「男女の友情は成立する?いや、しない!」を読んで。
概要
七菜 なな × Parum
電撃文庫
SNSで話題の青春〈友情〉ラブコメディ『だんじょる?』!!
とある田舎の中学校で、ある男女が永遠の友情を誓い合った。1つの夢に向かい運命共同体となった二人の仲は――特に進展しないまま2年の歳月が過ぎる……!
未だに初恋がこない陽キャ女子・犬塚日葵と、花を愛する植物男子・夏目悠宇は、高校2年生になっても変わらず、二人だけの園芸部で平和に親友やっていた。
「悠宇が結婚できなかったら、アタシが責任取ってやんなきゃねー」「日葵がそれ口走ってから、おまえの兄さんが『義弟くん!』って呼んできて辛いんだけど」
ところが、悠宇が過去の初恋相手と再会したことで、突如二人の歯車が狂い出す!? 果たして恋を知った日葵は〈理想の友だち〉脱却なるか?
友人関係に固執する二人
主人公ゆうとひまりは中学時代から親友関係にあります。
そして、長いこと一緒にいる間に互いに恋愛対象として想いあうようになりました。
しかし、いちど築いた親友という関係から互いに一歩踏み出せずにいる。
本作は、そんな甘酸っぱい青春ストーリーです。
男女の友情が成立するか、
という本作のテーマですが、
著者さんとしては「しない!」とタイトルで断言しています。
その通り、ゆうとひまりは互いに友情を約束し合いながらも、
実は相思相愛の関係にあります。
そんな二人がどうして億手に回ってしますのか、
そんなことを考えてみました。
ゆうは?
ゆうの中では、日葵との日々を通して、将来の夢でもあるフラワーアクセよりもひまりの方が大事になってきいます。
より極端に言うと、日葵と一緒にいれるなら、フラワーアクセなんかどうでもいい。そっちに寄っている気がします。
しかし、ゆうと日葵の出会いはフラワーアクセでした。ゆうの作ったフラワーアクセをきっかけに、二人は親友関係を結ぶ契約ともいえるような口約束をしました。
それは日葵がラワーアクセショップを開くという、ゆうの夢を手伝う代わりに、ゆうはフラワーアクセに取り組む自分の隣に日葵を置く、という約束です。
日葵は花を見つめるゆうのきらきらと輝く目に惹かれたのです。
以上を踏まえると、日葵はゆうのフラワーアクセに夢中な姿が好き、しかし、ゆう自身はフラワーアクセなんかよりも日葵の方が大事。
この矛盾の中で、ゆうはひどく思い悩みます。
日葵の好きな自分になるためにフラワーアクセを頑張るのか、
それとも自分の夢であるフラワーアクセへの思いを取り戻すのか、
まだ完結していないので彼の選択がどうなるのかは私にも分かりません。
ひまりは?
日葵の心情は分かりやすいようでなかなか見えづらいように感じています。
日葵視点で語られる際はゆうへの恋愛感情は何度も明言されています。
しかし、なぜ友人関係から先に進もうとしないのか。彼女の心の中には様々な葛藤があるように思えます。
例えば、二巻で、日葵は「私のこと好きにならないでね」とゆうに告げます。
地の分からの推察ですが、このセリフはおそらく日葵のコンプレックスからくるものです。
おそらく日葵が自分の八方美人な性格を薄っぺらいと卑下する感情があるように思います。
先ほど、日葵がゆうに興味を持ったきっかけを話しました。彼のキラキラと輝く純朴な目です。
彼女がゆうの純真さに惹かれた背景には、自分にないものを持っているという憧れがあったのかもしれません
つまり、「私のこと好きにならないでね」という端的な言葉の裏には、
美しいけど清くない自分を純粋で奇麗なゆうに好きになってほしくないという矛盾を含んだロジックが見て取れます。
以上、二人とも互いに好きあいながらもなかなか結ばれないもどかしい物語です。
しかし、彼らの立場に立って考えてみてると、実はけっこう難しい問題なんだなと痛感します。
この先、二人がどんな選択をするのか、楽しみです。