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第7章:海の嵐と決断
「きゃーっ! すごい風!」
詩織の悲鳴が、アトリエ号に響き渡った。
穏やかだった瀬戸内海は、
突如として牙を剥き、
荒れ狂う嵐と化していた。
灰色の雲が空を覆い尽くし、
海面は白い波頭で埋め尽くされる。
容赦なく吹き付ける強風は、
アトリエ号を激しく揺さぶり、
波しぶきが容赦なく甲板に打ち付ける。
「杏奈、しっかり舵を握って!」
真紀は、必死に叫ぶ。
だが、彼女の言葉は、
轟轟と吹き荒れる風の音にかき消されてしまう。
「もうダメだ…、
港に戻れない…!」
杏奈は、恐怖で顔面蒼白になりながら、舵を握りしめる。
だが、アトリエ号は、まるで木の葉のように翻弄され、
制御不能に陥っていた。
詩織は、船酔いで気分が悪くなりながらも、
必死に真紀にしがみついていた。
「…どうしよう…、
怖いよぉ…。」
「大丈夫、詩織。
怖くない、怖くない…。」
真紀は、震える声で詩織を励ます。
しかし、内心では、自分たちも助からないかもしれない
という恐怖に襲われていた。
その時、大きな波がアトリエ号を襲った。
「うわぁーっ!」
三姉妹は、甲板に叩きつけられ、
船内は悲鳴と混乱に包まれた。
「…みんな、無事!?」
真紀は、頭を押さえながら、
起き上がった。
「…なんとか…。」
杏奈と詩織も、よろめきながら立ち上がる。
幸い、三姉妹に大きな怪我はなかった。
しかし、アトリエ号は深刻なダメージを受けていた。
「…大変! 船底に、また穴が開いてる…!」
真紀が叫んだ。
以前、船大工に修理してもらった箇所とは別の場所に、
新たな穴が開いていたのだ。
「…どうしよう…。」
三姉妹は、絶望的な気持ちで、顔を見合わせた。
その時、杏奈が、何かを思い出したように叫んだ。
「…そうだ! あの時のおじいちゃんの言葉…!」
「おじいちゃんの言葉…?」
真紀と詩織は、杏奈の言葉に首を傾げた。
「…船大工さんに船を修理してもらった時、
おじいちゃんが言ってたの。
『この船には、秘密の隠し部屋がある』って…!」
「秘密の隠し部屋…?」
「…そう! おじいちゃんは、
『もしもの時は、その部屋に逃げ込むんじゃ』って言ってた…!」
杏奈の言葉に、真紀と詩織は、
希望の光を見出した。
「…でも、隠し部屋なんて、
どこにあるの…?」
詩織が尋ねた。
「…わからない。
でも、探してみよう!
きっと、どこかにあるはずよ!」
杏奈は、力強く言った。
三姉妹は、力を合わせて、
船内をくまなく探し始めた。
そして、ついに、床下収納の中に、
隠し部屋へと続く階段を発見したのだ。
「…あった!」
三姉妹は、喜びの声を上げた。
隠し部屋は、小さな空間だったが、
しっかりと補強されており、
嵐を凌ぐには十分だった。
三姉妹は、隠し部屋に避難し、
嵐が過ぎるのを待った。
狭い空間の中で、三姉妹は、
互いに抱きしめ合い、励まし合った。
「…杏奈、よく思い出したわね。
おじいちゃんの言葉…。」
真紀は、感謝の気持ちでいっぱいだった。
「…だって、あの時、おじいちゃんは、
すごく真剣な顔で言ってたんだもん。
『いつか、役に立つ時が来る』って…。」
杏奈は、少し照れくさそうに言った。
「…おじいちゃん、ありがとう…。」
詩織は、涙を流しながら、
天国のおじいちゃんに感謝した。
嵐は、一晩中続いた。
三姉妹は、不安と恐怖の中で、夜を明かした。
しかし、嵐が過ぎ去った時、
彼女たちは、以前よりも強い絆で結ばれていた。
そして、それぞれの心に、新たな決意が芽生えていた。
真紀は、島に残ることを決意した。
編集の仕事は、島でもできる。
彼女は、島の人々の暮らしを支える、
地域密着型の出版社を立ち上げることを決意した。
杏奈は、海外に行くことを諦めた。
彼女は、島で、自分の才能を活かし、
世界に発信できる作品を作りたいと思った。
そして、詩織と一緒に、アトリエ号を拠点に、
アート活動を行うことを決意した。
詩織は、小説家になる夢を諦めなかった。
彼女は、島で出会った人々や、嵐の中で感じたことなどを、
物語に込めていきたいと思った。
三姉妹は、嵐という試練を通して、
自分たちの本当に大切なものに気づいたのだ。
アトリエ号は、大きなダメージを受けたが、
三姉妹の力で、再び航海できるまでに修復された。
そして、新たな夢と希望を乗せて、再び瀬戸内海へと漕ぎ出した。
※この物語はフィクションであり、
登場する人物や団体、場所はすべて架空のものです。
実在の人物や出来事とは一切関係ありません。