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第3話 もうひとつの顔
「やらかす…か。」
凛は、マスターの言葉を反芻しながら、コテージに戻った。
「失敗から学ぶ…。」
今まで、失敗しないことばかりを考えて生きてきた凛にとって、マスターの言葉は衝撃的だった。
「でも、実際問題、仕事で失敗したら大変なことになるし…。」
凛は、不安を拭い去れずにいた。
その時、スマホの通知音が鳴った。海斗からだった。
「今夜、ナイトパーティーを開くので、よかったら来ませんか? 島の面白い人たちを紹介しますよ。」
メッセージには、そう書かれていた。
「ナイトパーティー…。」
凛は、少し迷った。都会でのパーティーといえば、華やかなドレスを着て、上品な振る舞いをする社交場。だが、島のパーティーは、一体どんなものなのだろうか?
「でも、せっかくの機会だし…。」
凛は、好奇心に駆られ、参加することに決めた。
夜、凛は、指定された場所へ向かった。それは、島の海岸沿いにある、ひっそりと佇むバーだった。
中に入ると、薄暗い照明の中、心地よい音楽が流れていた。バーカウンターには、地元の人々が集まり、楽しそうに談笑している。
「あ、凛さん!」
海斗が、笑顔で凛に気づいた。
「こんばんは、海斗さん。」
凛は、少し緊張しながら挨拶した。
「来てくれて嬉しいです。さあ、こっちへどうぞ。」
海斗に案内され、凛はカウンター席に座った。
「この島の夜は、都会とは全然違うでしょう?」
海斗が、凛に話しかけた。
「ええ、とても穏やかで…。」
凛は、周りの様子を眺めながら答えた。都会の喧騒とは無縁の、ゆったりとした時間の流れ。凛は、この島の雰囲気に、少しずつ馴染んできた気がした。
海斗は、凛に島の特産品を使ったカクテルを振る舞ってくれた。
「これは、島で採れたフルーツを使ったカクテルです。どうぞ。」
「ありがとうございます。」
凛は、カクテルを一口飲んだ。甘酸っぱい味わいが、口の中に広がる。
「美味しい…。」
凛は、目を輝かせた。
「でしょう? この島には、まだまだ知られていない魅力がたくさんあるんですよ。」
海斗は、凛に島の魅力を語り始めた。
凛は、海斗の話に聞き入っていた。DeepTechの仕事のこと、島の自然のこと、そして、彼自身の夢…。
「僕は、この島で生まれたんです。小さい頃から、この島の自然に囲まれて育ちました。だから、この島の自然を守りたい、そして、この島をもっと活性化させたい、そう思ってDeepTechを立ち上げたんです。」
海斗の言葉には、熱い想いが込められていた。
凛は、そんな海斗に、ますます惹かれていった。
その時、バーの扉が開き、一人の女性が入ってきた。
「あら、海斗さん、こんばんは。」
女性は、妖艶な笑みを浮かべながら、海斗に近づいてきた。
「美麗さん。」
海斗は、少し表情を曇らせた。
美麗と名乗る女性は、30代前半くらいだろうか。すらりとした長身に、美しい顔立ち。都会的な雰囲気を漂わせる、洗練された女性だった。
「ご紹介します。藤堂凛さん、こちらは、NeoGreenTechのCEO、美麗さんです。」
海斗は、凛に美麗を紹介した。
「はじめまして。」
凛は、美麗に挨拶した。
「はじめまして。あなた、海斗さんの新しい…彼女さん?」
美麗は、凛を挑発するような視線を向けてきた。
「え、ち、違います!」
凛は、慌てて否定した。
「ふふ、冗談よ。でも、海斗さんは、モテるから気をつけないとね。」
美麗は、意味深な言葉を残し、カウンター席に座った。
凛は、美麗の言葉が気になって仕方がなかった。海斗と美麗は、一体どんな関係なのだろうか?
「NeoGreenTech…?」
凛は、海斗に尋ねた。
「ああ、島のもう一つの企業だよ。彼らは、観光開発に力を入れているんだ。」
海斗は、少し暗い表情で答えた。
「観光開発…?」
「ああ。彼らは、大規模なリゾートホテルを建設する計画を進めているんだ。でも、それは、島の自然を破壊することに繋がるかもしれない…。」
海斗の言葉に、凛は衝撃を受けた。
美しい自然に囲まれたこの島が、観光開発によって破壊されるかもしれない…。
凛は、DeepTechの仕事だけでなく、この島の未来についても、真剣に考えなければいけない、そう思った。
そして、凛は、海斗のもう一つの顔、島の自然を守るために戦う彼の姿を、垣間見た気がした。