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私なりの「アジア版NATO」と「日米地位協定改訂」について
1 はじめに
言わずと知れた、石破新総理が、総理大臣就任直前に掲げた、外交政策上の目標である。国内外ともに慎重・否定的な意見が目立つように見えるし、私自身もどの1つもできない、と思っている。ただ、将来の日本の安全や地域の安定をどのように保つか、という現状に一石を投じるものと捉えられ、その点において価値があるもの、と考えている。
「アジア版NATO」や「日米地位協定改訂」のできあがりの絵姿を妄想するも、ハドソン研究所のホームページで紹介されている論考だけでは情報不十分である。よって、「実現不可能」とこの段階で断じるのは失礼、とも思っている。「アジア版」なので、NATOの形成している条約、協定、機構、運用とは全く異なる形でも良いだろう。「日米地位協定改訂」に関しては、論考では沖縄県知事等が要請している刑事訴訟に関する改訂には一切触れられていないが、当該事項の改訂にも取り組むだろう。米国としても、兵士(隊員)の人権や安全を守ることが最重要であるも、沖縄県の住民感情をより改善させることが必要と判断し、両者を満たす解決策を定めて方針転換する可能性も否定はできない。いずれにせよ、できあがりの絵姿をどのように妄想しても、この2つの実現は極めて難しいと思う。
他方、地域や世界は、より不安定に向かいつつあり、現状と将来を踏まえ、如何に備えるかはなお重要な課題である。中露朝の協力は、ロシアは対ウクライナ戦の巻き返しのため、中朝への依存を高めており、その結果協力関係が進展・拡大している。イスラエル・ガザ・レバノン・イラン等情勢の悪化に伴い、中東への各国の対応、また反米・反西側の気風が今後さらに進む可能性がある。「防衛力の抜本的強化」等が進む中、今の方向性だけで十分、との評価こそ、不適切と思う。その先に具体的な目標を置くことは非常に重要であり、そこが政治の役目でもある。
本稿では、打ち出された「アジア版NATO」や「日米地位協定改訂」は、実現するとすれば、どのような形に収まるだろうか、という観点で、以下のアイデアを紹介したい。
2 アジア版NATOの絵姿
NATOはその時代や評価する人の立場によって評価が分かれるかもしれないが、米欧では「史上最も成功した同盟」との評価が大勢である。NATOが成功したと評価される、「主敵の侵攻及び第3次世界大戦の発生を抑止した」ことと、「加盟国の一体化・域内安定化に寄与した」ということを、アジアでも実現したいという思いから「アジア版NATO」という主張がなされていると解する。
アジア版NATOの絵姿(私論)から述べると、日豪+米が中核となり、米同盟国・同志国としての+英仏加新(ニュージーランド)、国情が許せば+韓比、あたりの加盟国で構成されたものが現実的である。台湾の加盟は、態勢構築の趣旨のほか、台湾を排除することにより逆に地域の不安定を招く恐れがあることを踏まえると、加盟を前提として考えるべきである。
当然、形ありきというより、どのような集団防衛態勢をとるか、という話がまずあるべきであり、そこに理念等が必要になる。主敵は中国(+露朝)になるが、現状との差が見え難い。他方、現行の米国を中心とした「ハブ・アンド・スポークス」の形との差という点で述べれば、米国主導から当事国・米国共同になる点は、今との大きな違いとなる。よって、アジア版NATOはそういった理念のもとで進められることになるもの、と考える。
NATOの創設も、そもそもは英仏の発意から始まっている。石破総理が論考で言及する拡大抑止に関連するが、冷戦時代に行われた1980年代の米国の中距離核の独等への配備は、英仏独がソ連中距離核戦力に対し危機感を抱いたことがきっかけであり、配備先各国は国内の反対を押し切って配備を実現させた。脅威への対応に際し、当事国が加盟国内の対立関係を超えて米国の働きかけに先んじて努力することが、地域の安定にとって重要なポイントになる、ということをNATOの歴史は教えてくれている。
3 日米地位協定の改訂と構想の幅
アジア版NATOの実現を目指すのであれば、日米安全保障条約はアジア版NATOの条約に置き換わり、新たな「アジア版NATO地位協定」に置き換わる、と考えるのが自然である。
日米地位協定の改訂は、現実的にそんなに頻繁にかつ容易にできないことも踏まえる必要がある。最難関は米国議会の承認であり、議会を通せないような改訂案は、外交交渉において米国政府が認めない。改訂したい内容が米国にとってどのようなメリットになるかが明確でなければ通らないと思う。日本の国会でも通せるのか、ということにも直面しなければいけない。
かかる観点から、日米地位協定の改訂は、新たな「アジア版NATO地位協定」を目指す文脈で考えることが、外交政策上の目標の一つとして掲げた意義を踏まえると、実現可能性の見込みが若干あり、かつ自然である。
その絵姿、となるのは、集団防衛態勢をより強固にするため、加盟国間の軍や関係者の往来や展開等がより円滑化する趣旨の内容に改訂される、ということになる。その中で、「片務的」と言われる米国等他加盟国の防衛義務をどのように条約上規定するかに応じて、地位協定上の各国の立場が明確になり、それに応じて地位協定の中身がNATO寄りになるのか、それとも現行の日米安保寄りになるかが決まるもの、と思われる。アジア版NATOの趣旨を踏まえると、前者を目指すことになるだろう。
一方で、多国間集団防衛条約の締結や地位協定改訂等に向き合わなくても、実は現行の枠組の中で一程度のアジア版NATOの実現は可能である、との見方とやり方もあり、それが可能であれば「アジア版NATO」と「日米地位協定改訂」を切り分けて考えることもできる。具体的には、現行の「日米地位協定」、「国連軍地位協定」、「円滑化協定」等現行協定を政策的に最大限活用するとともに、アジア版NATOに加盟するような国々の間で、各レベルで調整・協力等を行う対話の枠組(例えばQUADやAUKUS等)を創設・整理することにより、一程度のアジア版NATOとも言える態勢を構築することもできる。そうすると、日米地位協定の改訂は、見直す必要はないものの、見直すにしてもより改訂内容を絞ることもできる。ただ、そういった小規模改訂は、大規模改訂と異なり、米国が取り合わない可能性が高い。
4 おわりに――如何に地域の各国民と危機感を共有できるか?
上述の議論を以下の表に整理した。
![](https://assets.st-note.com/img/1729378536-bsDMpPXHTgowq4hRUkFWYV1y.png?width=1200)
表の上部のようなアジア版NATOを目指すなら、実現すれば世界史・日本史上の一大イベントになる。表の下部のような絵姿の場合、アジア版NATOと呼べるに至るかは更なる研究が必要であるが、一程度は抑止効果を上げることができると思う。このように整理すると、台湾加盟、日韓関係安定化、日本国内の受入負担増加による国内の摩擦増加、法的枠組見直し等、多くの困難が予想される。いずれを目指すにせよ、それなりの決意・覚悟、知略をもって政権は取り組む必要があるだろう。
決意や覚悟、知略という点で、NATOの歴史は参考になる。冷戦時代を振り返ると、関係国をNATO創設に至らしめ、かつNATOを機能する同盟に深化させた原動力は、全加盟国でかつ各国民レベルで共有された危機感・危機意識にあったと思う。1948年ベルリン封鎖等をはじめとするソ連の圧力やソ連画策による東欧各国の共産化に対する不安、圧倒的に優勢なソ連等通常地上戦力の侵攻の脅威、1950年代前後以降からの米国本土を直接脅威にさらす核と大陸間弾道ミサイルの脅威、キューバへの核ミサイル配備の脅威、米国の離反を誘発しかねない西欧を狙いとした中距離核戦力強化の脅威等を、国民レベルで危機感を共有しかつ対応の必要性が浸透した結果が、今日のNATO中核国間の結束と機構の評価に至っている。
アジア版NATOと日米地位協定の改訂も、それを動かす力は、関係国の国民の危機感であり、その危機感や対応の必要性を、政治指導者が如何に説明し理解を得ていくか、に尽きる。冷戦構造が顕在化する過程や環境と今日の米中対立構造や環境はかなり異なっていると思うも、それでも、当事国と国民の危機感や主体的な動きが必要な点は、おそらく変わりない。
中国の局地優勢は年々拡大しており、冷戦時代のソ連の局地優位の態勢に類似してきている。核戦力強化の兆候も見られる。より良い安全保障態勢を如何に構築していくか、今後の政策を見守りたい。
【参考文献】
l Hudson Institute, “Shigeru Ishiba on Japan’s New Security Era: The Future of Japan’s Foreign Policy”, Sep 25, 2024;
https://www.hudson.org/politics-government/shigeru-ishiba-japans-new-security-era-future-japans-foreign-policy (on Oct 19, 2024)
l 佐瀬昌盛『NATO―――21世紀からの世界戦略』文春新書(1999)