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(前篇)IEOの残念な出落ち感とその可能性

TL;DR

Initial Exchange Offering(IEO)というワードを耳にした方も多いかと思う。

IEOは論理的にはICOのリスクのほとんどを解決できる手段であるが、現実的にはトークンの違法な取引所上場手段として、あるいは、そこまで悪質でなくとも上場後のトークン価格の吊り上げ手段と化しており、実際、上場直後に公開価格の1/10にトークン価格が下落して投資家に損害を与えている例も出現しつつある。

国内でも法改正を控え、登録事業者たる取引所自らが審査し売出しを行うIEOは金融庁や消費者庁にとってもコントロールしやすい、より好ましい手段となるはずが、現状のスキームのままで輸入されるとなると既存のICO以上に警戒せざるを得ないという結果になってしまうのではないだろうか。

IEOの定義

実はIEOの明確な定義は存在しない。嚆矢たるBinance LaunchpadもHuobi PrimeもIEOというワードは用いていない。

字義通りに捉えると取引所で行われるトークンオファリングとなろうか。

共通項を抽出すると、取引所(Exchange)が案件の審査を行うこと、販売先が本人確認(KYC)済みの同所顧客に限定されること、速やかに取引所内での当該トークンの取引が可能となることが挙げられる。

その他、取引所のコンプライアンスやセキュリティへの対策状況にも依存するが、諸々のマネーロンダリング対策(AML)が適用されること、各プロジェクト個別の送金方法や資金管理と比べてセキュリティ面での改善なども期待できる。

対象プロジェクトが詐欺ではないと証明されること、資金を窃取される恐れがないことだけでも、投資家保護の観点では大きな前進ではあるのだが、発行体にとっても反社会的勢力がステークホルダーに加わる恐れがないこと、結果としてマネーロンダリングを防ぐという社会的意義もあり、いいことづくめのように見える。

IEOの現実

概念上はいいことづくめのIEOではあるが、現実にはそうなっていない。

取引所が審査を行うことは、取引所が審査リスクと業務上の負担を引き受けることを意味する。結果として、リスク回避と経済合理性を考えれば、案件の大型化は免れない。

一方でトークン価格をコントロールするため、売り出すトークンの全発行数に対する比率や調達金額は低目に設定される。

実際、IEOの先駆けとされるBitTorrentは18年もの歴史と1億人以上と言われるユーザ規模を持つ、実績ある老舗サービスであり、そのトークン化は大規模化して然るべきものとも言えた。

売出しの調達金額は8億円弱と比較的少額ではあったが、問題はそのトークン全発行数に対しての6%という割合だ。

売出しの段階で既に約130億円の時価総額だったわけだが、IEO直後の値上がりで一時1,000億円を優に超えることとなった。(BitTorrentのトークンは発行上限数の21%のみが発行・上場されており、各種トークン価格情報サービスで表示される時価総額はその21%に対してのものという点は要注意。他のIEO案件の多くでは予定数の全数が流通されないかたちで発行されており、時価総額も全数に対してのものとなっている)

「え、21%? 6%だけ売り出されたのじゃないの?」と賢明な読者であれば思われたかもしれない。

実は、BitTorrentはIEO実施の3ヶ月足らず前に特定少数の投資家向けにトークンを割り当てている(Private Sale)、それ以前のSeed Sale(時期不明)、AirDrop(不特定多数にトークンを配布する手段)で配布されたトークン全てが、IEO直後から取引所で取引可能となっている。

要は、Private Saleに参加した投資家は3ヶ月足らずのうちに多額のリターンを得ることができたわけだ。

さすがに後ろめたさがあったのか、Private Saleのトークン価格はIEOでの公募価格に対して1.5倍に設定するというトリッキーな設定となっている。

とはいえ、Private Sale参加者は3ヶ月足らずの期間で7倍前後のリターンを得ることが出来たのではないかと思われる。

BinanceやBitTorrentにどのような意図があったかは不明だが、この錬金術的な手法の成功は仮想通貨界隈の山師たちを大いに魅了し、ICOブームのときよりも、経済条件的には悪質なIEOが続々と産み出されることとなる。

長くなったため、続きは後編に。

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