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【掌編小説】根腐れ (705文字)

 水を遣り過ぎてはいけない。根腐れを起こしてしまう。土の表面が乾いたら霧吹きで葉に水をやればいい。冬は枯れたように見えるが、そう見えているだけだ。幹を押して柔らかくなっていなければ、生きている。屋内にいれて陽の当たるところにおいて、一週間に一度程度、全体に霧吹きで水を与えるだけで良い。

 そう聞いていたのに、また駄目にしてしまった。
 毎日、世話をしていないと不安になってしまうのだ。
 虫はついていないか、色艶は悪くなっていないか、異臭はしないか、水は本当に足りているのかーー少しでも乾いて見えると、与えてしまう。霧吹きではすぐに蒸発してしまう。まったく役に立っていないように思える。毎日少しずつならいいだろう。と、猪口で与えていたが、また駄目にしてしまった。

 根腐れというのは、一見枯れたようには見えない。静かに静かに進んでいく。
 そうして、全く成長を止めてしまっていることに気づいたときには、手遅れだ。
 ただ、そうして腐ったり枯れたりした姿は根を掘り返さない限りわからない。捨てるのも忍びないそれらを部屋の隅に並べ始めて、もう随分がたった。
 また増やしてしまったな。つぶやきながら抱えた鉢を足元に置く。もうこれ以上は置けない。六畳程度のこの部屋は、色艶の変わらない、生きているように枯れたそれらで埋め尽くされ、足の踏み場もない。根腐れを起こして染み出た腐敗水に足首まで浸かるこの部屋。大きな窓からはあたたかな日差し。傍らで艶めく黄緑色の葉を撫でる。なかなかうまくいかないな。溜息を吐き踵を返そうとしたが、足首が骨ごとずるりと抜けた。見ると、水面に腱や皮膚が揺らめいている。
 本当に、もうこれ以上置けないのに。

【了】

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