないだろう。物珍しい体験をしたと、身内のLINEグループに共有したり、話す機会があった仲良くしてもらっている人には「ちょっと聞いてよ奥さん」と井戸端会議をするように話させてもらったりした。「こういう店舗のものさしも存在するのかな」と普段の利用だけでは見えないものが見られたような気もして、面白がることができた。しかし、疲れた。

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