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「涙の行方」チャットモンチー

チャットモンチーは高校時代にめちゃくちゃ聴いていた。自分史における数少ない「青春」の一要素なのかもしれない。『告白』の不健康さに熱狂し、『YOU MORE』の明るさに胸を震わせ、ドラマーの脱退に驚愕し、二人体制の噂を聴いてもっと驚愕し、つまりは“バンドストーリー”のド真ん中にいた。



「涙の行方」は、三人体制最後のアルバムとなった『YOU MORE』に収録された一曲だ。サウンドはレゲエ調で、歌詞はざっくりと言えば「泣いちゃったけど頑張る」というだけの曲だ。『YOU MORE』は名曲揃いで、ほかに大好きな曲もたくさんあって、正直に言うと当時はあまりハマらなかった。つまり、ちゃんと聴けていなかった。



改めて聴いてみると、作り方が面白い。キーボードの空白を埋めるように、ドラムは手数が多く、ポップロックとレゲエを融合させた作りになっている。バスドラにややダブがかかっていて、生音のヴィブラステップとの取り合わせが面白い。ベースは完全にレゲエで、音色がとても心地よい。ギターはエフェクトが少なく弦の触感が心地よくて、伸びやかなボーカルとよく合っている。三人でリズムを共有する空気感が気持ちよくて、聴いていてすごく楽しい。ああ、今ならわかったのに。



当時の自分は、音楽に何かを求めていた。例えばそれは、具体的には「轟音」であったり、抽象的には「思想」だったり「姿勢」だったりした。自分を救ってくれる薬として、音楽を消費していた。でも究極、他人は絶対に自分を救ってくれないし、アーティストは赤の他人だし、音楽は薬ではなくて音楽だ。



「やりたいこと」と「求められていること」の2つの要素があるとする。両者が一致すれば幸福だが、それはとても少ない。「やりたいこと」を極めればだんだん難解になっていくし、「求められていること」には時代性もある。チャットモンチーは両者の狭間で苦悩し、そして裂けていった。今思えば、多くのものを背負いすぎるには、純粋すぎたのだろう。



自分が両者の間に立つことになったら、どちらをとるかは分からない。でも、誰かがそこに立ったときには、「やりたいこと」を選ぶほうを応援する自分でありたい。「よくわからないけどおもしろそうだからやったほうがいいよ」と、自信を持って言える自分の口でありたい。いまはそういう気分。

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