菓子鉢(エッセイ)
「雛鍔」の中に、「菓子鉢」という単語が一度だけ出てくる。本筋とは関係のない会話の中で登場する言葉で、削るかどうか思案を巡らせているうちに、実家にあった菓子鉢の存在を思い出した。
昔、うちの実家には菓子鉢があった。焦茶色で、2〜3センチくらいの深さの、木製の菓子鉢だった。袋のポテチがおよそ2回で入り切るくらいの大きさで、丸っこいフォルムが手に馴染んだのを思い出せる。
よく、袋のお菓子を直接食べていると、菓子鉢に入れて食べなさいと注意された。我が家では菓子鉢を使って菓子を食べることは行儀の一種だった。いつのまにか実家の菓子鉢は無くなり、菓子を食う人間の私たち兄弟も巣立っていった。菓子鉢のことなど皆すっかり忘れていた。
調べてみると、菓子鉢にも種類があるそうで、浅い皿型のものや、陶器でできたものも出てきた。私にとって「カシバチ」は実家にあったアレだけで、普通名詞としての「菓子鉢」という言葉には違和感がある。菓子鉢のことを考えているうちにかりんとうが食べたくなり、駅前のスーパーに寄って買って帰った。