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Chim↑Pom『HAPPY SPRING』

広島・長崎で原爆が落とされた第二次世界大戦の後、核戦争の危機が2度あった。一度目はキューバ危機、二度目は現在進行中のウクライナ戦争だ。原子力発電所の事故も二件。日本→ウクライナ→日本→ウクライナ。世界は依然として原子力・核兵器の沼の中にいる。

このタイミングでChim↑Pom『HAPPY SPRING』を見たのは、何の巡り合わせか。森美術館で開催中のこの回顧展は、自分にとってショッキングな体験だった。その作品ひとつひとつの衝撃で、心に痣ができた。

Chim↑Pomは2005年に結成されたアーティスト集団だ。作品はプロジェクトベースのものが多い。サブカルチャー界隈で時々、この人を食ったような文字面は目にしていたものの、実際に作品を見に行くのは初めてだった。

「都市」「原爆」「震災」「公共性」・・・。彼らの作品はどれも文明批評が志向されている。突飛なテーマが選ばれているわけではなく、むしろ、私たちが日常的に直面し、考えているようなテーマばかりだ。では、彼らは何が特別なのだろうか?

特に印象に残った《ヒロシマの空をピカッとさせる》と題されたプロジェクトでは、問題提起として原爆ドームの上空に飛行機雲で「ピカッ」の文字が描かれた。メディアはすぐに反応し、被爆者や遺族を中心に批判の声が上がった。新聞には関係者の心情を慮る記事が並び、いたずらに平和をかき乱す行為だと糾弾された。Chim↑Pomは謝罪会見を開き、個展を自粛した。

彼らは批判を恐れない。良識や、善意、法律をも敵に回す。一切のタブーなく、ただ問題を考える。わかってもらえるかではない。自分を守ろうという気持ちも感じられない。だから、答えに強度がある。

タブーといえば、タブーなき議論を!という建前のもと、「核共有」の話題がメディアに流通しはじめた。テレビメディアへの介入が報道されるなかで、フェアな議論が行われるわけがない。結果ありきの、空虚な議論だ。

だからこそ、Chim↑Pomの危なっかしい問題提起は価値を持つ。わかってもらえないのなら、わかってもらえるまで表現するしかないのだ。真実を曲げてはいけない。彼らの作品はそう言っているように思えて、だから感動したのだった。

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