あいみょんは手がバカデカい
私は手が小さい。身長は161cmあるのになぜか手が小さい。
これまで私は、小さい手が原因で人生の選択肢が減らされてきた。
例えば、iPhone の機種を自由に選べない。
iPhone Proや、もちろんiPhone Pro Maxも私にとっては大きすぎる。普通のiPhoneでも私には少し大きい。だからiPhone Mini しか選択肢がない。
iPhone Miniが発売されて本当に良かった。Appleにも手が小さい人が働いているんだろうなあ。ありがとう、Apple。さすがGAFAだよ。
そこそこのレベルの日本の大学に通う1年生の私にでも、勇気を与えてくれるんだから。
他にも手の小ささのせいで、将来の仕事の選択肢も減らされている。
学歴や資格だけじゃなくて、手の大きさでも職業は決まってしまうのだ。
私のお父さんとお母さんは公務員で、2人とも真面目に生きてきた。だから昔から「あんたは何にでもなれるからやりたいことやりなさい」と言ってくれたけど、私は手が小さいから何にでもはなれない。
お父さん、お母さんごめんなさい。2人の娘はミニチュア作家かはんだごてを使う仕事しかできないみたい。
でもまだAppleに入れる可能性も諦めてはいない。
でも一番ショックだったのはギターが弾けなかったこと。私は人生の娯楽の選択肢も減らされている。
この前、何か新しいことを始めようと思って、ジョナサンでのバイト代を全部使ってアコースティックギターを買った。U-フレットでマリーゴールドを調べたら、ほとんどのコードは手の小ささのせいで押さえられなくて1週間で辞めてしまった。8万もしたのに。
8万円がギターの形をしたゴミになってしまった悔しさと同時に、ずっと好きだったあいみょんは私とは違って手が大きいことに気づいた。私はあいみょんにはなれない。
8万円払う前に気づくべきだったんだよ。ウルフカットにしたばっかりなのに。
私が高校2年生で初めて彼氏ができた時もあいみょんを聴いていた。突然彼氏に「なんか違う」って言われて振られた時もあいみょんを聴いていた。でもそんな私が救われたと感じた全ての曲はあいみょんのバカでかい手によって生み出されたものだったんだ。
バカでかい手で歌詞をスマホにメモして、バカでかい手でコード進行を考えていたんだ。
じゃあ、あの時行ったライブでも、バカでかい右手でピックを持って、バカでかい左手でコードを押さえていたんだ。
私の小さい手ではギターを弾くことも、ましてやあいみょんみたいにかっこよくなることも叶わないのだ。
バカでかいのはケーキだけにして欲しかった。
この前まで横にいたあいみょんが遠く離れていった。
考えてみたら世の中のギター持ってる女性シンガーは手がめちゃくちゃでかいってこと?
椎名林檎も、カネコアヤノも?
でも、まあ、この2人手でかそうだもんね
ん?
じゃあmiwaも?
miwa絶対私より背低いよね、なんで弾けてんの?手だけバカでかいってこと?
私身長161cmあるんだよ、あいみょんと一緒なのに。
なんでmiwaに負けてんの。
アダムとイブが禁断の果実を食べてしまったから、私は「小さい手」という報いを強引に受けさせられているんだ。
なんで食べちゃうかなあ、私だったら絶対食べない、リンゴ嫌いだし。
もうIQOSとか始めようかな
アダムとイブの子どもも、原罪のせいでグレてIQOS吸ってたかな。
神様の孫だったらグレてるって言っても健康には気使いそうだしね。
あんなに好きだったけどもうあいみょんは聴かない。聴くたびにコンプレックスを思い出しちゃうから。
とりあえずレイヤーの入ったウルフカットをバッサリ切ってボブにした。あいみょんにはボブなんてできないだろ、もうウルフカットのイメージつきすぎてるし。どんまい、あいみょん。
そもそもどんだけ好きでも両腕切ったり目くり抜いたりしないでしょ。
その時点で私とあいみょんは違ったんだよ、そうだよ、そう。
メンヘラじゃんあいみょん、大丈夫?
汚れてるシャツも捨てたし、麦わら帽子ももう被らない。
最後にギターを売りに行こう。
これで本当にあいみょんとはお別れだ。
あいみょんはシンガーソングライター、私はAppleに。別々の道を進むけど元気でね。
今までありがとう。
そんなことを考えながら美容院からの帰り道を歩いていた。
もうCDも売りにいこうかな、近くにブックオフってないん、、、
向井くんだ。
なんで向井くんがこんなところにいんの
ギター持ってる、スタジオってこの辺なのかな。
向井くんは私と同じ一年生で軽音サークルに入ってる。英語のクラスが同じでたまに話す。
ちょっと好き。
向井くんはこんな人は好きになるという条件よりこんな人は嫌いになるという条件に当てはまらない人だ。だから好き。
授業中の発表があっても、ヘラヘラしない。半袖のパーカーは着ないし、白のデニムは履かない。「メシを食う」って言わない。英語でストーリーを投稿しない。電動自転車に乗っていない。エモいって言わない。大家族じゃない。
どうせ来週授業で会うけど一対一は怖すぎる、しかも私ボブだし、似合ってないとか言われたらもう丸刈りにするしかないんだけど。
そう思って下を向きながら歩いていると、視界に反対向きのニューバランスが入ってきた。
顔を上げたら、向井くんが立っていた。
あ、、そうそう今切ってきて、
えほんと? ありがと。
いや、あいみょんみたいになりたかったけど、なれなさそうだから
ほんと?いや嬉しいけど
あーギターももう売ろうかなって
え?
あ、いや、嫌じゃないけど、ほんといいの?
ありがと、うん
あ、うんじゃあまた、学校で
来週向井くんにギターを教えてもらうことになった。
手の小ささはどうにもならないと思っていたけど、向井くんに言われたらなぜか弾ける気がした。
あいみょんごめんね、私の好きな人はロックを聴くよ。
この恋が実りますように、少しだけ少しだけそう思わせて。