さかなとたわむる 其の八 脇役?端役?あなたの足元には???
もうだいぶ前の話ですが、コブシメの産卵を観察しに行った時のことです。産卵行動中のコブシメは、非常に近くに寄れるため、人気が高く、じっくりと観察することが多いのです。コブシメはサンゴの隙間に産卵するため、観察は当然サンゴにのらないよう細心の注意を払っていきます。割れるサンゴは皆さん比較的注 意をして下さるのですが、実はこのサンゴの周囲には、ヤギの仲間が非常に多く生えて(?)います。
事前の説明の仕方もあるのでしょうが、コブシメの観察に夢中になるあまり、知らず知らずの間に、他の生物たちを虐待したりしていませんか?
「そんな事はない!」と皆さんおっしゃるでしょうが、ちょっと自分たちの足元を見なおしてみてください。
何か大きな目的(対象を絞った撮影、観察など)を持ってダイビングをすると潜り始めたその瞬間から、頭の中は目的でいっぱいです。(さっきの話で言ったらコブシメですね)
そうすると、いつの間にやら足元に息づいているヤギの仲間のことをすっかり忘れてしまうのです。バキバキいわさんばかりの勢いでヤギを踏みしめ、けたぐりながらコブシメへと接近していくのです。
哀れな被害者はヤギだけではありません。ヤギに住んでいるガラスハゼやキヌヅツミガイの仲間、その周辺で穴を掘ってすんでいるテッポウエビの仲間や共生ハゼの仲間。みんな住処を思い切り踏み荒らされてしまうのです。
それどころか、挙句の果てには、コブシメに近づくのに一生懸命なあまり、彼らの産卵場所であるサザナミサンゴにさえ思い切り良く乗っかってしまうのです。 産卵しに来たはずなのに、それを見に来たはずなのに、何時の間にか思い切り彼らの生活を脅かすことにもなってしまいます。
コブシメ狙いに限ったことではありませんが、意外といろんな生物を虐げながらダイビングをしていることに気づきませんか?
水の中には脇役はいません。それぞれの生き物がそれぞれの繋がりをもってひとつの世界を紡ぎだしているのです。
もちろん、お客様の好き嫌い、主な狙いといったものはあるでしょうが、その繋がりにも目を向けると、もっといろいろな面白いものが見えてくるはずですよ。
1999年~2002年に書いていたコラムに、加筆、修正をしたものです