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#行方不明展 に行ってきたよ

行方不明展に行ってきました。
今回も付き添ってくださった秋P、ありがとうございました! 非常に心強かったです。

この記事では、展示を見て思ったことを思いついた順番につらつら書いていこうと思います。

ほんのりとだけ展示内容のネタバレがありますが、詳しくは言及しません。全く情報を入れずに展示を観たい方は読まないようにしていただいたほうが良いかもしれません。

それと、この記事にはあなたを悲しい気持ちにさせてしまいかねない内容が含まれています(展示内容のDisではないです)。
なのでいま気分が落ち込んでいる人は読むのをやめて、元気になったときに戻ってきていただけたらうれしいです。

本当はがっつりしっかりな考察に挑戦したかったけど、90分じゃあ考察しきるにはとても時間が足りない!
真船佳奈さんのルポにもあったとおり「この展示、正解はなに……誰か教えてや……」と頭を抱えてしまうような、見た人同士で語り合いたくなるような展示でした。


場所について

開催地の「三越前福島ビル」という場所。以前からいろいろな媒体がポップアップショップや期間限定イベントを開催してきた場所のようです。
行方不明展の会期が終わった後は、ロックバンド・GLAYの企画展が開催されるそう。

ただこの場所、企画展示が多数行われているわりには狭い場所があったり、内装が汚れていたりします。展示をやるにしては妙なくらい無機質な空間だと感じました。
普通の展示であればもっと綺麗に整って見えるようにするのだと思いますが……。今回は行方不明展のコンセプトにあわせて無機質に見えるよう調整したのでしょうか?

例えばヘッドホンで音を聞くブースがあるんですが、あそこってどう見ても……ねえ……給湯室じゃないですか。あれ給湯室ですよね? それともわざとシンクを運んできたのかな。

普通の企画展だったらこんな場所に置かないだろ!と感じるくらい狭い場所にも展示品が並んでいます。小さな部屋にめちゃくちゃ大きな展示物があって空間を圧迫していることもあります。

きっとあの給湯室もめちゃくちゃ狭い空間も、本来は展示物を置かないバックヤードのエリアなのだと思います。
「そんなところにまでものを置かないとやってられないくらい展示物が多かったのでは」などとメタ的に考えることもできるかもしれませんが……あんな内容の展示品たちを見せられてしまうと、そうではない気もしますよね。

こんな感じなので、「会場混みすぎ」「狭すぎ」などと不快感を覚えた人も多いと聞きます(わたしも正直「混んでるな~、狭い場所で案内やってるスタッフさんは大変そうだな~」と思ってました)。
でもそんな批判の多くは、根源をたどればこの会場・展示の形式が持つ異質さに起因している気がしてなりません。

……というか、きっとそんな違和感や異質さも「はじめから仕組まれていたのではないか」と感じました。

メモを取っていないのであいまいで申し訳ないですが、とある展示品の説明書きに「その展示品がもともとあった場所の状況を再現している」と書かれていた覚えがあります。
ほかの展示品についても、詳しく書いていないだけでそこに設置した理由があって、しかも見る側への配慮を多少欠いてでもその空間を選ぶ必要があったのだろうと感じました。そうせざるを得ない重大な事情があるか、もしくはその両方なのではないかと。

だからああいう違和感もあえて放置されて、整った見やすさからやや乖離した行方不明展が完成したのではないか……。そんなふうに思えてなりません。

とはいえこちらに裏の事情がわかるはずもないので、細かいところは妄想で補うしかありません。人によって解釈が分かれるところでもあると思います。
わたしもいろんなことを考えたけど、うまくまとまり切らなかったので割愛させてください。他の人の解釈とかあれば聞きたいなあ。


心当たりのあること

展示をじっくり見ていくと、ある場所でこんな問いかけをされます。

あなたもいなくなりたいと思ったことはありますか?
□ はい
□ いいえ

「あなたいなくなりたいと思ったことはありますか?」

「いなくなりたい」と考えたことのある何者かが自分の考えに同意を求めているかのような、そんな問いかけです。


「行方不明展」ではさまざまな行方不明者の情報を見ることが出来ます。
そしてそれと同時に、あの展示では「みずから望んで行方不明になった人がいるらしい」「みずから望んで行方不明になった人は、いずれその存在そのものが消えてなくなってしまうらしい」とも示唆されています。

開催に先駆けて放送された事前番組にも、行方不明になった家族を捜す女性がそんな発言をするシーンがありますよね。

でも、なんかね……そうしたかったんじゃないかって。
何もない状態でふっといなくなったってことは、きっとなんか、
自分がここじゃない……ふっとどっか行きたかったのかなって、
変かもしれないですけど、なんかそうあってほしいなっていう気持ちも
私の中にはあるんだと思うんですけど。

テレビ東京 行方不明展/特別番組より


そういえば、わたしはこの「行方不明になりたい」という気持ちに心当たりがあります。

わたしは友達を作るのがあまりうまくありません。幼いころはその傾向が特に顕著でした。集団に放り込まれるとその中で変に浮いてしまって、苦しく感じることも多くありました。
わたしはそんな時、慣れない集団に話を合わせ作り笑いを浮かべながら「空気になりたい」と願っていました

誰にも見えず、認識もされない空気。粒子の一粒一粒は存在しているはずなのに、誰にも気に留められないまま吸われたり吐かれたりしている空気。
空気であれば誰からも何も思われないし、集団からあぶれてしまった悲しみを感じることなく過ごせることでしょう。

あ~、空気になりたい。
誰にも認識されない、何物でもないなにかになれたらいいのにな。
なんともいえない居心地の悪さに苦しんでいたありし日のわたしにとって、そう願うことは一筋の希望でもありました。

だからわたしには「行方不明になりたい」という人の気持ちが少しだけわかる気がします。
きっと彼らはあの時のわたしに似て、空気のような、何物でもないなにかになりたかったのではないかな……なんて思うのです。

まあ、あの展示はフィクションなんですけど。


行方不明になること

少なくとも、わたしにとっての「死にたい」と「行方不明になりたい(≒空気になりたい)」はまったく違うものです。

「死」は「行方不明」になる道程のひとつにすぎません。


例えばわたしがあなたの目の前で死んでしまったとします。
事故でも病気でも天寿全うでもなんでもいいけど、とにかく死んでしまったと仮定しましょう。

……そうすると、確かにわたしの体は機能しなくなります。話をすることも呼吸をすることもできなくなります。

でも、あなたの目の前にはわたしの人間の皮……つまり肉体が残ります。
肉体を焼いてしまった後も骨が残ります。
わたしを大切に思ってくれる人がいたなら、お墓にわたしの名前を刻んで弔ってくれるかもしれません。

もしなんらかの理由でわたしの肉体が完全に消えてしまったとしても、わたしが書いたノートや、わたしの顔がうつった写真や、わたしが大切にしていたぬいぐるみや、わたしが使っていたパソコンは残り続けるかもしれません。
わたしの場合はUTAUをやっているから、わたしの声とよく似た歌声を持つ音声ライブラリがどこかに残り続けるかもしれません。

何より、わたしの死を目の当たりにしたあなたが、あなた自身の生命が尽きるその時までずっと、わたしのことを覚えているかもしれません。……

わたしは死ぬことで、わたしとして活動できなくなってしまった。
でも、それだけでは「わたしが消えた」「いなくなった」とはなりません。
なぜならわたしの痕跡が残っているから。あなたがわたしの存在を覚えているから。

わたしが本当に行方不明になってこの世界から消えてしまうには、

  • わたしがなんらかの方法でこの世界から姿を消し、

  • わたしが存在していた痕跡をすべて消し、

  • わたしのことを認識したあなたから、わたしの記憶をすべて消す

……なんて、死よりも大きな消失を経なければなりません。
多数の情報が行き交う現代において、これを成し遂げるのは本当に難しいことでしょう。

だから「死にたい」と「行方不明になりたい」は似て非なるもの。
「行方不明になりたい」とは、「死にたい」よりも先の地点にある願いなのだと思います。


たぶんノンフィクション

でも、そんな不可能を可能にしたいと願った人たちがいたとしたら。
不可能なはずの願いを実際にかなえてしまった人たちがいたとしたら。

そんな、ほんとうの「行方不明」になってしまった彼らの思いを想像して作り上げられたのが、この「行方不明展」なのでしょう。

……本当は、彼らは確かに「いた」のかもしれません。
ほんとうの「行方不明」をかなえた誰かが、この世界に紛れて存在しているのかもしれません。
いや、この展示そのものはもちろんフィクションなんですけど。

でもわたしたちが認識できない存在だからフィクションだと断じざるを得ないだけで、この展示に登場しないほんとうの「行方不明」をかなえた誰かが、実はこの世界のどこかにいるんじゃないか
ほんとうにほんの少しだけ、そんな気がするのです。


とてもありがたいことに、今のわたしは「空気になりたい」なんて思う暇もないほど楽しく過ごしています。とてもハッピーで幸せだし、この世界から去ることほど怖いことはありません。

そして何度も繰り返しますが、あの展示はあくまでフィクションです。
行方不明展の世界は実在しないし、あの中で行方不明になった人も、それを探す人も実在しません。

ただ、「消えてなくなってしまいたい」「行方不明になりたい」という願い自体だけは本当に存在すると信じています。
わたし自身がかつて少しだけ、似た願いを背負って生きていたから。

この行方不明展に行った人や、これから行こうとする人の中にも、現在進行形で「消えてしまいたい」「行方不明になりたい」と願う人がいるかもしれません。
その人は、この行方不明展にどんな思いを抱くのでしょうか?

……


それはそれとして

今回同行してくださった秋Pという男はおそらく日本でも有数のスーパーポジティブヒューマン。この展示に対しても、わたしとはだいぶ違う感想を抱いたようでした。

自分は行方不明になりたいと思いません

……かっけえ!!!!!!!!!!


ということで、「行方不明展」とっても面白い企画でした!

ジャンプスケアやゴアのようなあからさまなホラー要素はほとんどないので、怖いのが苦手な人でも頭をひねって考えながら楽しめる展示だと思います。
興味のある方には是非行っていただきたいですし、一緒に感想を言い合えたらうれしいです。

最後に、まったく関係のないオモコロの記事を載せておきますね。展示を見ながら「そういえばあの記事って面白かったよなあ」と思い出したものです。


では、今日はこれで!

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