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「香りにまつわる思い出」 ~コーヒーとアイスケーキ~


幼いころの思い出が、香りとともに
ふっと、よみがえることがある。

何かの拍子、香りをかぐことによって、
プルーストの「失われた時を求めて」
ではないが、
幼児のころの記憶が、突然よみがえったりする。

路地の奥に、小さな印刷所があった。
そこを通る時、漂ってくるコーヒーの香りを
生まれて初めて知った。

その時は、コーヒーというものを知らず、
後にコーヒーだと知ったわけだが、
何という異国情緒あふれる香り、
世の中に、こんなものがあるとは信じがたかった。

後年、毎朝飲むドリップ式のブラックコーヒーであるけれど、
あの時の濃厚な、エキゾチックともいえる深い香り、
アロマというのか、フレーバーというのか、
濃く煮詰め、焦げたような
本物のコーヒーが持つ深いコクを嗅いだことがない
のは、なぜだろう。

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香りにまつわる幼いころの記憶は
他にもまだある。

木べらのついたアイスキャンディーのことを
ぼくらは子どものころ、アイスケーキともいわず、
単にケーキと呼んでいたが、

黄緑色をしたあの四角いケーキの、
独特で涼やかな香りは、
今どこを探してもない。

それに、ゴムで包んだ団子状の、あの爆弾ケーキも。
キンキンに冷やされたそれを持つ手が、
あまりに冷たくて持ちづらかったこと、
しかもそれをかじる時、
頭がずきずきした記憶がある。

今ではもう使われなくなった人工甘味料サッカリン
という名も、
今となっては懐かしいような、怖いような。

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