音楽のアジャイル化が止まらない
`アジャイルでは、仕様や設計の変更があることを前提に開発を進めていき、徐々にすり合わせや検証を重ねていくというアプローチをとる。`
上記の通り、アジャイルは主にソフトウェア開発の場で使われる用語であるが、「内容の変更を前提として検証を重ねて改善を図る」というソリューションは別にソフトウェア業界だけの話ではないだろう。
これは私の想像だが、今までの音楽業界は順番はともかく、作詞者が詞を作り、作曲者が曲を作り、歌手が歌うという工程を各フェーズごとに行い、音源を作成しCDで世に排出していたと思っている。
そして、大雑把であるが曲の編成はイントロ→Aメロ→Bメロ→サビで以下はAメロ→Bメロ→サビ(Cメロ)のループだろう。
しかし、音楽ストリーミングサービスが世に浸透し、YouTubeなどの広告でMVが流れるようになり曲の編成に大きなインパクトが起こった。
ストリーミングでより多くの人々に自身の曲が聴かれる可能性が増え、それらのユーザを掴み取るためにイントロが短くなった。
場合によっては、最初にサビを置くことでもっともインパクトのある部分をユーザにぶつけて注目を引くという手法も多く取られてきた。
そして、2021/2/14にそれの集大成のような音楽が日の目を浴びた。
この和ぬかさんの曲は2020/12/3にTikTokに最初の部分(1番のサビ)が投稿されたのが始まりだ。これが和ぬかさんの初投稿であり、爆発的に人気を得て2021/2/16現在、約62万いいねを記録している。
そして、2021/1/30に2番のサビをTikTokに投稿している。
この間に彼は4つの曲のサビを投稿している。
そして、初投稿であり最もバズったこの曲のフルを2021/2/14にYouTube及び音楽ストリーミングサービスで配信した。
当然、ユーザに与えられた曲の事前情報は2つの素晴らしいサビのみであるが、それはこの曲が今後たどる道を表すには十二分なものだと思う。
配信された曲はイントロなどなく、最初に最もバズった1番のサビから始まる。
まさにアジャイル的な音楽ではないだろうか。
仮説検証をもとにユーザのニーズにあるMVPをTikTokで達成し、それに付随する形でBメロ、Cメロが生まれユーザのもとに届く。
TikTokはレコメンドはされるが、自分の意思とは関係なくシステムから選ばれた動画を垂れ流されるのが特徴のサービスであり、それゆえに多くの層の多くの人々が仮説検証に貢献してくれる。
TikTok発で国民的人気を得ている楽曲の代表例は以下の2つだろう。
これらの曲は当然ではあるが、最後まで完成した段階で世に出された作品である。
しかし、寄り酔いは同じ場ではあるが未完成のまま世に出され研磨された楽曲だ。
今後もこのようなアプローチの楽曲は現れるだろうし、この手法が一定の地位を確立するのはソフトウェア開発の分野が示してくれている。
あらゆるジャンルがアジャイル化していったとき、ユーザも制作者もその目の回るような速度での需要供給の波に翻弄されるかもしれないが、MVPを捕らえられたならそれは両者ともに期待に満ちた世界になるのではないだろうか。