eスポーツにおけるNGな炎上対応とその対応策[主にチーム目線]

こんにちは。弁護士の松本です。近頃、(とはいえ昔からですが、)選手やストリーマーなどのいわゆる炎上事案が相次いで報告されています。これに対するチームや選手の対応も千差万別ですが、eスポーツ回りでよくお仕事させていただいている関係上、こういった事案への対応についてアドバイスをさせていただくこともあります。ピンチはチャンス、ではないですが、よくないことが起こった場合に、きちんと対応をして関係者から「このチームはきちんと対応できている」と思ってもらえるかは、チーム運営においてはとても重要だと考えています。

今回は、数ある対応の中で特にNG対応だと思うポイントを整理しました(随時追記します)。

1:中途半端な情報を出す

リリース文の基本的な報告フォーマットは、

①なぜその契約違反行為を認識したのか(経緯)
②調査方法
③調査から得られた結果
④チームとしての見解・処分について
⑤今後の対応

という順序できちんと整理されるべきかと思います。しかし、このような基本が守られず、チームや選手から、とにかく断片的な情報を出したり、本質的な部分をあまり詳述しない(=読んでも一体何が起こったのかわからない)報告文が出ることがありますが、基本的にこれはNGです。なぜならば、以下の理由があるからです。

  • そもそも、ファンは、第三者ではなく、チームや選手本人から真実を知りたいと思っている

  • 納得できない/詳しく知りたい人たちは、ネットでさらに情報を調べて、事実・虚偽が混同している第三者の不明瞭な情報を鵜呑みにしてしまうリスクがある(これが最も危険だし、レピュテーションをたださげるだけ)

例えば、ある選手がゲーム内でチートを利用していることが発覚し、調査を行い、契約解除処分としたとしましょう。その場合に、契約違反により解除した、とのみ報告してしまうと、ファンとしては、どのような契約違反があったのか不思議に思い、インターネットで別の記事を調べて読みに行くと思います。そうすると、告発されたツイートや、事実とは異なる内容を含まれた文章をファンが目にすることになります。チームとしては、ファンが、チームや選手に対して悪意を持って書かれた情報を読んでしまうのは、不本意ではないでしょうか?
そもそも調査が完了していないのであれば報告を出すべきではないですが、もし急ぎで出す必要があるのであれば、まず中立的な立場であることを明記した上で、きちんと調査中の内容が含まれているので、どのくらいをめどに追加の情報を出す、ということを冒頭に記載しておくことが望ましいです。

また、リリース文のタイトルにも気を遣う必要があります。例えば、選手が未成年飲酒をしていた事案が発覚したとして、「○○選手の未成年飲酒行為について」とタイトルに書いてしまうと、チームのお知らせに永遠にそのタイトルが残り続けます。また、内容を読む人も、タイトルを見て、「あ、○○選手が未成年飲酒したんだな」という先入観を持って読んでしまうことになります(そのイメージを回復するのは思ったよりも難しいです。)。きちんと考えられている例は、「所属選手に関するご報告」といった形でフラットに説明しています。

アドバイス:
① 急いでリリースを出さずにまずはきちんと事実を把握しましょう。
② 先入観を持ってしまわないように、できれば外部の力を借りましょう。
③ リリース文のタイトルにも気を使いましょう。なるべく中立な書き方を

2:調査方法・情報ソースが不透明

リリース文の中には、そもそもどのようにしてチームが情報収集したのか、報告に至る事実の経緯を把握したのかが全く書かれていないものもあります。少なくとも、以下の点には注意すべきです。

  • 誰から聞き取りを行ったか:選手本人はもちろん、選手の言っていることが本当かどうかを確認できる材料(当時のテキストのやり取りや信頼できる知人からのヒアリングなど)を加えて、最大限事実を客観的に把握するように努めるべきと考えます。

  • 聞き取り等から得られた事実が何なのか:どの部分がチームの解釈で、どの部分が客観的事実(とおもわれるもの)なのかが不正確なものが多く見受けられます。調査結果を読んだファンや関係者が納得できるように、どこまでを調査して、どの部分は把握できなかった(が、おそらくこういう事実関係だと判断した)ということを明確にしておいた方が、チームとしてきちんと事実に向き合っている姿勢を示せると思っています。

アドバイス:
① リリース文の中には、どのような事実がどのソースから得られたのかをきちんと整理して記載しましょう。
② 実際に起こったことと、チームとして判断した(断定した)内容は区別して記載しましょう。

3:「被害者」への寄り添い方がよくわからない


チームとして、責任があると考えるのであれば、そもそも選手が行った行為が誰に迷惑をかけたのか、をきちんと把握して、説明を尽くすべきだと思います。さしあたり思いつくのはファンやスポンサーであり、彼らへの配慮ももちろん大事ですが、例えば、チート行為であれば、そもそもそのチートで不快な思いをしたプレイヤーにまず謝るべきでしょうし、試合での不正であればその対戦相手にまず謝罪をすべきでしょう。そのような説明がないままに、とりあえず謝る、だと、チームとしては場当たり的に対応したと批判されたとしてもおかしくはありません。

アドバイス:
① チームとして反省すべき点がどこなのかを正確に検討・反映しましょう。
② 誰が一番被害者なのかを考えることが大切です。

補足:選手らに対する処分の考え方

こういったコンプライアンス事案が発生したときに、多くのチームが悩むのは選手に対する処分だと思います。処分が重すぎる・軽すぎるという批判を受けて処分を検討しなおす、ということになってしまうと、チームに対する信用は大きく傷ついてしまうでしょう。
結論からすれば、選手に対する処分は様々な要素を検討して決定すべきだと思いますので、こう、という決め手はないのですが、多くのチームにアドバイスする中で判断基準として機能する要素を整理しましたので参考にしてみてください。

  • 選手が活動するゲームタイトルの環境:必ずしも正しいわけではないですが、ゲームタイトルによって、求められる清廉性は少なからず差があります。別のタイトルで同じような行為を行っていた選手間で、処分に違いがあることも実際にあります。また、タイトルのファンからの受け止められ方も大きく異なります。例えば、同一タイトルでの過去のコンプライアンス事案の処分とそれに対する反応(軽すぎる、重すぎる)を参考にすることが考えられます。

  • 発覚した時期:チームの活動時期によっては、例えば大会参加前、大会参加中、オフシーズン等、様々なシチュエーションがあり得ます。もちろん、それによってコンプライアンス違反の質に差が出るわけではないのですが、オフシーズン中の活動停止、という処分をしたとしても選手にとってはあまりインパクトにならない場合もあります(これが、結果的に軽すぎるという反応につながる可能性も)。

  • 対象となるコンプライアンス違反を行った時期:最近よく話題になるのが、選手として活動する前に行っていた不正行為や非行行為の責任をどうとるか、というものです。個人的には、チームが事前にきちんと確認していなかったとすればチーム側にデメリットになる責任の取り方をすべきですが、場合によっては確認しようがないこともあり、そのような場合にまでチームが大きく不利益を負う形の処分はとりづらいこともあります。また、選手の契約解除や活動停止に目が行きがちですが、そもそもチームがある程度事前に把握していたが「問題ないだろう」という判断で採用していたような場合には、チームによる選手契約の解除といった対応が解除権の濫用として無効になる恐れもあります。そのような場合は、そもそも選手の処分ではなくて、チーム自体の処分として整理することも考えられるべきでしょう。

まとめ

以上のように、炎上時のNG対応と対応策について述べました。実際に問題が起きた場合には、とにかく外部の協力者のサポートを得ることが特に重要だと思いますが、初期対応として今回の内容を参考にしていただければ幸いです。

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