ハロウィンのやつ
「……ママ、ただいま。一年ぶりだね」
「裏口が開きっぱなしだったよ。表は鍵がかかってるのに不用心だなぁ」
「なあ、こっちを見てくれよ。なんの料理か知らないけど、一年ぶりだぜ?」
「……わかった。続けてくれ、勝手に話すからさ」
「その……家に戻りたいとか、そう言う話じゃないんだ。虫が良すぎるよな」
「ただ謝りたくて。全部ママがあってた、俺が間抜けだった」
「小さい頃、俺がケントに……高校ダブりのワルに殴られた時、ママ言ってたよな。『復讐なんて考えるな、正しく生きて見返せ』って」
「でも俺の頭じゃさ、たいした学校に行けない。タクシードライバーや清掃係じゃあいつらを見返せないじゃないか」
「いや、もちろんママがあってる……でも、我慢できなかった」
「ママのためなんて言う気はない。全部俺のためだ……だから罰が下った」
「ギャングの仕事なんて、簡単だと思ってたよ……まさか、子供も撃つなんて……」
「八歳くらいだった……女の子」
「風邪薬を持ってた。たくさん飲んで、キマるやつ。だから兄貴が隠れて売ってるんだろうって」
「俺は考えすぎだって言ったよ。でも兄貴もキマってたから、そうなると止められない」
「何度も言った、家族のためだって……何度も言ったんだ……言ったんだ……」
「そしたら……覚悟がないって……」
「だから……」
「俺は……」
「……」
「あの日から……何をしてても、あの女の子を思い出す」
「……あと、エダも」
「元気かい? 最後に会ったのは、まだ生まれたばかりだったよな」
「……最低の兄貴だよ、ホント」
「そうだ。これ、エダにあげてくれよ」
「さっきそこの道で女の子に貰ったんだ。狼の仮装しててさ、ハッピーハロウィンだって。忘れてた、何か持ってくればよかったな」
「でもあの子一人だったな……あぶねえよなぁ、せめて五、六人で回らなきゃ」
「話が逸れたね。とにかく、家に戻りたいなんて言わない」
「でもギャングは抜けるんだ。次送る金は、ちゃんと綺麗なやつだ」
「受け取って、エダの学費にでもしてくれ」
「いや……やっぱりどうするかは、ママが決めてくれ」
「話は、それだけ。もう行くよ」
「ハグもなしかい?」
「……冗談さ」
「ママ、ただいま!」
「おかえりエダ。その様子だと、お菓子は大漁かしら」
「うん! みんなで分けたんだ。あとしょぼくれてたお兄さんにも」
「偉いわねえ。お友達は後でくるわね?」
「お菓子を置いてからねあ、お兄さん以外は。それ、チョコレートケーキ?」
「ええ。誕生日おめでとうエダ……狼の被り物は?」
「暑いから脱いじゃった」
「ダメよ。悪い霊に見つかっちゃう」
「仮装しなかったら見つかるの? お兄ちゃんにも会える?」
「ええ、ろくでなしのアニキが攫いにくるからね」
「会ってみたいな」
「止めときなさい。ギャングがくる時は金を集るときよ」
「……ただいまぁ……」
「パパだ!」
「裏口からね……鍵なんて持ってたかしら。エダ、手を洗ってらっしゃい」
「はぁい」
「ただいま、ただいま……と。おい母さん、裏口が開きっぱなしだったぞ」
「あらやだ。いつからかしら」
「頼むぞ。娘八歳の誕生日に強盗に遭うなんて、笑えん」
「ごめんなさい。浮かれてる日だからこそ、気をつけなくちゃね」
「全くだ、今日は特に気をつけないと……よくないものが来るぞぉ……」
「なんたって今日は、ハロウィンだからな!」
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