
will の概念は「主語の動態についての話し手の確信」
英語教育論、英語文法論で知られる田中茂範氏(慶應大学教授)の本を見ていたら、will について、氏の説明が進化していることに気がついた。
2008年の本では、
「willは現在の意志・推量を表す」
となっていた(田中茂範『文法がわかれば英語はわかる!』NHK出版、2008年、34頁)。この説明だと、「意志・推量」が誰によるものなのかがはっきりしない。
ところが、2013年の本では、
「will は発話時における話者の『意志』か『推量』を表す」
となっている(田中茂範『表現英文法』コスモピア、2013年、280頁。太字は引用者)。will は主語の意志や推量ではなく、話者の意志や推量を表す、と明記されたわけである。
しかし、will について、その他の説明部分には大きな変化がないように見えるし、そこに問題が残っていると思う。
① どちらの本も、will が表すのは「意志か推量」であるといい、意志の他になぜ推量の意味もあるかが説明してある。だが、氏の説明を読んでも、意志と推量の違いがピンとこない。
② If it rains tomorrow, I'll stay at home. のように、条件のif 節ではwill を使わないが、その理由について氏は次のように説明している。
○「時・条件などを表す節の中には、推量の余地のない確定的な内容が含まれるため、推量の意味合いがあるwill は使えない」(『文法がわかれば...』2008年、前掲、35頁)
○「条件のif 節では推量を含まない内容(条件)を語るため、『推量』のwill は使わない」(『表現英文法』2013年、前掲、282頁)
上記の①、②とも、説明が曖昧でわかりにくい原因は、共通していると思う。
その原因とは、文の中で will が表す認識上の機能、つまり意味を分類しようとする発想が先立ってしまい、will が本来どのような概念であるかを解明しようという意識が薄いことである。
will の概念は、「主語の動態に関する話し手の確信」である。
この概念は、may, can, must など、話者の判断の揺れを表す同類の概念との対比において定めることができる。
「主語の動態に関する話し手の確信」という will の概念から、話し手の「確信」の度合いによって、意志、推量、予測などの意味が出てくるのである。
条件の if 節で、主語の動態について話し手の判断の揺れを表す「助動詞」がなじまないのは、 if 節は客観的な前提条件を確定的に設定するものだからである。
氏の『表現英文法』(2013年)の will の項には、「will が表す4つの意味」という相関図が掲載されている。中心にある will から、「意志の表明」「推量」...といった四つの「意味」が 放射状に派生している図である。281頁。
ところが、四つの「意味」の中心にある "will" のところには、何も書かれていない。このことが、本書の弱点を象徴している。
中心にwillの概念として、「主語の動態に関する話し手の確信」と書きこめばよかったのである。