企業を「プロダクトモデル」へ。『TRANSFORMED』が出版されました。
本日『TRANSFORMED イノベーションを起こし真のDXへと導くプロダクトモデル』が発刊となりました。
光栄なことに日本語訳を担当する機会に恵まれましたので、書籍について少し紹介をさせてください。
(2024/09/30現在:Kindle版は数週遅れての発売となります)
会社に「プロダクトモデル」を導入するための書籍
著者であるマーティ・ケーガン(Marty Cangan)は、プロダクトマネジメントのバイブルとして世界中で名高い『INSPIRED』の著者です。そのケーガン氏が率いるシリコンバレープロダクトグループ(SVPG)が執筆するシリーズ書籍4作目となるのが本書『TRANSFORMED』です。原著は2024年3月に発刊され、なるべく早く日本語でお届けできるようにタイトなスケジュールで翻訳を進めました。
SVPGは、Google、Apple、Adobe、Netflix、Airbnb、Disney、Amazonなど、様々なテック企業を支援した実績があり、 過去のシリーズ書籍でもその事例や人物が紹介されています。しかし、本書の冒頭部分にもあるように、「自分たちの働き方は、そのようなテック企業とは大きく異なっている。その働き方をどのように導入すれば良いか」という問いかけが多かったために本書が執筆されました。本書では、ユーザー価値の面でも、ビジネス価値の面でも優れたプロダクトを生み出す企業のモデルを「プロダクトモデル」と名づけ、そのモデルを構成する要素や原則、そのモデルへと移行するための戦術や事例を紹介しています。
つまり本書は、会社の中に優れたプロダクトを作り出す構造と文化を作り上げ、本来の意味での「デジタルトランスフォーメンション(DX)」(顧客起点の価値創出のための事業やビジネスモデルの変革)をテーマとした書籍とも言えます。(とはいえ、後述しますが「DX」の文脈でのみ役立つ書籍というわけではなく、あらゆるプロダクト企業に役立つ内容となっています。)
なお、「プロダクト主導企業」や「プロダクト駆動企業」という言葉が使われることがありますが、そのような言葉によって「プロダクトがすべてに対して優位である」というニュアンスを関係者が感じてしまう弊害を避けるために、本書では別の用語(「プロダクトモデル」)が採用されています。
取り扱われる内容
本書では、プロダクトモデルにおける「3つの側面」、「4つのコンピテンシー」、「5つのコンセプト」と、「20の原則」が基礎となり、その詳細が語られています。
プロダクトモデルへの変革の3つの側面:
作り方を変える/問題解決の方法を変える/解くべき問題の決定方法を変える4つのプロダクトモデル・コンピテンシー:
プロダクトマネージャー/プロダクトデザイナー/テックリード/プロダクトリーダー5つのプロダクトモデル・コンセプトと、関連する20の原則
・プロダクトチーム:解くべき問題でエンパワーする/アウトプットよりもアウトカム/オーナーシップ意識/コラボレーション
・プロダクト戦略:集中する/インサイト駆動/透明性/複数に賭ける
・プロダクトディスカバリー:ムダを省く/プロダクトのリスクを評価する/迅速な実験を受け入れる/責任を持ってアイデアをテストする
・プロダクトデリバリー:小さく、頻繁な、独立したリリース/計測可能にする/モニタリング/デプロイ基盤
・プロダクト文化:プロセスよりも原則/コントロールよりも信頼/予測可能性よりも革新性/失敗を乗り越え、学ぶ
また、本書籍では変革に成功した会社の変革のストーリーや、そういった企業が起こしたイノベーションの事例が報告されます。旅行代理店や鉄道会社、フィットネス会社、印刷会社、健康保険組合、そして多くの人がすでにその変革成果を知るAdobeなどの事例です。そのようなストーリーには、どのようなプロダクト成果、ビジネス成果があったかが必ず合わせて語られます。そして、事例によってはその変革を推進した本人の一人称によって語られています。
なお余談ですが、この『TRANSFORMED』は、前々著の『EMPOWERED』の中でもその出版が予告されていました。当時はSVPGのパートナーであるリア・ヒックマンが執筆することが宣言されていましたが、その後ケーガン氏が代わりにその筆を取ることがSVPGブログにて通知されました(ワークライフバランスの事情や、重要なクライアントワークの波の都合だったようです)。しかし嬉しいことに、本書のAdobeの事例については、その変革を推進するリーダーの一人で、プロダクト責任者であった、リア・ヒックマン本人からリアルに語られています。
また、より具体的なものとして、変革を推進する中で社内外(顧客、営業、CEO、取締役会、事業部門、CS、マーケ、財務、人事、CIO、PMO、プロダクト組織内部)から起こるであろう「反対意見」の実例と、それにどのように答えるべきかが語られます。また、そういった組織とのあるべき関係性についても語られます。実に生々しく、役に立つ内容となっていますので、ぜひ手に取ってみてください。
また、原著の出版に伴って、SVPGのブログでは、書籍では取り扱われていないプロダクトモデルに関する記事が公開されています。残念ながら日本語版はありませんが、以下のようなテーマに興味がある方は目を通してみてください。(※日本語タイトルは筆者による訳)
The Product Model at Amazon (Amazon社におけるプロダクトモデル)
The Product Model and Org Design (プロダクトモデルと組織デザイン)
The Product Model in Outsourcing (アウトソーシング開発におけるプロダクトモデル)
The Product Model in Government (政府におけるプロダクトモデル)
The Product Model in Traditional IT(従来のIT組織におけるプロダクトモデル)
The Moral Case for the Product Model (プロダクトモデルの道義的側面)
Transformation Regrets (トランスフォーメーションにおける後悔)
Good Product Coach / Bad Product Coach (良いプロダクトコーチ、悪いプロダクトコーチ)
DXのためだけの書籍?いいえ。
編集者とも議論し、マーケティング上の観点からサブタイトルに「DX」という文言を入れました。メインターゲットである、「熱意を持ってDXに打ち込んでおられる方々」に確実に届けるにはその方が良いという判断です。
しかし、創業ながらにしてプロダクトネイティブであった企業でも、その組織や事業の規模拡大に伴って、プロダクトモデルの持つ良い価値観や文化を維持したままスケールすることは非常に難しいでしょう。
「自分たちは既にプロダクト企業だ」と思っている方々にもぜひ手に取ってほしいと思っています。自分たちは良い文化を保てているか?自分たちが大切にしている良い価値観や文化はなんなのか?を改めて知るきっかけになるかと思います。
DE&I
当書籍内ではDE&Iを重要視した記述があります。SVPGシリーズの前著『LOVED』では、その印税がテック業界のマイノリティー支援の団体に全額寄付されたとのことです。私もその価値観に賛同・共感し、(全額ではなく恐縮ですが、)印税の一部を国内のテック関連のDE&Iを推進する団体へと寄付させていただきました。本書がそういった多様性に対する価値観へも目を向けて、行動をとるきっかけになれば良いなと考えています。
ポエム:マーティ・ケーガンと私
※自分語りなので、興味のない方は飛ばしてください。
私がプロダクトマネージャーと言う職種を知った当時、深くプロダクトマネジメント学んだのが『INSPIRED』でした。当時はまだ現行の第2版が出版されておらず、(第2版の監訳者のお一人でもある)佐藤真治さんをはじめとした有志の方々が翻訳された初版の翻訳文章(なんとiPhoneアプリでリリースされていました)を読んでいました。
プロダクトの提供価値とビジネス目標のバランスを取ることの難しさに悩んでいた当時の私にとっては、まさにそこで語られる「プロダクトマネジメント」の仕事が自身のやりたい仕事であると確信につながりました。
2019年には当時運営に携わっていたプロダクトマネージャーカンファレンスで基調講演としてケーガン氏を日本にお呼びしました。当時出版される直前であった『EMPOWERED』に関連した話をしてくださり、「Ordinary People, Extraordinary Product」というキャッチフレーズに衝撃を受けたのを覚えています。(ちなみに運営メンバーとケーガン氏で食事会もしたのですが、運営当日でエネルギーがゼロになってしまっていた私はケーガン氏とディスカッションやおもてなしをあまりできなかったのを、今でも少し後悔しています。)
今回そのケーガン氏が執筆した書籍を私自身が翻訳できた事はとても感慨深いものがありました。相変わらずの歯に衣着せぬマーティ節に耳が痛くなりながらも、その率直な言葉に改めてプロダクトマネジメントの重要な基礎に立ち帰ることができたと感じています。
また、本書ではプロダクトづくりを支援する第三者的な立場として「プロダクトコーチ」の有用性が積極的に紹介されます。私自身も2023年からプロダクトコーチと名乗り、自身の会社を起業しました。実は(もちろん?)その呼称を名乗った理由にはケーガン氏がプロダクトコーチと言う役割を提唱していたことが強く影響しています。プロダクト作りに強く関わった経験があり、そこでリーダーシップを発揮した経験を持つ人物がプロダクトコーチになることの有効性を彼は提示しています。
本書の中でもプロダクト企業で活躍されてきた方々がどのようにプロダクトコーチへのキャリアへとシフトしたのかが紹介されています。私自身も自身でプロダクト作りをする楽しさと素晴らしさを体験しつつも、それ以上にそこに熱意を持つ人たちを支援し、その人たちが大きく活躍されるのを目の当たりにすることに喜びを感じています。
本書の出版以降、特にプロダクトマネジャーのネクストキャリアの一つの選択肢として「プロダクトコーチ」が挙がってくることを願っています。
本書の発刊と同時期に、及川卓也さんの『ソフトウェアファースト 第2版』や市谷聡啓さんの『アジャイルなプロダクトづくり』など、大企業における変革やプロダクトづくりを支援し、励ます素晴らしい書籍が発刊されています。(私自身、このお二人から、キャリア上の大きな影響を受けました。)これらの書籍群によって、多くの企業でさらに多くの真に良い変革が起きることを願います。
なお、本書『TRANSFORMED』に関連したイベントなども企画しければと思っていますので、その際にはぜひご参加いただければと思います。
謝辞
なお、当翻訳においては、プロダクト開発の現場で熱意を持って取り組まれている以下の友人に翻訳のレビューをお願いしました。それぞれの確かなご経験や観点から来る、たくさんの多様なフィードバックをくださり、改めて本当にありがとうございました。ぜひ今後もよろしくお願いします。
今井恵子さん、小田愛莉 さん、佐藤正大さん、中村洋さん、西山夏樹さん、松岡綾乃さん、水嶋 彬貴さん、宮里裕樹さん
本書に寄せられた感想
以下は、本書のレビューに参加してくださった方々や献本させていただいた方々からの感想のポストです。ぜひご自身の課題感に一致するかどうかの確認にも使っていただければと思います。感想をポストをしてくださったみなさん、ありがとうございました。
もし書評ブログなどを書いてくださった方がいましたら、当記事にリンクを貼らせていただきますので、XでDMくださいませ🙏
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