Nemesis: Umbra stats talk
開催から2年以上が経過しており今更感が物凄いですが、そういえば同人誌にだけ書いてWebにはちゃんと公開してなかった(*1)ということに今更気付いたので発掘して公開いたします。
(*1) いちおう同人誌自体をPDFで公開してるので知っている人は見ようと思えば見れた…みたいな状態でした
Nemesis: Umbraのルール概要
2019年10月12日に開催されたIngressの大規模イベントNemesis: Umbraアノマリーの各都市では、4つの競技が同時並行で行われました。
・Capture Battle (35)
アノマリーゾーン(*2) 内のポータルの確保数を競う
・Longest Link Path (40)
指定されたポータルから始まる最大8本のリンク経路をより長く伸ばす
・Unique Portal Hack (15)
アノマリーゾーン内のより多くのポータルをハックする
・Decode Challenge (10)
メール等で配布される暗号問題の解読を行う(新ゲーム)
(*2) アノマリー開催にあたり指定された開催都市内のエリア。その都市の開催人数におおむね比例するサイズが設定される
なお、競技名の後の()内は各競技の配点です。
このうちCBとLLPは両者のスコアの比に従って配点が分配される競技です。3時間の開催時間の間に20分ごと9回の計測が行われ、各陣営でそのうちの最大のスコアが採用されます。
UPHとDCの配点は勝者総取りとなります。
Umbraでの新要素は次の2点です:
・新ゲーム Decode Challange が追加
・各ゲームに各々に違う重みの配点枠が設定された
Decode Challengeについては若干の補足をしましょう。
XMアノマリーでの暗号解読は、かなり古くから含まれていた要素です。しかしかつての暗号解読では他の競技に関わる重要情報(CBに含まれるボラタイル=高得点ポータルや、LLPの指定ポータルの事前情報など)が提供されるという形式を取っていました。
ただアノマリーの開催形式の変化に伴い事前重要情報が提供されなくなった(*3)結果下火となっていましたが、Umbraでは正式にそれ自体で得点が取れる競技に昇格(?)したということになります。
各ゲームの重み付けが固定的ではなくなったことは、純粋にルール面で見たときのゲームの(事前検討の)面白みを大きく増す効果があったと思います。Umbraにおける重み付けはかなり絶妙な設定で、事前には展開が簡単に読めないようなものを意図していたように思われます。
行われる競技の中には数の力押しで勝てるようなゲームも含まれていますが、そのゲームで力押ししただけでは(配点的に)必ずしも勝てないというバランスです。数的劣勢側にも数が不利にならないゲームに集中するという戦略的な選択の余地があり、事前に有利な側も優位にあぐらをかいて単純な力押しで挑めば足をすくわれかねない…という絶妙なラインということですね。
(*3) XMアノマリーの運営自体が徐々に自動化され、事前に何かを決めるということ自体がなくなってきている可能性があります。
ということで各都市のスコアを眺めながらいくつかのポイントについて話していきますが、今回話したい要点は以下の3つです:
・世界的ゲーム:Decode Challenge
・Longest Link Pathの勝ち方
・得点配分設定に効果はあったか
各都市のスコアの一覧は以下URLよりご覧ください
(Google Spread Sheetへのリンク):
◯世界的ゲーム:Decode Challenge
Decode Challengeは事前登録者にメールで問題が出題され、これを解いていくことで次の問題へと進んでいき、先に最終問題に行き着いて解いた陣営が勝つ、というゲームでした。
このゲーム、開催現地から参加できなくはないですが、実際の主力となるのは現地に行かない遠隔地からの参加だと思います。元々暗号解読はアノマリーの開催に先立って(前夜-当日早朝に)行われていたこともあり、世界各地に参加者が分布していると思われます。
なのでこの競技については、世界中で同様の傾向が出るのではないかと事前には予想していました(とはいえアジア、ヨーロッパ、アメリカで各3都市全9都市の開催だと傾向と言えるほどのものが出るかは微妙でしたが)。
結果としてはこんな感じとなりました:
6 ENL勝利
2 引き分け (アメリカx2=グアダラハラ、サクラメント)
1 RES勝利 (ヨーロッパx1=アントワープ)
結果自体は自分の予想とは違っていた(Umbraまでの直近1年の傾向としては暗号解読系だとRES優位が続いていた)のですが、まずまず明確に結果が偏ったと言って良いのではないでしょうか。ちなみに引き分け2都市については最終問題あるいはそこに至る過程の問題設定にそもそも難があったと
いう噂もあったようです(真相は定かではない)。
◯Longest Link Pathの勝ち方
LLPはリンク構築系の競技です。
計測毎に指定されるスタートポータル(SP=起点)からリンク経路を伸ばす系の競技はUmbraアノマリーまでの1年ほどにわたってXMアノマリーでは何度か継続的に行われてきました。
2019年はそれまでに比べてXMアノマリーの開催頻度が低下気味だったとはいえ、1年あれば4〜6開催日、開催都市数だと50程度の事例が蓄積されていたということになります。
それだけ開催されると、ゲームの本質がだんだん理解されるようになってきます。理屈立てて勝とうとして勝った陣営がいくつか現れることで、その研究がなされ、勝ち方が自然と伝播しはじめるようになるわけです。
CBはXMアノマリーで最も古くから行われているルールで、これは(いくらかの綾がありますが)おおよそ現地参加人数に比した結果がでることがわかっています。大雑把には現地参加人数の2乗の比、ぐらいのスコアが出ると思ってよいでしょう(*4)。
(*4) すなわちランチェスター2乗則がだいたい適用できるということになります。実際にはランチェスター2乗則の想定といくらか異なる点(Ingressではゲーム中で弾を打っても敵に「戦死」者が出ることがない、面での打撃効果を与える武器が存在する)があるので2乗より若干上、2.3〜2.5乗程度ではないかと思っていますが。
同様に、LLPは1年ほどの経験が積み重なった結果、そろそろ勝ち方の理解が進んできている状況にありました。
結論を言えば、LLPの勝ち方には2つあります。
ひとつは(序盤に)事前計画に沿って強烈に長いリンクを経路を作って圧倒する方法です。そしてもうひとつは、終始敵のSP(*5)を粉砕し続け0点を強要することで負けを押し付ける方法です。
付け加えるならこの2つを両方やるという第3の道も存在します。
事前計画法の特徴は、序盤に巨大スコアが出ることと、それ以後は(支配的ではありますが)序盤ほどは巨大ではないスコアが続くことです。アノマリーゾーンの中で、リンクを通すのが比較的容易かつ長く距離を取れる地点を何箇所か用意し、ゲーム開幕に合わせて一斉に邪魔になるリンクをカッ
ト(*6) →計画ラインを接続し、これを計測時間まで維持することになります。
一度高いスコアを達成できたなら、以後は他の競技(CBやUPH)に移行してそちらでの点稼ぎに移っていくことになるでしょう。結果、序盤に叩き出した高スコアは徐々に落ちていくことになります(*7)。
(*5) SP=スタートポータル / LLPにおいて計測の起点となるポータルのこと。アノマリーゾーン中に何個かが設定される。このポータルから開始される連続するリンクの経路の長さがLLPのスコアとなる
(*6) Ingressではリンクは他のリンクを横切ることができません。なので長いリンクを通そうとすれば他のリンクが邪魔になります。そこで邪魔なリンクを(ポータルを破壊することで)破壊し経路を確保することが必要となる、ということになります。
(*7) ただし、CBが圧倒的過ぎた結果、LLPのスコアが逆に伸びていったり一度落ち込んだあと回復していくようなパターンに突入することもあります。
敵SP粉砕法の特徴は、実行した陣営の敵方のLLPスコアについて、たびたび0が発生することでしょう。ただし実際にやっても完全に粉砕しきれることはなかなか難しいと思います。SPはゾーン内に複数箇所発生するため、計測が行われる9回のうち何度かは粉砕しきれない回が発生することになります。このため、数度は被粉砕側がいくらかの(小さな)スコアを記録することになることが大半です。
という両方の特徴がUmbraにおいていっぺんに出ている典型が桃園(台湾)でした。
開幕でENLが全都市中最高(*8)のおよそ80(*9)というスコアを出している。このスコアがその後どんどん低下していきます(積極的には維持していないが、成り行きでリンクが残ってしまっているのでしょう)。ENLは同時にRESの敵SPへの粉砕をも仕掛け続けましたが、最終M9でそれも崩れ、18.67というスコアでいくらかの挽回を許しました。
(*8) なお、参加人数=CB対象ポータル数もドレスデンとほぼ横並びでシリーズ中では最大規模の開催でした。
(*9) リンクの距離(km)に連続する経路中の何本目であるかを計数として掛けて、最大8本までが計測の対象となります。
他の各都市についてもLLP勝利陣営がどのように勝ったかを見ていきましょう。
サバ ENLによる敵SP粉砕(完全達成)
ニューカッスル ENLによる敵SP粉砕
アントワープ ENLによる両方
ドレスデン RESによる敵SP粉砕
ヨーテボリ RESによる両方?
ブルックリン ENLによる敵SP粉砕
グアダラハラ 両陣営によるお笑いドタバタアノマリー
サクラメント ENLによる敵SP粉砕
グアダラハラについては謎の言葉を書いたので解説しましょう。
こんな感じでLLPのスコアが交互に0になったのが特徴です。
いったいどうすればこんなことが起こるのかと想像してみると、「相手にやられたので慌てて対応して粉砕→次はこっちの番だ!」をお互いに(交互
に)繰り返していた可能性などが考えられます。相互に少人数の精鋭チームだけが統制の取れた指揮下に入っていて、しかし指揮者は「ずっと粉砕し続ける」みたいな割り切った戦術を取っていなかった、と。
その結果として生まれたのが(CBも含めて)ドタバタとスコアが変動しまくるゲームで、これは見ているぶんには楽しい(現地としてはたいへん疲れそうな)展開だったのでは、と思います。
◯得点配分設定に効果はあったか
さて各都市の結果を眺めているとなんとなく見えてくるのは、
・LLPは圧勝すると32:8ぐらいのスコアになる
・LLPを圧勝するとCBも25:10ぐらいのスコアになる
という2点でしょう。
実際にこの2点を達成できれば、CB+LLPでのスコアが57-18=39点差となります。これは総取りかつ非戦闘系の2競技(UPH+DC)の25点を無視しても勝つことができるという数字になります。実際、このパターンで勝っている都市は全9都市中6つありました。
逆にこのパターンに即していないのは3都市(ニューカッスル、ヨーテボリ、グアダラハラ)でした。
グアダラハラは前述したようにグダグダのお笑いゲームをやった結果、CB+LLPでのスコア差はわずか5.36とほぼ差が付きませんでした。なのでUPHの差でENLが制した、という結果となりました。
ニューカッスルはたぶんどっちも弱いがRESがより弱かった、と言うべきゲームだったように見えます。RESがCBではわずかに上回りましたが、LLPではENLにほぼSP粉砕を許しました。SP粉砕という知恵が回ったぶんでENLが24.37の差を付け、残る2つのうちDCを取ったことでENLが勝利を手にすることになりました。
ヨーテボリはCBではだいたい引き分けと言っていいスコアでしたが、LLPではRESがSP粉砕を貫徹することに成功し、LLPだけで39.26の大差を付けることに。UPH+DCはENLが取ったのですが挽回しきれず、ゲームとしてはその大差だけで押し切るという結果になりました。
結果的にはUPH+DCが勝敗に影響を与えたのは2都市だけ、DCが勝敗に影響したのはニューカッスル1都市だけ(*10)。一見ゲームとしての寄与度が低いようにも見えますが、点数配分が全体の15-10%にあたる競技が、各々1/10個の都市で勝敗に影響を与えたと思えば、設定通りの影響だったということかもしれません。
しかし全体のバランスで見るとLLPが事実上の「勝者総取り競技」に近い結果を出している点にはやや問題を感じます。そこへの配分が大きすぎた結果、UPHやDCの影響度が相対的に下がってしまった可能性があります。
この「戦闘系ゲーム偏重」というルールバランスはいくつかの都市では見破られているようで、ドレスデン、ヨーテボリなどでは勝利側陣営のUPHが極端に低くなっており「UPHを捨てても勝てる」と決め打っていたことが推察できそうです。
後知恵としては、たとえばLLPへの配点を30、UPHへの配点を25などとしたほうが戦略選択のジレンマが大きくなって、勝ち方を決めるのがより難しいゲームとなっていたことでしょう。
(*10) ただし、グアダラハラについては、双方ノースコアに終わったDCをもしRESが取っていればRES勝利になっていたところでした。