【要約】真実の瞬間 SASのサービス戦略はなぜ成功したのか
真実の瞬間 SASのサービス戦略はなぜ成功したのか
《第一章》 真実の瞬間
スカンジナビア航空を形成しているのは、旅客機とかの有形資産の集積ではなく、顧客に直接接する最前線の従業員が提供するサービスの質だ。一回の応接時間が、平均一五秒で1年間に五千万回、顧客の脳裏にスカンジナビア航空の印象が刻みつけられたことになる。この五千万回の“真実の瞬間”がスカンジナビア航空の成功を左右する。その瞬間こそ私たちが、スカンジナビア航空が最良の選択肢だったと顧客に納得させなければならない時なのだ。顧客本位の企業になるには最前線の従業員が様々な面で変わらなければいけない。しかし、そうした変革を促すのは経営者の役割だ。
《第二章》 ヴィングレソール社とリンネフリュ社の再建
ヴィングレソール社
はじめは意思決定を知識もなく、すべて自己判断で行っていたが、それは違うことに気づいた。会社は、私にすべての決定を行うよう要求しているわけではなく、ただ、社員が良い仕事をするような環境を作ることを求めているだけだった。
リンネフリュ社
リンネフリュ社は最低のコストでいかに空席をなくすかが、最優先課題となっている典型的な旧態依然とした企業に映った。
製品本位の企業だったリ社に対して、従業員に明確なビジョンを持たせ、従業員はその実現のために自発的に責務を遂行させた。
私が成功したのは、マーケティング手法が功を奏したのではなく、それぞれの会社を独自の市場ニーズに応えるように方向転換させたからだ。
《第三章》 スカンジナビア航空の再建
スカンジナビア航空を苦境から救う唯一の道は、収益を増やすしかなかった。そこでビジネスマンにターゲットを定め、運賃の値下げと同時にサービス向上に焦点を当て、従業員に総合的経営ビジョンを認識、理解させ活力を喚起した。私達にとって利潤が最も重要な経営目標ではなかった。そこに焦点を当てれば八千万ドル以上の増益も可能だったかもしれないが、短期的な再建策でしかなかったし、従業員の意欲や市場占有率を高めることは不可能だったはずだ。重要なのは、市場と顧客、従業員に投資して、新しい水準の収益性を達成したことだ。つまりスカンジナビア航空の将来に不可欠な資産と人的資源を共に確保したのだ。
《第四章》 真のビジネスリーダー
昔ながらのビジネス・マネージャーと顧客主導型企業の真のビジネスリーダーとの違いは、社長が意思決定マシンになるのではなく、社長がいなくても各管理責任者が多くの意思決定を行っていることだ。実際は、全体の戦略構想が出来上がったら色々な人の力を借りて、それを戦略目標に置き換えなければならない。その目標と戦略を取締役会と労働組合、全従業員に理解させなければならない。現場従業員により多くの責任を委ね、彼らが思い切って新しく与えられた権限を行使できるような職場環境を整えるのだ。大事なのは、目標達成ができやすい組織を作り上げ、みんなが正しい方向に力を合わせられるような手段を考える。つまり自分で経営ビジョン実現に必要な条件をととのえなければならない。
《第五章》 戦略の策定
競合が激化し、ますますサービスが重視される市場に対応するためにはの第一の方策は顧客優先の経営方針を確立することである。顧客本位の企業になれば、サービス事業にも手を伸ばすことは明らかだ。顧客が真に求めているものを極めれば、経営目標を立て、それを達成する戦略を策定することができる。製品と技術を要件として意思決定を行うもの製品本位の企業と異なり、顧客本位の企業は、まず市場を調査し、その動向に基づいてすべての意思決定、投資、改善を実施する。
《第六章》 ピラミッド機構の解体
シュトットガルト支店の話は、伝統的な企業ピラミッドを崩すのが、有効な方策であることを実証している顧客を重視して“真実の瞬間”に好印象を与える企業を目指すなら、ピラミッドを崩す、つまり顧客ニーズに直接、迅速に対応するために愛想的な責任体制を排除しなければならない顧客本位の企業は、変化に即応するために組織される。かつて管理者だった経営幹部はビジネス・リーダーに変身し、最前線の従業員は業務上の決定をすべて自分で行わなければならない。現場従業員こそあの“真実の瞬間”に顧客が抱く会社に対するイメージを最も直接的に左右するものなのだ。管理者はパーサーの権限に異議を唱えたり、顧客を満足させるためのサービスを妨害すべきではない。貴重な機会をとらえて顧客の要望に応えるのは現場従業員の責務であり、それをサポートするのが中間管理職の責任なのだ。
《第七章》 リスクへの挑戦
従業員にも企業にも、あえてリスクにいどむ勇気が必要である。ビジネスの世界ではそうした跳躍を強制執行と呼ぶ。明確な戦略があれば、それだけ強制執行は容易になる。この時に問われるのは、向こうみずに近い勇気と直感力である。多くの経営幹部がロニアの谷を飛び越そうとしないのは、計画はたいてい実行不可能なものだと頭から決め込んでいるからだ。そうした心理的障害を排除するのに有効なモットーがある。「壁を突き破れ」というのがそれだ。現場従業員は甘煮も長い間、規制に縛られてきたので、新機軸を打ち出す勇気をほとんど失っている。外面からの安心感は企業の上層部が与えなければならない。リーダーと管理者は、リスクに挑み、時には失敗を犯す従業員に、罰ではなく指針を与えなければならない。ここで明言しておきたいのは管理者の場合、失敗は許されても無能は許されない。管理者は企業の総合戦略に従わなかったり、目標を達成する能力がない場合はその地位に留まってはならない。
《第八章》 意思の疎通
分権化された、顧客主導型企業のリーダーはコミュニケーションに最も多くの時間を費やす。経営者が命令を下す階層的機構の企業では命令の意味を理解するのは従業員の責任である。経営者は正確に命令を伝えさえすれば
事足りる。ビジネス・リーダーは単純明快な言葉を使わざるをえない。従業員の誤解を招く危険を冒すよりは誰が聞いてもよくわかる言葉で自分の考えを伝えた方が良い。私が求めるリーダーのコミュニケーション能力には、かなりのショーマンシップが要求されることは明らかだ。内気や無口は禁物である。
《第九章》 取締役会と労働組合
中間管理職と現場従業員に総合戦略を伝えることについて、繰り返し述べているが、総合戦略は彼らが分権化された企業で業務を適正に成功するための一つの武器なのだ。一般に経営陣と取締役会は同一の総合戦略を共有していない。しかし、取締役会を企業のビジョンに参画させれば、取締役会を有効に機能させることができる。労働組合も三つの役割を明確に把握できていれば、障害になるどころか、企業運営に貢献する重要な組織になる。経営ビジョンを実現するにはそれを取締役会、経営陣、組合、従業員の四者が共有しなければならない。
《第十章》 業績の評価
すべての階層の従業員が業務目標を正確に把握し、その達成方法を知っていなければならない。現場従業員が、中間管理職の支持を得て意思決定権を獲得すると、従業員の意思決定が経営目標達成に有効なものかどうかを判断するための正確なフィードバック機構がが必要になる。顧客主導型企業では、顧客にとって必要な業務にいかに努力が傾注されているかが業績評価の基準になる。
《第十一章》 社員への報酬
多くの会社で注意を引くのは失敗だけである。あるいは極端な話、仕事を全くしなくても誰も何も言わない。誰でも自分が貢献していることを認めてもらいたいと思っている。それを認めてもらうことで自負が培われる。ことに従業員の自負心と現場での意欲が顧客の満足度を大きく左右するサービス業の場合は、成果に見合う賞賛の言葉は非常に効果的だ。しかし、賞賛は確かに活力を生むが、それは正当な評価の元になされる場合に限られる。階層的機構を崩した企業では、“昇進”が必ずしも地位向上というわけではない。たとえ、高い地位につきものの肩書などなくとも、何か重要な責務を課せられた時は事実上の昇格だと考えるようになる。
《第十二章》 第二の波
彼らが真に分権化を行い、従業員が結束する目標を立て、それを伝えない限りリーダーが本当に権限を委譲したことにはならず、従業員はいつまでたっても、問題の大小に関わらずリーダーに頼らざるをえない。従業員は、目標も戦略も知らされていないために、自分の決定の成否を判断できないのだ。従業員に真の責任と権限を付与するには、根本的に異なる気候が必要となる。第一の社員のレベルの責務は経営方針の決定と当面のビジネスに対する危険予測、新しいビジネス・チャンスの調査である。第二は投資や人員補充のための資源計画・配分を責務とする。第三は最善の現場従業員である。彼らこそ経営陣の設定した目標と戦略にそう企業運営に必要なすべての意思決定を行う。真のビジネス・リーダーとは、大聖堂を設計し、人々にその完成予想図を示して、建設の意欲を鼓舞する人間のことである。