爆買いは再び戻ってくるのか? ~決算情報や現在のトレンドから推測してみた~
月間最大220万MAUを誇る日本最大級の訪日観光メディア「tsunaguJapan」を運営しインバウンド事業を展開している株式会社D2C Xの中西です。厳しいコロナ禍の2年半を経て、我々のビジネス環境も大きく変化し、おかげさまで毎日忙しい日々を過ごしています。
そんな中、いつになるのだろうか?と思っていたニュースが突然飛び込んできました。
昨年2022年10月の水際対策緩和からそろそろ1年が経過しようとしている中、唯一訪日客の戻りが遅れている中国。その団体旅行の規制が突如緩和され、3年半ぶりに解禁されることになりました。
団体旅行の緩和は一時的にでも相手国へ大きな経済効果をもたらすので、個人的には外交カードの1枚としてしばらくは解禁されないだろうなと思っていたので、突然解禁されたことは驚きでした。中国国内のオーバーツーリズムがひどすぎて、それを分散化させるために日本向けの団体旅行が解禁された という報道もありましたが、真意は分かりません。
団体旅行解禁の真相は本題ではないので、今回はこの団体旅行の解禁を契機に世の中でも気になり始めている方が増えている”爆買い”に焦点を当てて、今後の動向を推測してみようと思います。今回は、たまたま読んでいた小売企業の決算情報に気になる文章があったので、それをきっかけに深堀りしようと思い、今回筆を取りました。
1.爆買いとは?
中国の団体旅行解禁のニュースが報じられてから、にわかに爆買いの話が盛り上がってきているような感覚を覚えています。
そもそも爆買いとはどういう定義なのか?なんとなく皆さんにイメージはあると思うのですが、ある程度認識を合わせたいと思います。Wikipediaにはこう書かれていました。
元々の発端としては、訪日中国人が大量に商品を購入することから生まれた言葉として定着し、銀座などで大型バスを横付けして、ディスカウントストアや家電量販店、百貨店にて短時間で大量に買い込むことをイメージしていると思われます。また、その中には転売を目的とした大量買いも含まれていたと考えられることが特徴的で、自分や家族でで利用する目的ではなく、自国に持ち帰ってから転売することで利ザヤを稼ぐビジネスが一般化していました。
2. 訪日中国人の団体旅行比率
では、今回報道された中国の団体旅行解禁について、2019年のデータから振り返ってみたいと思います。
2019年時点での中国における団体旅行比率は27.1%(訪日目的全体)です。2019年の訪日中国人客数は年間で959万人でしたので、約260万人程度が対象でした。
月に換算すると約21万人程度となり、ピーク時の訪日外国人数は月間約300万人であったことから、全体の7%程度となります。
2019年の訪日中国人買い物代消費単価は10万8,788円でしたので、買い物消費におけるインパクトは下記と推計されます。
3. 各社の免税売上状況
ここで小売企業の免税売上の状況をコロナ前と後で比較してみたいと思います。すべての企業を比較するのは難しいため、代表的な企業として、①PPIH(ドン・キホーテ)、②高島屋、③エイチ・ツー・オー リテイリング(阪急阪神百貨店)の決算資料から、参考になる箇所を抜粋してみました。
①PPIH(ドン・キホーテ)
最新決算での免税売上地域別上位は(括弧内はFY19)、韓国33.7%(22.5%)、ASEAN21.3%(17.3%)、台湾19.7%(13.6%)、中国11.6%(40.5%)となっており、爆買いのメインと考えられる中国はコロナ前に比べると約1/4程度の売上高となっている。
最新の決算資料では省略されてしまったが、少し遡ってFY22の10-12月期だと、商品カテゴリ別構成比を掲載していました。完全に商品構成が変わるような変化はありませんでしたが、日用雑貨・消耗品(おそらく化粧品や薬がメイン)が52.5%→44.8%に下落する一方、時計ファッションが19.1%→23.4%、食品が18.8%→22.6%に上昇する結果となり、訪日客が中国を除いた地域が中心になったことで、商品構成に少し変化が見られた。
②高島屋
免税売上は各月30億円超で四半期合計100億円超だが、2019年比では約7割程度の戻り。各月の免税売上に占める中国比率は、4月:27%、5月:24%、6月:41% となっている。コロナ前は80%を超過していたことから考えると、中国エリア以外の国からの売上非常に伸びていることがわかる。
③エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社(阪急阪神百貨店)
阪急阪神百貨店をを中心としたエイチ・ツー・オーリテイリングでは、既に免税売上は2018年実績を上回っており、6月実績では156%と大幅に戻っている。また、つい先日のニュースで8月単月の免税売上が過去最高を記録したとのことで絶好調の状況である。注目すべき点としては、FY23_1Q免税売上は既に2018年を超過しているが、国籍別の比率で言うと、中国:76%(FY18)→43%(FY23)、台湾/韓国/香港:16%(FY18)→40%(FY23)、その他:7%(FY18)→17%(FY23)と構成比は大きく変わっており、東アジアのシェア並びに絶対額が非常に大きくなっている。
4. 追徴課税
免税売上が絶好調ではあるが、コロナ禍では多くの百貨店が免税販売に関する追徴課税を受けているのは記憶に新しいところである。主な追徴課税要因は以下に抜粋した。
また、エイチ・ツー・オーリテイリングの第四半期決算説明会では、株主から追徴課税に関する質問が入っており、今後の再発防止を徹底していくことが言及されている。対象としては、免税適用額が非常に大きい一部の顧客が要件を満たしていなかったという事象である。
以上の情報から推測するに、免税販売に関する環境は非常に厳しくなっていることから、百貨店に限らず小売業各社はコロナ前に比べてもより一層免税適用要件のチェックを厳格に運用していく流れがコロナ前とは大きく異なるトレンドになるのではと考えています。
5. 転売目的
”転売”というキーワードが頻出したが、これはいったい何のことか?という人がいらっしゃるかもしれないので、改めて説明すると、日本で免税適用して購入した人気の商品を自国に持ち帰って販売する、もしくは日本から越境ECで販売することで販売価格と仕入れ価格の差額分の利ザヤを稼ぐことを指している。
日本でしか手に入らない品物であれば消費税分10%を割り引くことで利益を確保でき、どこでも手に入る日用品であっても小売各社から発行されたクーポンと免税を組み合わせて安く仕入れ、高い価格競争力を持って転売するということがコロナ前に現場では良く行わていたと記憶している。
この転売目的がどの程度免税売上に影響を与えていたのか?は定かでないが、コロナ前はある一定の需要があったと想定される。この需要がポストコロナでどうなるかは非常に不透明である。
6. 越境EC
転売手法には主に2種類あり、日本で購入した商品を旅客機で持ち帰り自国内で販売する行為と、在留外国人を中心として日本で免税購入をした商品を越境ECを活用して販売する手法だ。越境ECには、モールなどに出店して販売する手法もあれば、CtoCマーケットで消費者間で売買する手法も含まれる。
ちょうど先日8月31日に経済産業省から越境ECに関するレポートが発表されたので、2022年と2019年の越境EC市場を比較してみたいと思います。
2022年については、中国の越境 BtoC-EC(日本・米国)の総市場規模 5 兆 68 億円となった。このうち、日本経由の市場規模は 2 兆 2,569 億円、米国経由の市場規模は 2 兆 7,499 億円であった。
2019年時点では、中国が日本から越境EC経由で購入した市場規模は、1兆8,138億円であった。
日本から中国への越境EC市場規模は、
ということになる。
また、コロナ禍の中国では強制的なロックダウンが各地で行われ、ECでの購買が当たり前になった点、Douyin(中国版Tiktok)や拼多多など様々な国内ECが普及していった点、つまりあらゆる商品がインターネットを経由して購入できるようになったという点もポイントで、越境ECでモノを買うこと自体もより一般化しているということが想定される。
7. 百貨店の営業スタイル
今回のnoteを書くきっかけになったのは三越伊勢丹ホールディングスの決算説明会質疑応答を読んだことでした。
この時に感じたことは、これはもしかすると今までの爆買い ≒ 店頭でカゴに多くの商品を詰め込んで、お土産や転売するために購入することから、日本でしか手に入らない、または非常に高額の嗜好品を円安メリットを活かして購入する方向へシフトするかも? と瞬間的に感じました。
この1文を読んだときに、頭をガツンと殴られたような衝撃があって、百貨店の外商ビジネスが訪日客へシフトしていく流れがイメージできた。
高島屋の決算説明会質疑応答を調べてみると、こちらもおそらく高額商品にシフトしていることがうかがえる1文があった。
商品利益率が低い特選ブランドとは、高級品系ブランドを指していると思われ、コロナ前は利益率の高い化粧品がかなり売れていたが、今はブランド品や高級時計などよりラグジュアリーな商品が売れていると推測できる。
また、今週の東洋経済がインバウンド特集だったのですが、そこにも非常に興味深い1文がありました。該当箇所のみ抜粋させて頂きますが、面白い特集なのでぜひ購入ください。Amazon Prime対象なので翌日に届きますm(__)m
これらを読む限り、百貨店各社は、一人当たりの売上高をいかに上げるかというところにフォーカスして今後は戦略と戦術を組み立てていくことが想定され、円安も後押ししてより高額品を購入していただき、年に数回の訪日時には百貨店に色々お願いするという旅行会社やホテルのコンシェルジュ的な領域にも侵食してくることが想定される。
8. まとめ
色々なデータや情報をかき集めてしまいましたが、主なポイントは以下となります。
以上のポイントから結論としては、
という結論になります。つまり、消費総額としては当時の爆買いクラスの消費が訪日中国人を中心として発生する可能性は否定できませんが、転売目的の購入が一掃され、自分のために購入する消費が活性化することで、爆買いの中身がコロナ前と変わるのではないか? ということです。
他にも、若年失業率の公表を停止するなど、中国の経済環境が急速に悪くなっていることが想定されることから、海外旅行という選択肢の優先順位が下がったり、海外旅行中の買い物という行為の優先順位が下がることも考えられ、そもそも爆買いという言葉自体も消えてしまうかもしれません。
(2023/9/3(日)21:00追記)
現代ビジネスで興味深い記事があったので、追記しました。どうやら、中国人観光客の香港での消費額はコロナ前に比べて既に1/3まで下落しているというデータがあるようです。
ビジネスの相談お待ちしております!
これからインバウンド関連のビジネスの需要はより一層高まってくると思いますので、ビジネス連携やプロモーションのご相談などがありましたら、Twitterや会社HPより何でもお気軽にご相談ください!
2023年に入ってから、様々な企業や自治体の方から訪日インバウンドに関する相談を頂いておりますが、まだまだ足りておりません!また、訪日メディアtsunaguJapanを活かしたアライアンスなど、様々な提携も検討できる土壌がありますので、是非お気軽にご相談いただければと思っておりますm(__)m
Twitterではnoteよりも更新頻度多く観光やインバウンド、越境ECのことなどを気軽につぶやいていますのでぜひフォローください!