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Best JAZZ Albums of 2023 with Reviews

大手のレコード屋を退職し、京都に移住してから早いもので二年が経ちそうです。相も変わらずレコード屋(兼ミュージックバー)でバイヤーをしてますので、ぜひ遊びにきてください。

2023年のジャズの年間ベストです。全部で51枚、作品の系統ごとに整理してディスクレビューをつけました。一万字ほどありますが、ある程度まとめて読んだり聴いたりすると面白さが伝わるのかなと思います。2023年のリリースは想像以上に面白い作品ばかりです。

(もし役にたったらぜひ投げ銭お願いします!!書くの疲れたので!!)

過去の年間ベストに興味がございましたら下記よりどうぞ。

この記事以外にもう一個年間ベスト的なものを選んでいます。

このリストを選んでいる時点で100枚を超えてしまってました。その中には年ベスとして選ぶほどではないけど、よく聴いたな、選曲するときにかけたな…って作品がたくさんあったので、どうせならと毎月選曲させてもらっている京都のbar黒茶屋に捧げる形でまとめました。レビューはつけていませんが、その代わりにプレイリストがついています。


■ Aaron Diehl / Zodiac Suite
近年めきめきと頭角を現しているピアニストがオーケストラとコラボ。しかも女性ジャズミュージシャンのレジェンドであるメアリー・ルー・ウィリアムズの、ジェリ・アレンも取り組んだ同名名作に挑んでいるから驚いた。年々重要度が増しているメアリー・ルーの曲がオケの壮大なアレンジにもぴったりハマっているのは言わずもがな、占星術から着想を得た楽曲の数々をよりミステリアスかつ精細でみずみずしく表現してみせた。傑作。

■ James Brandon Lewis / For Mahalia, With Love
トリビュート作ではこちらもよかった。アメリカのサックス奏者による、エリントンの『Black, Brown & Beige』にフィーチャーされていたゴスペル系シンガーのマヘリア・ジャクソンへのトリビュート作。2023年ではAntiからリリースした「Eye of I」も良かったけど、ブルース〜ゴスペルの影響が強く現代のアルバート・アイラーとでもいうべきルイスのいいところが出まくっている。フリー系の布陣らとギリギリ抽象的にならず描く情感が見事。

■ Jason Moran / From The Dancehall To The Battlefield
14年にはファッツ・ウォーラーのトリビュート作をリリース。自身のレーベルを立ち上げてからはマーチングバンドとコラボしたりと、選ぶ題材もクオリティもいちいち最高なピアニストが新たに選んだのは、戦前の黒人作曲家で黒人だけの楽団を作っていたというジェイムズ・リース・ヨーロッパ。ストライドなどトラッドなスタイルを熟知したジャイソンだからこそできる素晴らしい作品に。モランがトレンドを作っていると行っても全然過言じゃない。

■ Sullivan Fortner / Solo Game
ストライドやブギウギなどトラッドなスタイルを完璧に消化しつつ、コンテンポラリーな尖った表現もできる、いま最も注目すべきピアニストの一人がサリヴァン・フォートナー。ピアノソロでアコースティックな表現を存分に表現したDisc1と、オルガンや自身のボイス、さらにはポストプロダクションを駆使し現代的で圧巻の音像を描いたDisc2という超大作にして、今後数年はおりに聴くことになりそうな最高傑作。23年の一位を選ぶなら確実にこの作品。異次元。

■ Cécile McLorin Salvant / Mélusine
作品を出すたびに自身の最高傑作を更新していくヴォーカリストのセシル・マクロリン・サルヴァントによるフランスに伝わるおとぎ話をモチーフにした作品。フランス語に加えてクレオールまで使い分け、フランスとハイチのハーフである彼女自身と、アフリカン・アメリカンのストーリーとして歌いあげる。NY生まれハイチ育ちのサックス奏者ゴッドウィン・ルイスが編曲にも参加してたりとミュージシャンの配役もアレンジも素晴らしい。

■ Meshell Ndegeocello / The Omnichord Real Book
現代シーンのキーパーソンがブルーノートに移籍。さまざまな神話やSFなどを咀嚼して自身とアフリカン・アメリカンのストーリーを想像し、現代屈指のミュージシャンらを的確に配置し壮大な音像を描いた。レトロ楽器オムニコードを制作の出発点にされた楽曲は、そのコンセプトとは裏腹に、歌い演奏し続けられてきたスタンダードのようにさらりとした聴き心地だ。まるで儀式や祈りのようにも響く、疑いようのない最高傑作。

■ Chief Adjuah / Bark Out Thunder Roar Out Lightning
現代最強のトランペッターの新作と言いたいところですが、新作では自作楽器Adjuah's Bowに持ち替え、ドクター・ジョンで有名な「Iko Iko」のほか自身のルーツであるマルディグラ・インディアン、カリブ、西アフリカにいたるまでのストーリーを弾き語った。ガラッと音楽性を変えたように聴こえますが、彼が標榜しているストレッチ・ミュージックとして考えるとちゃんと繋がっているし必然しかない。来日公演にも足を運びましたがマジで素晴らしかった。

■ Aja Monet / When the Poems Do What They Do
NY生まれの詩人によるデビュー作は上記チーフ・アジュアによるプロデュースで、打楽器のウィーディー・ブライマやエレナ・ピンダーヒューズらアジュアの右腕ミュージシャンが集結し現代最高峰のポエトリー作品になったといっていいだろう。徐々に熱を帯びてくるバンドのサウンドに、情感豊かなポエトリーが乗り、ストーリーを語る。タイニー・デスクではギル・スコット・ヘロンの相方ブライアン・ジャクソンがピアノを弾いていたのにもグッときた。

■ Arooj Aftab / Love in Exile
ポスト・クラシカルの名門New Amsterdamから出したデビュー作が高い評価を得たパキスタン出身のシンガーが、インド系のピアニストのヴィジェイ・アイヤーと、同じくパキスタン系のベーシストであるシャザード・イスマイリーとのミニマムな編成で作品をリリース。ドローン的だったりミニマルだったりするベースラインと、シンセやピアノが織りなす神秘的かつ瞑想的で過激な音響を、ウルドゥ語による歌唱法で導き、アフロ・ディアスポラの音楽ともどこか共鳴するように響かせた。

■ Kofi Flexxx / Flowers In The Dark
シャバカ・ハッチングス率いる別名義のプロジェクト。ダンスミュージックを昇華した現代UKジャズの第一線で活躍していた彼ですが、ついにサックスや各プロジェクトから距離を置くことを宣言。いままで各プロジェクトで取り組んできたアフリカ由来のポリリズミックなリズムも聴こえますが、注目すべきはフルートや尺八がミステリアスにも神秘的にも全体を彩り、これまでとは別のベクトルでアフリカを追求した成果になっていること。22年に出した『Afrikan Culture』方面の延長とも言えそう。要注目。

■ Benjamin Jephta / Born Coloured, not Born-Free
シャバカが率いていた「アンセスターズ」に参加していたミュージシャンの技術の高さに驚いているうちに、ピアニストのンドゥドゥゾ・マカティーニがBlue Noteから作品出したりと、年々存在感を増している南アフリカ・シーン。同国出身のベーシストの新作が良かった。デビュー作はネオソウル以降の現代ジャズって感じだったんですが、今作はアパルトヘイトをテーマにアフロな打楽器も取り入れ、シーンの成熟を感じる力強い作品に。

■ Balimaya Project / When The Dust Settles
イギリスのジャンベ奏者率いる大所帯バンドによるセカンド作。ジャンベやトーキングドラム、コンガなど多数のパーカスが織りなす重厚感あるポリリズムと、厚みがあり祝祭感あるストレートなホーンアレンジが素晴らしい。まさにUKのアフロ・ディアスポラを象徴するような作品だと思うし、UKジャズがダンスミュージックだってこともよくわかる。DJでかけても、フェスにいても最高そうなやつ。ヌバイア・ガルシアらココロコなんかと合わせて聴きたいやつですね。

■ Aguidavi do Jêje / S.T.
年々注目度を増しているアフロ・ブラジリアン界。その草分け的存在でビッグバンドを率いていた作曲家巨匠レチエレス・レイチや、その門下生といえるミュージシャンの作品を次々とリリースし超勢いのあるブラジルのレーベルRocinanteから、レチエレスの作品にも参加していたパーカッション奏者率いるパーカッション・アンサンブルによるデビュー作。インスタを見る限り、子供たちにレクチャー的なこともしているようなので興味深いやつ。もちろん音楽も最高です。

■ Jonathan Suazo / Ricano
プエルトリコ出身のサックス奏者による久々のアルバム。今作では自身のルーツであるプエルトリコとドミニカを掘り下げ、祝祭的かつセンチメンタルなコーラスやパーカッションが織りなすポリリズムに、コンテンポラリーなハイブリッドさをあわせ文句なしの最高傑作を生み出した。同じコミュニティの先輩であるデヴィット・サンチェスやミゲル・ゼノンも参加。アフロ・キューバン・シーンの新たなスターになる予感がする。

■ Bokanté / History
スナーキー・パピーのリーダー、マイケル・リーグ率いる中近東や西アフリカ、カリブの打楽器やギターやウードによるプロジェクトによる三作目。アフリカン・アメリカンのルーツである、アフリカや中東の祝祭的で分厚いパーカッションやエキゾチックな旋律を基調に、カリブのクレオールで〈歴史〉を乗せて歌う。コロナ禍にモロッコをはじめ中東の音楽にどっぷり浸かり、ついにはソロ作まで作ってしまったリーグの成果がここにも。

■ Harold Lopez-Nussa / Timba a la Americana
キューバ出身のピアニスト、ハロルド・ロペス・ヌッサが老舗レーベルであるブルーノートに移籍。しかもマイケル・リーグが共同プロデューサーだから驚いた。キューバの伝統的なリズムであるティンバに、ミシェル・カミロみたいなゴリゴリのピアノ楽しい。フュージョン的にもワールドミュージック的にもならず、いいスパイスになっているシンセの使い方もセンスが良い。久々にハーモニカのグレゴア・マレが吹きまくってるのを聴けたのも嬉しい。

■ Arturo O'Farrill / Legacies
グラミー常連の作曲家によるBlue Noteからの二作目。今作はピアノトリオでプレイヤーとしての魅力が爆発。多くのミュージシャンに愛されたスタンダート曲に加えて、これから更に評価が進んでいきそうなカーラ・ブレイや自身の父であるチコ・オファリル、プエルトリコの作曲家を取り上げ、パワフルな打鍵でフリーやバップ、ラテンジャズを昇華した躍動感ある展開を魅せ<レガシー>として繋いだ。若手から大御所まで積極的にリリースする老舗ならではのアルバム。めちゃ聴きました。

■ Billy Childs / The Winds of Change
こちらもグラミー常連の大御所ピアニスト。ブラジル色が濃い壮大な音像を描いていたでて前作から一転、アンブローズ・アキムシーレをフロントに迎えダークでエモーショナルな情感をストレートに表現した快作。エッジの効いた展開とコンポジションは熟練した彼らならではに表現って感じですが、チック・コリアの名曲『Crystal Silence』や、フレディ・ハバードの演奏が有名な『The Black Angel』を現代的な手触りでアキムシーレに吹かせるセンスもさすが。

■ Lakecia Benjamin / Phoenix
コルトーレン夫妻に捧げたデビュー作が素晴らしかった新鋭サックス奏者による二作目。自身が描きたいストーリーに合わせてレジェンドを配置。ジャズ喫茶に似合うストレイトアヘッドさが最高ですが、政治活動家のアンジェラ・デイビスがいたり、レジェンドのダイアン・リーヴスやウェイン・ショーターがいたりと、前作より一層演奏とアルバム通してストーリーを語ることを重きを置き、アフリカン・アメリカンとしての物語とジャズという歴史を雄弁に語る。

■ Yussef Dayes / Black Classical Music
UKジャズ最盛の起爆剤となったカマール・ウィリアムズとのユニットや、トム・ミッシュとの共作など、シーンの中心にいるドラマーのユゼフ・デイズが満を待してリーダー作をリリース。冒頭にシーンの成熟を感じるアグレッシブなバップ曲を置くのが最高ですが、レゲエやスカといったアフロ・ディアスポラの音楽や、グライムなどUK独自の音楽を、盟友のロッコ・パラディーノとトラック的にさらりと聴かせてしまっているから素晴らしい。数曲あるヴォーカル入りの楽曲も美しい。

■ Brandee Younger / Brand New Life
シーンにとって欠かせない存在となっているハープ奏者によるimpulse!からの二作目は、アリス・コルトレーンと並んぶレジェンド、ドロシー・アシュビーに捧げた。ドロシーの楽曲を溜め息が出るほどより一層美しくやってしまうのはもちろん、ドロシーを再発見してきたヒップホップ界のレジェンドを客演させ、さらにはサンプリングと生演奏を共存させ唯一無ニの作品を作るマカヤ・マクレイヴンにプロデュースとドラムに迎えた、サウンドもストーリーも隙がないやつ。

■ Endea Owens / Feel Good Music
名門ジュリアード出身で、あのジョン・バティステがハウスバンドを務めていたアメリカの人気コメディアンが司会している番組で、現在ベースを弾いているのがエンデア・オーウェンズ。同じハウスバンドのメンバーのほか若手たちが集まっていて高い技術があるのはいわずもがな、バティステの遺伝子とも言えそうなジョイフルかつハッピーで多幸感あふれるスタイルと作曲が最高に心地よい。タイニー・デスクでのライブも良かった。

■ Sean Mason / The Southern Suite
マルサリス人脈の若手有望株が、ウェイントンのお膝元であるリンカーン・センターのレーベルからデビュー。エメット・コーエンに通じるオールドスクールなジェイフルさがありつつ、高い技術と表現力が求められるシーンからでてきただけあってその魅せ方もさすが。しかも自身のピアノを存分に聴かせて個を輝かせるっていうよりも、作曲家として、バンドリーダーとして、総体として響くようにプロデュースしてる感があるからすごい。こういう感覚の若手が増えているのも注目。

■ Russel Hall / Black Caeser
エメット・コーヘンがコロナ禍から始めたEmmet’s Placeで一際存在感あったベーシストのラッセル・ホールの新作には、上記シーン・メイソンや、数年前にだしたデビュー作が話題になったトランペッターのギブトン・ルイスら若手シーンの注目株が集結。オーセンティックなジョイフルさや、コンテンポラリーなゴリっとした質感のどれも捨てずに、すべて一緒にまとめ上げて世に出せてしまうのはこの世代ならではな感じがする。こういうミュージシャンを追っていると良いものに出会えますね。

■ Yayennings / Vol.2
スナーキー・パピーで長年トランペットを吹いているジェイ・イェニングによる久々のリーダー作。シーン・メイソンが50、60年代のNYサウンドの現代版だとすれば、こちらは一曲ごと2〜3分とコンパクトでありつつ、アツすぎないソロがあり、サックスとのアンサンブルもシンプルながら室内楽的に美しく聴かせた、クール・ジャズと呼ばれた50年代のウェスト・コーストがコンセプト。ちなみにサックスを吹くのはSnarky Puppyに参加するボブ・レイノルズ。

■ Sultan Stevenson / Faithful One
イギリスのトゥモローズ・ウォーリアーズ出身のピアニストによるデビュー作。UKジャズといえばヌバイヤ・ガルシアやエズラ・コレクティブなどダンサンブルなやつが話題になりがちですが、こちらは露骨にマッコイ・タイナーっぽい瞬間が見え隠れする、同国の大御所のコートニー・パインの登場を思わせる至極ストレイトアヘッドな佳作。いまのアフロ・ディアスポラのシーンからこういうのが出てくるのは意外ではあったので嬉しいサプライズでした。

■ Roy Hargrove / The Love Suite: In Mahogany
ドキュメンタリー映画が一部で話題だったロイ・ハーグローヴが、93年にリンカーン・センターのために書き下ろした楽曲を披露したライブ音源。しかもめちゃくちゃ内容が良くて、当時23歳で作曲家としても才能を発揮しまくり、上に書いたような若手たち並べても古さを一切感じさせずフレッシュに聴けてしまう組曲を書いていたからすごい。多忙な中でもヴェニューに出向いて若手とセッションし続けていたっていうから、その遺伝子は彼らにも引き継がれているはず。

■ Dan Wilson / Things Eternal
出す作品がいちいち良くて評判なギタリストのダン・ウィルソンの新作もやっぱり良かった。ジャズはもちろん、もはやスタンダードと言って良いスティーヴィー・ワンダーやスティング、ビートルズの楽曲を、オールドスクールなスタイルと流麗で軽やかなギターでまとめ上げた。ハソウルフルなヴォーカルが入っているのも気持ちいいし、オルガンジャズの名手と一緒にやっていただけありハッピーさジョイフルさを忘れないのも良い。

■ Johnathan Blake / Passage
現代最高のドラマーの一人であるジョナサン・ブレイクによるBlue Note移籍二作目。コンテンポラリーらしい複雑で緊張感がある即興の中にも、センチメンタルだったりノスタルジックな情感やストーリーを描いていて、長い組曲っぽいアルバムや曲を作る若手のジョエル・ロスやイマニュエル・ウィルキンスらの良さが出まくってるなぁ感じるし、彼らのような若手たちからブレイクのような00年代以降を支えてきた人たちも作曲面でも作品作りでも良い影響を受けているよう思える。

■ Walter Smith III / Return to Casual
ウォルター・スミスまでBlue Noteと契約してアルバムを出したから今年はやばい。しかもテイラー・アイグスティ、マシュー・スティーヴンス、ハリシュ・ラガヴァン、ケンドリック・スコットと、ずっとシーンを前に進めてきたオールスターが集っているから尚すごい。各人のソロや即興への反応の仕方ひとつひとつがまるで計算されたように作用する凄まじさがあるのに不思議とカジュアルに聴ける。いわゆるコンテンポラリージャズの成熟の一つのゴールとすら言えると思う。

■ David Cook / Loyal Returns
グレッチェン・パーラトの来日公演に帯同していたのをキッカケに知ったピアニスト。全く知らなかったけどテイラー・スウィフトとかの音楽監督をしてるらしくポップス方面でも超売れっ子。しかもストイックな作品リリースするSunnysideからのリリースで、ベン・ウェンデルやケンドリック・スコットが参加する直球のコンテンポラリージャズだったから驚き。他のジャンルで成功しつつ、根っこがジャズだからっていうことでいい作品リリースする人が今後増えていきそうな予感がします。

■ Jahari Stampley / Still Listening
毎年数多くの若手ミュージシャンがデビューして、その技術力とプロダクションの高さに驚くばかりですが、なかでもデリック・ホッジやマカヤ・マクレイブンに起用され、作品や来日公演で強烈な印象を残したピアニストのジャハリ・スタンプリーが満を待してデビュー。年上世代が温めたハイブリッドなジャズを持ち前のテクニックで2010年代の総決算のように鮮烈に響かせ、他方アルバムの半分を占めるピアノソロを美しく聴かせる。要チェック。

■ Micah Thomas / Reveal
ジョエル・ロスやイマニュエル・ウィルキンスと同世代かつ盟友的存在のピアニストによるセカンド作。抽象的な表現からハイブリッドなサウンドまで鮮やかに弾きこなし多方面で名前を見かけるようになったマイカだけど、リーダー作は意外にもずっとオーセンティックな手触り。やろうと思えばなんでも作れそうなものですが、あえて枠組みを科すことでサリヴァン・フォートナーやジェイソン・モランとも共振するピアノの可能性を追求しているようにも見える。

■ Jeremy Dutton / Anyone is Better Than Here
話題の若手から中堅まで、錚々たるミュージシャンが求めてきたドラムスのジェレミー・ダットンも満を辞してデビュー作をリリース。ジョエル・ロスやジェイムズ・フランシーズらに加えて、アンブローズ・アキムシーレやベン・ウェンデルやマイク・モレノが集結し、共同プロデュースにはケンドリック・スコットが参加していて、シーンからの期待をめちゃくちゃ感じる。ダークでエモーショナルな作曲と、それを完璧に表現するサウンドが素晴らしい。

■ Linda May Han Oh / The Glass Hours
シーンにとって最も重要なベーシストといっていいリンダ・オーは、ピアニストのファビアン・アルマザンが主催するレーベルBiophiliaで自身の音楽を着実にブラッシュアップしている。プログレッシブで複雑な楽曲をいとも簡単に演奏しつつ、ファビン・アルマザンの異物感あるピアノやサラ・セプラのヴォイス、ちょっとしたエレクトロニクスを調和させ、センチメンタルにもエモーショナルにも情感を宿した。流麗なサックスのマーク・ターナーの起用も必然に感じる。

■ JD Allen / THIS
毎年のように編成を変えつつもアフリカン・アメリカンとしてのアイデンティティをしっかり込めたアルバムを作り、どれもジャズ喫茶映えする高いを生み出すJDアレンですが、24年にリリースしたのはドラムとエレクトロニックという意外な編成に。エレクトロニクスがドライでダークな情感を描き、アレンがフォーキーにもブルージーにもエモーショナルに吹き鳴らす。BLM以降、日に日に混沌としていく世界情勢に共鳴するかのようだ。

■ Marcus Strickland Twi-Life / The Universe's Wildest Dream
グラスパー世代のサックス奏者マーカス・ストリックランド。気づいたら自分のレーベルを作ってアルバム出してました。グレッチェン・パーラトとのコラボ作が素晴らしかったリオネル・ルエケをフィーチャーした②なんて最高そのものですが、アフリカをはじめとするリズムの多彩な使い方と、バンドサウンドをサックスやバスクラを自然に重ねて彩るセンスはさすが。今年はマーカスが参加してるクリスチャン・マクブライドのニュー・ジョーンも良かったですね。

■ Ben Wendel / All One
現代最高峰のサックス奏者がイギリスのEditionと契約したのは23年のビッグニュースの一つと言っていいと思うけど、その超高度なテクニックとコントロールでサックスやバス・クラリネットを多重録音で重ね、一人でオーケストラに匹敵する壮大な音像を作ってしまったからぶっ飛んだ。現代オペラでも曲を書き始めたテレンス・ブランチャードや、異次元な歌唱力のセシル・マクロリン・サルヴァントの起用も納得感しかないし、ぴったりハマっている。

■ Donny McCaslin / I Want More
2023年のサックス奏者の作品のなかで屈指の出来だった。デヴィット・ボウイの『★』に参加して以降の作品はロック方面に振り切りすぎていて正直トゥーマッチだったんですが今作で最高の形で結実。ペダルを使ったサックスを吹き散らし、それを補完するように埋め尽くされたエレクトロニクスの配置も見事。マーク・ジュリアナやジェイソン・リンドナーがそれぞれ試してきたことも、この作品のためにあったと過言でないくらい完璧に結びついている。リファレンスになっているSpotifyのプレイリストも必見。

■ John Raymond & S. Carey / Shadowlands
トランペッターのジョン・レイモンドが、ヴォン・イヴェールのSキャリーと共作をリリースしたことは個人的に大きなニュース。美しい楽曲があり、そこにトランペットでレイヤー作りエモーショナルな情感を表現。ギラッド・ヘクセルマンとのプロジェクトReal Feelsで実践していたインディーロック的な音響の作り方のひとつの完成形だと思います。クリス・モリッシーやアーロン・パークスがいたり、マスタリングはデイラー・デュプリーがやっていたりと、なにもかも納得。

■ Rob Luft / Dahab Days
UKのギタリスト、ロブ・ラフトの三作目もインディーロック系とのハイブリッドな作品として一つの完成形。タイトルはコロナ禍を過ごしたエジプトのダハブに由来していて、たしかに中東的な影響も聴こえてくるけど、彼にとって大きな影響となっているのは、アルバニア出身でECMから作品を出しているヴォーカリストのエリナ・ドゥニなのかなと。すでに二作品を一緒に作ってツアーをしまくり、故郷にとどまらず多くの国のフォークを取り上げている彼女の存在はどう考えても大きい。

■ Lage Lund / Most Peculiar
いわゆるコンテンポラリー系のジャズギタリストの中でも強烈な作品を作っているのがラーゲ・ルンド。前作からダークで不安定な質感を躊躇なく表現するようになり、今作ではサリバン・フォートナー、マット・ブリューワー、 タイショーン・ソーリーと最高に尖ったメンツで更に推し進めた。ギターを重ね、エフェクターを使い、ときに歪で抽象的に表現にも踏み込むけど、フリージャズ的ではなくそれらを必然性があるように聴かせる。

■ Genevieve Artadi / Forever Forever
ルイス・コールとのバンド、ノウワーでヴォーカルを務めているジェネヴィエーヴ・アルターディによるセカンドアルバム。ルイスの音楽にも通じるジャンルレスな不思議さにポップさが漂よう楽曲があり、スタンダード曲やブラジル音楽のようなハーモニーや、なんども聴けてしまうさらりとした質感が同居させているし、カート・ローゼンウィンケルの『Caipi』に参加して以降、その路線で音楽を追求してるペドロ・マルチンスがその音楽性を補強するしているのもいい。

■ Kassa Overall / ANIMALS
プロダクションと生演奏をコラージュを作るような手触りで継ぎ合わせる感覚は名門Warpに移籍してリリースした今作でさらに進化。ポリリズミックで複雑なリズムもあるし、フリージャズのように不穏でアバンギャルドな瞬間や質感も増したのに、その成果はあまりにも自然体。ラッパーとして、ドラマーとして、プロデューサーとしての視点がシームレスに繋がっているからこそ可能な、自由と革新を備えた唯一無二の傑作。ライブも作品通り強烈でした。

■ Gregory Hutchinson / Da Bang
ロイ・ハーグローヴ世代のドラマーによるまさかのデビュー作。ロイハー世代ってことはつまり、ジャズがネオソウルやヒップホップと接近しシーンが面白くなっていくのをリアルタイムで支えまくっていた人。ニコラス・ペイトンやカート・ローゼンウィンケルら同世代をはじめ、少し世代が下のキーヨン・ハロルドやクリスチャン・スコットらが集結し、ネオソウル以降のジャズを総決算するような作品に。ちなプロデューサーはカリーム・リギンスです。

■ Black Dynamite / Stop Calling Me
スタンリー・クラークやエリカ・バドゥ、近年ではカマシ・ワシントンのバンドメンバーでメタル趣向のキャメロン・グライブスが起用する現代最狂のドラマーであるマイク・ミッチェルによるBlack Dynamite名義での作品。ビートやエレクトロニックミュージック、Pファンク的なサイケデリックさや、なんならメタルやロックを消化した混沌とした音像を、そのケイオスさをそのままにモノネオンにもリンクするポップさでまとめ上げた。快作。

■ BlankFor.ms, Jason Moran & Marcus Gilmore / Refract
エレクトロニック・ミュージシャンが、ピアニストのジェイソン・モランとドラムのマーカス・ギルモアとによるコラボ作。ジェイソンはエレクトロニクスを取り入れた抽象的な作品を作っているし、ギルモアもヴィジェイ・アイヤーや、ビブラフォン奏者でありエレクトロニックな感性も持つパトリシア・ブレナンらの作品に参加する才人なだけあって、二人とも電子音との情感の描き方が本当に見事。元ECMのプロデューサーでのレーベルより。

■ Steve Lehman & Orchestre National de Jazz / Ex Machina
スティーブ・コールマンのM-Baseを深めまくって、その極北のような作品を作っているサックス奏者スティーヴ・リーマンと、フランスの国立ジャズ・オーケストラとのコラボ作。現代随一の超複雑なポリリズムを、大編成のオケがまるでプログラミングされているかのように機能し、スリリングな演奏繰り広げているのだけでもヤバいのに、その上で容赦無くエグい即興が繰り広げられるから圧巻そのもの。この手の作品は米じゃなく、ヨーロッパでどんどん進んでる感ありますね。

■ Darcy James Argue's Secret Society / Dynamic Maximum Tension
New Amsterdamからリリースしていた三作品がコンセプトもクオリティも素晴らしかった、現代最強のコンポーザーの一人であるダーシー・ジェームス・アーギュー率いるビッグバンドの7年ぶりの新作がNonesuchから。マリア・シュナイダーのような情景の描きかたや、ギル・エヴァンスをそのまま並べても違和感がないようなオーセンティックさもありつつ、そこにインディーロック的ダークな質感の込め方が見事。30分超えの超大作曲⑩からミシェル・マクロリン・サルヴァントをフィーチャーした曲への流れが感動的。

■ 挾間美帆 / Beyond Orbits
デビュー10周年という節目、M-Unitとしては5年ぶりにリリースされたアルバムは、名門オーケストラやビッグバンドで着実にキャリアを積み重ねジャズ史の伝統を踏襲しつつ、ミニマルで幾何学的だったり、なんならサンバまで繰り出してしまう、今までで一番尖った革新性を備えた作品に。三章からなる壮大な組曲のほか全曲素晴らしいですが、イマニュエル・ウィルキンスをフィーチャーした⑧がとにかく美しい。

■ Ambrose Akinmusire / Owl Song
ダークでエモーショナルなコンセプトや情感を作品出すたびにアップデートさせてきたアンブローズ・アキムシーレが、まさかビル・フリゼールとドラムのハーリン・ライリーと現代のマエストロ二人とシンプルな編成で、トレンドとは真逆をいくあらゆる要素を削ぎ落とし、即興演奏のコミュニケーションの極北のような、出てくる音の全てが必然のように美しく響き合い、それでいてどこか不穏さを潜ませた作品を出したから驚いた。ニューオーリンズ出身のライリーらしいリズムがあるのをはじめ、アメリカ音楽としての文脈が込められているのもさすが。


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