ミシュランへの道 やきとりや人生10
ネットシステムを取り入れ、自宅でのんびり監視カメラで店内を見てスタッフの動きを監視した。店内でなにか気になることがあると、すぐ店に電話した。スタッフの動きが鈍いと、電話でダメ押しした。監視することで店の動きを見て、バックヤード的の役割をしていた。
やがて西新宿で安定してくると、さまざまな営業が毎日出入りしていた。そしてとうとう、ある事件が発生した。
それはごくふつうの営業日だった。数人の会社帰り風?の男女数人のお客が来店した。ごく普通に飲んで食べて、飲食を済ませ、ふつうに会計をして店を出た。何も問題はない光景だった。だが次の日、そのお客から一本の電話が入った。
「先日・・・そちらを利用したお客ですが?出された焼き鳥で腹痛を起こし、食中毒を出した、どう責任を取ってくれるのですか?」という苦情?クレームだった。あきらかにウソだった。
当日は、いつものように焼き鳥を加熱調理していたし、日本酒にもまったく問題なかった。Oさんは、このお客が頼んだメニューを伝票と照らし合わせ、食中毒の原因になった食材を点検した。しかし調べても食中毒を起こすような根拠は?当たり前だがまったくなかった。
飲食業の一番恐れていることは、食中毒なのだ。食中毒が発生すると、その店は致命的な営業妨害となり、ヘタすれば倒産するかも知れないのだ。
ニュースでも時々食中毒が事件になるが、食中毒を出した店は、信用が失われ、顧客を失い、お客の評判を落とし、倒産するというケースがある。これを言ってくるというのは、金銭目当てという意味だった。
悪質な金銭目当てのクレームとはわかっていた。クレーマーは「保健所に通報します」と言う。これに対し、Oさんはさんは毅然として相手にせず「どうぞ勝手に・・・」と言い放った。代々木の頃にはなかった、これは悪質なクレームだった。この時は「大事に至らないだろう?」とこの件を見過っていた。
しかし現実には、もし保健所がこの通報で動いたら2,3日の休業、もしくは7日間の休業を強いられる。これを知っているクレーマーがいる。休業は飲食店にとっては死活問題だ。
1日の売り上げ、1日の人件費、1日の諸経費を考えれば、予定されていない休業は相当なダメージとなる。それが飲食系クレーマーの思うつぼの手口だ。保健所を利用して、飲食店を恐喝するという悪質さ、ある意味暴力団と同じ輩だ。
西新宿に開業したころ、近場の暴力団が出入りしたらしい。みかじめ料的な要求があったらしいが、Oさんがキッパリ断ると、スゴスゴと引き下がり、その後は来ないらしい。
チンピラとかこの種の輩は、いやがらせ?金目当てで、流行っているあたりを付けた繁盛店によく出没することで有名なのだ。この手のプロ詐欺しどもは、過去においしい思いをしてるのだろう?こういう詐欺クレーマーに対し、個人の飲食店では弱みがあるので、大抵言われた額のお金を払ってしまうことが多いのが現実だ。
この類の詐欺クレーマーはごく普通のおとなしい人で、実は羊の皮をかぶっているオオカミなのだ。見た目がふつうで詐欺犯罪者だから始末が悪い。詐欺投資やマルチ商法を勧める連中と同じ類の連中だ。
過去の成功例に味をしめた詐欺師どもは、弱い立場の個人経営の飲食店を恐喝して、示談金と言う形で金銭を要求する。しかし直接お金を要求すると、恐喝になるので、そこはあくまでも示談金というのだ。
こういうケースでは、警察も事件ではないので、民事不介入の原則があるから手出しはできない。相談してもムダ「当事者同士で話し合ってください」と言われるのが関の山だ。
だから、こういう詐欺連中はやりたい放題なのが現実だ。繁盛している店に狙いを定め、こういう難癖をつけるクレームをするのだ。この手のクレーマーはチェーン店にはやらない。
というのは、経営母体の本社があって、本社には部署があって、苦情対策という部署もある。そして裁判のできる体制が整っている。しっかりした弁護士もついているので、簡単にはいかないのだ。そんなことは百も承知。だから立場の弱い個人商店を狙ってくるのだ。
結局、詐欺師たちは保健所に通報した。そして数日後、保健所から電話があり「○月○日に調査するので、1週間休業するように」と連絡があった。当日数人の保健所職員が来て、尋問?聞き取り調査をして店のメニューから、食材の点検、厨房に至るまで調べた。サンプルを持ち帰り休業要請をした。結果が出るまでオープンするなということだ。
詐欺師の思うツボだった。金銭要求を無視すれば保健所を使って嫌がらせをする。○さんは「あのとき・・・払っておけばよかったかも?」と言っていた。それだけ1日休業したために損害が出たからだ。
これは飲食業に関わらず、どのサービス業も同じこと。ただ飲食業はやりやすい。飲食店の苦難は続く・・・
つづく
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