少年の罪はさばけない『天使のナイフ』
こんにちは、石川由弥子（ゆみこ）です。
私は、法律がきっと自分を守ってくれるものだと思っていました。自分たちの権利を守り、侵害されないようにしてくれるものだと。
しかし、今回紹介する作品はその法律によって、阻まれることのある事実があることを知ってしまいました。
取り上げるテーマは「少年法」。未成年を守るべき法律が、逆に隠れ蓑になってしまうこととは？
今日は薬丸岳さんの小説『天使のナイフ』をご紹介します。
※なお、本作の中で描かれる少年法と現在の少年法は改正されている場合もありますのであしからず。あくまで本作の中での少年法として捉えてください※
『天使のナイフ』のあらすじ
天罰か？ 誰かが仕組んだ罠なのか？ 生後５か月の娘の目の前で桧山貴志の妻は殺された。だが、犯行に及んだ３人は１３歳の少年だったため、罪に問われることはなかった。
４年後、犯人の１人が殺され、桧山は疑惑の人となる。「殺してやりたかった。でも俺は殺していない」裁かれなかった真実と必死に向き合う男を描いた、第５１回江戸川乱歩賞受賞作。
『天使のナイフ』のおすすめポイント
本作は、少年たちが起こした殺人事件をきっかけに、少年法のあり方が問われた作品です。
少年法で守られた未成年の加害者が殺され、被害者家族の桧山が疑われるところから始まります。
フィクションではありますが、現実問題、少年法を取り巻く問題というのはノンフィクションではないかと思います。
重いテーマではあり、心が苦しくなる場面も多かったのですが、この気持ちを分かち合いたく、ご紹介させてください。
1. 立場の違い
本作を読んで、「立場によって意見がさまざまである」ということを強く感じました。加害者・被害者遺族・弁護士・警察・マスコミの立場とそれぞれの考え方が浮き彫りとなっていて、その違いに辟易しました。
「殺人事件が起きた」という事実はあっても、それをどう捉えるかはかなり主観が入るものだと感じました。
みんながみんな、自分の都合の良いように捉え、見たいことだけ見ているのです。
2. 世の中は理不尽
常日頃から世の中は理不尽だということ思ってはいましたが、特に、被害者遺族の立場から見ると、その理不尽さはひとしお。法律というものは、生きている者を守ってくれるが、死人は守ってくれません。妻と子を同時に亡くした桧山は犯人の情報すら、知ることはできないのです。
法務省によると、少年法とは「少年の健全な育成を図るため，非行少年に対する処分やその手続などについて定める法律」とのこと。つまり、加害者側を守るための法律なのです。
更正したのか、していないのか、反省しているのか、していないのか。桧山が加害者少年たちの今を知ろうとすることが更正の妨げになる、という考えというのです。
3. 弱者とは？
法律とは弱者救済のためのものだと思っていました。この事件でいう弱者とは、一体誰なのでしょうか？果たして、本当に少年たちなのでしょうか？ 「被害者の知る権利」はないのでしょうか？
自分の潔白を証明しようとも、被害者遺族がアクセスできる情報などとてもとても少ないのです。法律によって、見る人によって、「弱者」は変わってくる。とても考えさせられました。
突きつけられたテーマは重く
本作は立場の違いによって見えてくるテーマが違います。
被害者遺族にとっての事件、加害少年たちにとっての事件、そしてマスコミほか第三者たちにとっての事件。
起きてしまった事実は変わらないけれど、それが起きた背景にはこれまた複雑な事実が隠されています。被害者家族も、加害者も、生きていかなければならない。悲しいけれど亡くなった人は、戻りません。
どんでん返しもあり、ミステリとしても物語としても面白かったのですが、知ってしまった理不尽な現実と法律の限界がとても重く残りました。
みなさんはどう読みましたか？
ではまた〜