その男、今日も色白なり
女の私がうらやむほど色白な男がいる。
その男の名前は「ヨウ」という。
身長も高く、適度に筋肉のついた体格、そして整った顔のいわゆる「イケメン」である。そして、どこか品が良い。
私はホームパーティで何度かご一緒しているが、この男謎が多い。
いつ仕事をしているのであろうか、しょっちゅう旅行、ゴルフ、BBQなどに行き、アウトドアな生活をしているようであるのに、年中色白だ。
日焼けをしない、シミ一つない、アラフィフ男は「美肌」すぎて謎である。
そして行動や言動にも謎がたくさんある。
例えば、ホームパーティに来る際、いつも「少しだけ」遅れるのだ。
聞くと、今から皆で食事だというのに、蕎麦屋にいたらしい。「んー、天ぷら蕎麦食べてたから遅れたんだよ~」などと謎のことを言う。
なんで今からホームパーティーで、しかも結構なご馳走を用意しているのに『天ぷら蕎麦』を食べてくるのだろうか。
彼のその後の様子を見ていたが、お腹がいっぱいを理由に遠慮をしなければならないメニューも無さそうで、なんならシメのご飯もので1人ひとつのおにぎりを彼は2つ食べていた。
なんだかいつもそのような感じで、言動と行動が謎であり、どこからやって来るかはわからないし、実際彼がどこに住んでいて、どんな生活を送っているのかは誰も知らないのである。
だが、何者かはよくわからないが経営者であり、何となく頭は良いのではないかと匂わせる発言は時々見受けられる。
その後も何度かホームパーティでご一緒する機会があり話を聞いていると、彼はかなり自由を愛する人だという事が分かってきた。
「自由人=縛るものが嫌いだ」
彼は冬の外出は防寒用のブルゾンに防寒用パンツとかなりの重装備であるが、これはあくまで外出する際のみで、家に一歩入れば、一糸まとわぬ姿……いわゆる「裸」で過ごしているそうだ。そう、彼は縛るものが大嫌いなのだ。
そんな彼は料理が得意だ。ホームパーティでもその腕を披露してもらったことがある。冷蔵庫の余った食材で作ったオリジナルのレモンパスタは絶品だった。
ホームパーティではもちろん脱いでいないが、家でキッチンに立つ時はもちろん「裸」だそうだ。
私は勇気を出して一つ疑問に思ったことを聞いた。
「裸」という事は……大事な部分に油が飛んで火傷することがないかという事を。
一歩間違えば大惨事だ。
「ヨウさん、油などが飛んで熱っ!! とかなったり、ソコんとこは大丈夫なんですか?」
そう聞くとヨウさんは
「あーー、ソコんとこ前に出てるもんねぇ。うん、大丈夫だよーー」特に気にする様子もなくサラッと答えてくれた。
私は普段キッチンに立つ際、服を着てエプロンを付けていても油ハネにはいつもやられる。
裸体に油が飛んでこないという彼はかなりの反射神経の持ち主らしい。
彼については謎が多いだけに想像が膨らむ。
想像してみてほしい、例えば彼の家でのホームパーティにお呼ばれしたとする。
その際、その家のルールが適用され「一糸まとわぬ…」彼がキッチンに立つことになる。
もしかしたら申し訳程度に前にはエプロンなど付けているかもしれないが、キッチンに立つという事はこちらから見えるのはバックショットである。
ご挨拶は玄関からではなく、彼のお尻の間から、ちょこんと「こんにちは」になるであろう。
もし彼の家でホームパーティを開催する際は、家のルールについてとやかくは言えない、だが出来ることなら、こちらは目線が低くなる座布団などでなく、お尻より目線を高くするためにテーブルと椅子でのパーティを希望する。
そして、眠るときのことも聞いてみた。
眠る際に何も付けないという方は時々聞くから、きっと彼も日中の生活スタイルの流れで「裸」でベッドに入るのだろうと思った。
だが、意外にも答えは違った。
彼は眠る際「ハラマキ」だけ付けるのだそうだ。
想像してみて欲しい、この色白で少しマッチョでイケメンの男が「ハラマキ」だけを身に着けて眠りについている姿を。
どうやらお腹を冷やしてはいけないという理由らしいが、それより冷やしてはいけないところがあるのではないであろうかと私は思う。
そんな彼は、一時期ふんどしを身に着けていたそうだが、家では良いのだが、外出する際ズボンのチャックにふんどしの前側のペランとした部分が引っ掛かり、チャック問題によりふんどしは卒業したそうだ。
ふんどしをやめて、そして縛られたくない彼が外出時に身に着けるパンツとはどんなものなのか。
私は彼に今日はどんなパンツを履いているのか聞こうと思ったが、どういうお上品な聞き方をしたとしても変態っぽくなるのでやめた。誤解のないように言っておくが、見たいわけではない。
その男、今日は席一つ離れた向こうで優雅にオペラを鑑賞しておられる。
時々目を瞑る姿は、真剣に聞いているのか眠っているのか謎である。
謎に満ちたその男、今日も色白なり。
そして私は今日も平和で、楽しく、幸せな一日を過ごせそうだ。
≪終わり≫
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