第3話:遠石八幡宮での誓い
喫茶店「珊瑚」で聞いた翔太と千尋の話が頭から離れなかった。「またここで会おう」という言葉の背景には、彼らが抱えていた何かがある。それを知りたい気持ちが、私を次の場所へ向かわせていた。
「遠石八幡宮…か。」
蓮がスマホで地図を確認しながら呟く。私たちは朝早くから神社へ向かうための準備をしていた。写真の背景に写るもう一つの場所、それが遠石八幡宮だと分かったからだ。
神社にたどり着くと、広い境内が静けさに包まれていた。古い木々が立ち並び、その間を抜ける風が心地よい。鳥居をくぐった瞬間、どこか特別な場所に足を踏み入れた気がした。
「ここで二人はどんな思いを抱えていたんだろうね。」
私がつぶやくと、蓮が小さく首を振った。
「さぁな。でも、何か大事なことがあったんだろう。」
境内を進むと、大きな御神木が目に入った。高さ十数メートルはありそうなその木は、まるで神社を見守っているかのように立派だった。
「写真の背景に写ってた木、これじゃない?」
蓮が言う。確かに、あの写真に写る木と似ている。私は手に持っていた写真を確認した。
「間違いない。この木の前で撮ったんだ。」
「じゃあ、ここが二人が訪れた場所だな。」
木の下には、小さな石碑が立っていた。そこには、こんな言葉が彫られていた。
その言葉に、私はしばらく目を奪われた。
「永遠の約束…。」
「なんかロマンチックだな。」
蓮が冗談めかして言う。
「そうだよね。でも、二人の約束もこんな風に『永遠』を信じたものだったのかな。」
石碑を撫でながら、私は翔太と千尋の気持ちに思いを馳せた。
境内を歩き回るうちに、私たちは神社の宮司さんに出会った。白い装束を着たその人は、優しそうな笑顔を浮かべていた。
「こんにちは。お二人、何かご用でしょうか?」
「あの、この神社で昔撮られた写真のことを調べていて…。」
私は例の写真を見せた。宮司さんは驚いた表情を浮かべた後、写真をじっと見つめた。
「この写真…懐かしいですね。この二人は、私も覚えていますよ。」
「本当ですか!」
私の声が少し大きくなる。宮司さんは頷きながら続けた。
「確かにこの神社によく来ていました。特にこの御神木の下で、何かを祈るようにしていましたね。」
「何を祈ってたんでしょうか?」
「それは分かりません。ただ、最後に来たとき、男の子がこう言っていました。」
宮司さんは静かに言葉を紡いだ。
その言葉に、私も蓮も息を呑んだ。
「それって、『またここで会おう』と同じ意味ですよね?」
私がそう尋ねると、宮司さんは小さく頷いた。
「ええ、そうかもしれませんね。何か大切な約束をしていたのだと思います。」
その後、宮司さんは少しだけ考え込んでから続けた。
「この神社には、こういう言い伝えがあります。『永遠の約束を交わした者は、どこにいても必ず再び巡り会う』と。」
その言葉を聞いて、私は胸が熱くなるのを感じた。翔太と千尋も、この言い伝えを知っていたのだろうか。彼らがこの場所で何を祈り、どんな気持ちで別れたのか、それを知りたい気持ちがますます強くなった。
「蓮、やっぱりこれ、最後まで追いかけたい。」
私が振り返って言うと、蓮は少しだけ苦笑いを浮かべていた。
「もう分かってるよ。お前のそういうとこ、止められないからな。」
帰り道、私は蓮と並んで歩きながら言った。
「でも、二人は本当にまたここで会えたのかな。」
「分からないな。でも、会えたか会えないかは関係ないんじゃないか?」
「どういうこと?」
「その約束を信じていたことが、二人にとって一番大事だったんじゃないかってこと。」
蓮の言葉に、私はしばらく黙り込んだ。彼の言う通りかもしれない。「またここで会おう」という言葉は、単なる約束以上の何かだったのかもしれない。
「次はどうする?」
蓮がそう尋ねる。私は写真を見つめながら答えた。
「次は…太華山展望台。灯台が写ってる場所だから、きっとそこにも何かあるはず。」
「やっぱり冒険は続くんだな。」
蓮のその言葉に、私は少しだけ笑った。まだ見ぬ答えを追い求める旅は、これからも続く。
次回予告
第4話:大津島の灯台
太華山を訪れた美咲と蓮は、新たな手がかりを見つける。そして灯台で出会う老人が語る、翔太と千尋の切ない物語。約束の言葉がさらに深みを増す。