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GDPと比較した適正なIPO市場規模

GDP比較をしてみると、日本のIPO数は多すぎて、年間20~30件程度が妥当なのかもしれません。


日本のIPO市場の問題としてSmall IPOが多い、つまり小粒で、まだ企業としての体が整っていない企業がIPOをしているという批判があります。小さいといわれても、だれと比較するべきかという問題があります。ここでは、ほかの国と比較したうえで、どの程度小さいのかを明らかにします。もちろん他の国が必ずしも正しいわけではありませんが、一つの目安にはなります。

ここではIPOによる調達額を元に議論をします。公表されているIPOのデータをいろいろと調べたのですが、調達額は海外では比較的手に入りやすい情報ですが、日本のIPOについての情報サイトではそれほど収録されていないようです。
IPOが未来の投資のための資金調達の場であるならば、重要な指標である気がします。日本では資金吸収額として売出を含めた数値が収録されていることが多いようです。公募と売出は毛色が違うので、企業にとってのインパクトも異なります。

EYがさまざまな統計情報を出しているので、それらを用いて整理してみましょう。元資料はこちら。
なお、1ドル= 150円換算、1ユーロ = 160円換算で計算しています。

米国の市場規模

IPO関係の話題といえば米国と比較されることが多いです。ですので、米国のIPO市場を確認してみましょう。
2023年にも同様の情報が公表されていますが、この年にはArmという大型IPOがあったので、あえて2022年で説明をします。
2022年の米国でのIPO件数は133件で、調達額の合計は8.9Bドルつまり1.3兆円程度でした。ですので調達額で平均100億円程度のIPOが133件あったわけです。
もちろん平均値なので、大型IPOに引っ張られている懸念はあります。

ヨーロッパの市場規模

続いてヨーロッパです。IPO関係の話題は米国に注目が集まることが多いですが、ヨーロッパもそれなりの数のIPOがあります。
PwCの資料によると、2023年には107件のIPOがあり、総額10Bユーロの調達がされていました。日本円に直すと1.6兆円、1件あたり160億円の調達です。
1件あたりの調達額では米国より大きいですね。

日本の市場規模

ひるがえって日本に目を移しましょう。
KPMGの別の資料によると、調達額の中央値は5億円です。上述の米国、欧州の資料では平均値なので単純な比較ができませんが、かなり小さいことが分かります。
調達額が最も大きいのはインテグラルの124.8億円でした。これは欧州や米国の平均的なサイズです。
注目を集めたispaceの調達額は67億円でした。宇宙に飛び立つという夢のある事業の割には規模が小さいようです。

調達額でいうと、日本で例年注目を集める案件クラスのサイズが他の地域では平均的なサイズだと言えそうです。

また件数についても比較してみます。ヨーロッパの件数は107件でした。日本は92件なので、ほぼ同水準です。

経済規模との比較

EUの2023年GDPは18兆ドル、つまり2700兆円です。日本のGDPが600兆円程度なので、EU圏の経済規模は4倍あります。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/data.html
逆に言うと経済規模が1/4しかないのにIPOの件数が同水準なのです。

米国は28兆ドル、4500兆円のGDPに対して133件のIPOがありました。
日本の7倍のGDPに対してIPO数はわずかに30%多いだけです。

まとめ

もし経済規模とIPO市場の間に相関があるとすれば、日本のIPOはかなり多いことが分かります。
現状の1/7~1/4件程度、つまり10~25件程度が適正な件数であるといえます。
またIPOのサイズに関しても、調達額(つまり売出だけ)で100億円程度を集めることができるのが望ましいと考えられます。
20%程度の売り出しをするとすれば、時価総額500億円程度です。

もちろん、それぞれの国に適した金融システムがあるべきであり、他国との比較が重要なわけではありません。そういういみでは、一つの目安にすぎません。一方で、他国の情報は何らかの参照にもなり得ます。
小さなIPOを容認するのでしたら、その妥当性を提示する必要があるようにも思えます。

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