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2023

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2023年7月の記事一覧

精彩(エッセイ)

精彩(エッセイ)

今朝は起きた瞬間から精彩を欠いていた。心の準備もできぬまま家を出て、気がつけば職場に着いてしまった。始業時刻になっても仕事の続きが思い出せず、小一時間デスクで半フリーズしてしまった。こんなに身が入らない仕事は久しぶりだ。

午前中に積み込み作業があることもすっかり忘れていて、Tシャツが汗で着られなくなってしまった。昼食に昨夜作った「えびめし」を食べ、午後も集中力を欠いたまま時間だけがすぎ、慌てて簡

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完全休養日(エッセイ)

完全休養日(エッセイ)

今日は疲れていたので一日部屋から出ないと決めていて、朝からだらしなく過ごした。彼女が10時ごろ目を覚ますのを待って、漬けてあったフレンチトーストを焼いた。いい具合に焼き目が付いて、料理が自分に自信をもたらすのを感じた。

やることもなく、配信の「シン・仮面ライダー」を観はじめた。ヒロインの浜辺美波の声が小さく、コートと髪型がミスマッチだった。彼女が結末が意外と良かったと言うので寂しかった。帰って制

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煙(エッセイ)

煙(エッセイ)

国立新美術館で開催中の蔡國強展は、すごく奇抜な展示だった。作家は火薬を使った絵画やインスタレーションを制作しながら、宇宙との交信を試みる。爆破の壮大さがギャグのようで、何度も声を出して笑ってしまった。けれども笑ったあとで、いい説法を聞いたあとのような、爽やかな気持ちになるのだった。

爆破には煙がともなう。私たちは爆発自体を知覚することはできない。遅れて生じる光と音と煙を認識するだけだ。芸術は世界

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日記と当事者(エッセイ)

日記と当事者(エッセイ)

昨日は「ことばの学校」の初日で、当事者性と他者性というテーマだった。何かを書くときには、およそ「自分のこと」と「他人のこと」という二つのベクトルがある。授業では、当事者性を巡る状況を確認しつつ、自己と他者という区分が脱構築的に融合されている例が検討された。

自分/他人の中に、それぞれ自己/他者が存在している。4つは明瞭に区分されるわけではなく、互いに溶け合うように曖昧な境界を有する。日記というの

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📢お知らせ

📢お知らせ

去年の3月1日に書き始めた日記が、なんとなく続いて、500日を目前としています。決意もなく書きはじめ、承認欲求もなく続けているのがよかったのかもしれません。

「ことばの学校」という、佐々木敦さん主催のライターズスクールと教養講座の中間のような講座を受けることにしました。何か日記の足しになればいいなと思ってお金を払ってみました。

毎週木曜日が授業となりますので、木曜日は投稿をお休みさせていただき

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代休(エッセイ)

代休(エッセイ)

今日は代休で、普段通り8時に目を覚ましたものの疲労困憊で、洗濯機を回しているうちに二度寝してしまった。昨晩から漬け置きしていたTシャツを洗濯機の中で放置してしまい、11時前になってやっと干した。頭の中の疑念はオキシクリーンで殺菌した。

美容師とパーマの相談をすると、藤井風のような感じにしようと言われた。美容師の二の腕に黒いものが見えて、目を凝らすと刺青だった。入れるとき痛くなかったか訊ねると、客

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ことあるごとに(エッセイ)

ことあるごとに(エッセイ)

近頃GRAPEVINEまわりが騒がしい。3年ぶりの新譜が9月に出ることになり、併せてツアーが発表された。先行シングルがラジオでこっそり流れ、その歌詞が元不倫相手への恨み節だということが判明した。すると、その棄てられた元不倫相手のTwitterアカウントが騒ぎ始めた。ファンの間では話題で持ちきりだ。

興味本位で覗きに行ってみる。元不倫相手の投稿は未練がましく、またファンを侮蔑するような言葉も多い。

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売れる絵(エッセイ)

売れる絵(エッセイ)

本棚に積んであったフーコー『言説の領界』を少し読んでみたが難しく、とりあえず解説から読んでみた。およそ、社会の中で言説(=意見・考え方)が「正しい」とされるとはどういうことか、というような話らしい。読むことに必要性を感じているが、苦戦するかもしれない。

今日は展覧会の2日目だった。会場に長居する出展者が多い日で、退屈さの割に気の抜けない一日だった。客数自体は少なく、こっそり脚の筋肉を伸ばしたりし

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どうして鞄が重いのだろう(エッセイ)

どうして鞄が重いのだろう(エッセイ)

他人と居ても一人で居るような気持ちになる。誰かと働いても自分ばかり苦労しているような気分だ。助け合えることはなく、むしろ肩の荷が重くなったように心は黒くなる。

今日は展覧会の設営だった。小作品ばかりを160点ほど、壁に刺した画鋲にキャンバスの背面を引っ掛けていく。会場は冷房の効きが悪く、汗で身体が臭かった。壁に並んだ絵画を眺めて、明日からの多忙を想像して気分が沈んだ。

鞄が着替えや余計な荷物で

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何をやってもダメな日(エッセイ)

何をやってもダメな日(エッセイ)

今日は何をやってもダメな日だった。朝、いつもより少し奥の車両に乗ってみると、混んでいて吊り革を掴めず、ふらついてぶつかった男にキレられた。咄嗟のことで言い返せず、真っ黒な気持ちで出社した。仕事では話の長い客(契約をしていないので正確には"客"ではない)に捕まり、延々と自慢話を聞かされた。昼過ぎに外出をすると、思っていた会場を勘違いしていて、炎天下の池袋を無駄に歩き回った。

日中もずっと眠くて、判

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ロールアップ(エッセイ)

ロールアップ(エッセイ)

昨日買った新しいパンツを履いた。前後にタックの入った、グレーのワイドパンツだ。やや短めに裾丈を詰め、ちょうど足首が出る長さで履いている。スラックス生地は厚みがあるが、肌と隙間があるだけで随分と涼しい。出入りする空気を感じて歩く。

近頃はロールアップを見かけなくなった。私が大学生だった10年ほど前はロールアップ全盛で、差し色に靴下を見せるのが流行りだった。いまはしないの?と年下の彼女に尋ねると、た

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はじめてのけんか(エッセイ)

はじめてのけんか(エッセイ)

彼女とはじめてけんかをした。このごろ彼女は素っ気なく、決定的ではないけれどなんとなく寂しい気持ちが続いていた。今朝も朝食を食べて布団に戻ってもそんな感じだったので、おそるおそる不機嫌になってみた。「自分に悪いところがあるのか考えるのに疲れてしまった」と伝えると、彼女は黙ってしまった。

私はしばらく寝たフリをして、起きて朝食の皿を洗った。彼女は布団を畳んで、私はクッションを枕にまた目を瞑った。彼女

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『君たちはどう生きるか』(エッセイ)

『君たちはどう生きるか』(エッセイ)

※今日は『君たちはどう生きるか』の感想です。作品の詳細には触れていませんが、ネタバレが気になる方は鑑賞後にお読みください。

『君たちはどう生きるか』を観た。事前に声優やストーリーが明かされないままでの公開で、タイムラインには初日に鑑賞された者も多かった。みな前情報が入ってくる前に観てしまいたかったのだろう。私も、ネタバレを踏まないように腐心する生活からやっと解放された。

映画は、画面に描かれる

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小旅行(エッセイ)

小旅行(エッセイ)

昨日の日記の「人類はもう黙るしかないのかもしれない。でも私は喋るが。」という物言いは、ずいぶんと不遜で笑ってしまった。どうしてこんなことを書いたのだろうと思いを巡らせるが、不意の言葉のほうが案外気に入っていたりもする。生理現象のように言葉は産まれる。

今日は前から予定していた彼女との小旅行の日で、JRと京成線を乗り継いで成田まで行ってきた。新勝寺の急な階段を登り、座敷で鰻を堪能し、空港内を迷路の

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