精彩(エッセイ)
今朝は起きた瞬間から精彩を欠いていた。心の準備もできぬまま家を出て、気がつけば職場に着いてしまった。始業時刻になっても仕事の続きが思い出せず、小一時間デスクで半フリーズしてしまった。こんなに身が入らない仕事は久しぶりだ。
午前中に積み込み作業があることもすっかり忘れていて、Tシャツが汗で着られなくなってしまった。昼食に昨夜作った「えびめし」を食べ、午後も集中力を欠いたまま時間だけがすぎ、慌てて簡単にとれる小さな契約だけ取って帰った。
帰りの電車に座っていると、隣のスポーティな身なりの女性が、眠ったまま肩に凭れかかってきた。些細な下心で、払い退けないまま最寄駅まで過ごして降りた。精彩を欠いた日に限って劇的な瞬間はやってきて、私は人生の好機を逃していくのだろう。