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第2話:秘密の喫茶店
翌日、蓮と一緒に訪れた喫茶店「珊瑚」は、どこか懐かしい空気が漂っていた。木の扉を開けると、深いコーヒーの香りが私たちを迎えてくれる。壁には色褪せた写真やアンティークな時計が飾られ、店内は落ち着いた音楽が流れていた。
「なんか雰囲気あるな。」
蓮が小声でつぶやく。普段はあまり感情を表に出さない彼がこう言うのだから、ここが特別な場所だということが分かる。
カウンター越しには、小柄で白髪が混じった店主の幸江さんが立っていた。柔らかな笑顔を浮かべるその姿に、私も少し緊張が和らいだ。
「いらっしゃい。珍しいわね、若い人が来るなんて。」
「こんにちは。この写真のことをお聞きしたいんです。」
私はバッグから昨日拾った古い写真を取り出し、幸江さんに見せた。彼女は写真を受け取ると、じっと見つめ、そして目を細めた。
「この写真…懐かしいわね。」
幸江さんはどこか遠い記憶を思い出すように、小さく頷いた。
「これは大津島の灯台よ。ここに写っている二人も覚えてるわ。」
その言葉に、私も蓮も思わず身を乗り出した。
「本当ですか? この二人は誰なんですか?」
幸江さんは写真をそっとカウンターに置き、椅子に腰掛けた。少し間を置いてから語り始める。
「戦後間もない頃、この店にはよく若いカップルが来てたの。この二人もその中の一組だったわね。男の子は翔太くん、女の子は千尋ちゃんって名前だったと思う。」
「翔太と千尋…。」
私はその名前を繰り返しながら、写真の二人を改めて見つめた。
「翔太くんは無口で真面目そうな子でね、千尋ちゃんは明るくてよく笑う子だった。二人は本当に仲が良さそうだったけれど、どこか寂しそうな雰囲気も漂っていたわ。」
「寂しそう、ですか?」
私が尋ねると、幸江さんは小さく頷いた。
「ええ。何かを抱えているような感じだったの。でも、それについて詳しく話すことはなかったわね。」
蓮が写真を指差しながら言った。
「それで、この写真はどういうときに撮られたんですか?」
「たぶん、二人が最後に灯台を訪れたときじゃないかしら。」
「最後?」
幸江さんは少し切ない表情を浮かべながら続けた。
「ある日、千尋ちゃんが涙を浮かべながら『これで最後かもしれない』と言っていたのを覚えているの。そのあと、二人が店に来ることはなかったわ。」
その言葉に、私は胸が締め付けられるような気持ちになった。二人は何か大きな決断をしたのだろうか。それとも、何か別の事情があったのか。
「でも、千尋ちゃんが最後にこう言っていたのよ。」
幸江さんは少し微笑んで続けた。
「『またここで会おう』って。」
その言葉に、私は息を呑んだ。あの手紙に書かれていた言葉。それが、実際に二人の間で交わされた約束だったなんて。
「翔太くんも頷いていたわ。それが二人の最後の約束だったのかもしれない。」
蓮が隣で小さく呟いた。
「手紙の言葉と一致するな。」
「うん…。」
私は頷きながら手紙を思い出していた。翔太が千尋に向けて書いた「またここで会おう」という言葉。その言葉にはどれほどの思いが込められていたのだろう。
喫茶店を出た後、私は何度も幸江さんの話を思い返していた。
「二人の最後の約束…か。」
「でも、それを果たせたのかどうかは分からないんだろう?」
蓮が少しぶっきらぼうに言う。でも、その表情はどこか優しかった。
「うん、分からない。でも、それを知りたい。どうしても知りたいんだ。」
私の言葉に、蓮は小さくため息をついた。
「次はどうするんだ?」
「写真の背景に写っていたもう一つの場所、太華山展望台に行ってみようと思う。」
「また冒険だな。」
蓮が少し笑う。その言葉に私もつられて笑った。
「でも、今回は付き合ってくれるでしょ?」
「仕方ないな。どうせお前一人じゃ危なっかしいからな。」
蓮と一緒に歩く帰り道、私は心の中で静かに決意した。翔太と千尋が交わした約束。その謎を解き明かし、二人の物語を最後まで追いかけたい。私たちの旅は、まだ始まったばかりだった。
次回予告
第3話:遠石八幡宮での誓い
次に向かうのは、写真に隠されたもう一つの手がかり「遠石八幡宮」。二人の冒険が深まり、物語の核心に近づく中、二人の関係にも変化が訪れる。