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色彩デザインにおけるストライクゾーン、という考え方について

先日、Twitterで神楽坂景観塾でのレクチャーまとめを再掲したところ、それを読んだ事務所のメンバーから『かとうさん、もっとこういうこと発信していくべきだと思いますっ!』という感想をもらいました。
神楽坂景観塾で話した内容はこの数年、大学の特別講義に呼んで頂いた際や自治体の職員研修などで話しているもので、自分では都度寄せられる質問の内容などを鑑み、とにかく「(環境)色彩に対する誤解を解く」ことに重点を置いてきたように感じています。
それが面白いのかどうかはよくわかりませんが、特に経験の浅い方にとっては『なるほど、色はそういう考え方で良いんだ』とホッとしてもらえることが少なくないようです。

色彩計画の提案を行う際、私たちは初めから1案に絞りこんで、これがベストだ、という案だけを提案することはまずありません。概ね3つの案というのが一般的で、この話をすると『はいはい、本命と捨て案とその間ね~』と言われることが多いのですが、そうではないことを証明するために私はよく「ストライクゾーン」という概念を例に挙げています。
例えとしてこれがベストかということはさておき、ここで言いたいことは

①     解はひとつではない
②     課題や要求に対する色彩による回答は当然幅がある
  ※何に・どこを重視するかで比重に偏りが生まれる
③ それでも、どの案も同じ目的・目標を叶えるものであることが明らか

ということです(図①)。

色彩計画におけるストライクゾーンとは

ゆえに、私たちは個人的に「現況のこの観点を重視するとこの案の方がいいな」とか「今はこうだけど、今後地域を牽引していく役割と捉えると、こちらの案が望ましいな」等、各案に思い入れはあるものの、その最終的な判断はクライアントや場合によっては地域にゆだねる、という方法をとっています。

どの案が選ばれてもおかしくないように、というと適当かよ!という声も聞こえそうですが。前提条件・現況・課題、そしてこの先の10数年を見据えあるべき姿を考える時。答えがひとつのわけはありませんし、多様な解釈があって然るべきなのでは、と考えています。

一方、その「ストライクゾーン」の選定は案件ごとにかなり慎重かつ微細な調整を行っており、その地域や対象規模・用途などにふさわしい「振れ幅」の検討にあたっています(図②)。

ストライクゾーンはどこにある?

この図は私たちが最も多く手掛けている団地の色彩計画を例にしています。単体ではなく群としてのボリュームを持つ、まちなみの印象にも大きな影響力を持つことを前提に、むやみに色数を使った新規性の強調や、現況との差異を激しく強化するような配色は検討の段階で候補から外しています。
もちろん、目的が色のカラフルさや楽しさを追求するものであれば、右上にあるストライクゾーンが下方に位置する場合もあるでしょう。

私たちが考えるストライクゾーンに捨て案はありません。どの案になっても良いけれど、クライアントがこの案に決めたのであれば『…ならば、この部分だけはA案のこの考え方を取り入れるものアリ』とか『アクセントのこの部分をより強調するとこんな感じになる』というように、調整するとより望ましい見え方になる、という提案をすることも多くあります。

そういう考え方・決め方に最近ではクライアントの方も慣れてきて『A案をベースに、サインはB案と入れ替えたい』とか『2色相で全体をまとめているが、3色相に増やすとどうなるか』等、具体的な要望を頂くことも増えてきました。

こうした調整はあくまでストライクゾーンの中での検討ですので、全体の方針や考え方から大きく外れることはありませんし、もし外れそうになっても『…でもそうすると元のC案と差がなくなりますから、むしろC案でここを調整した方がイメージに近いですよね?』等、軌道修正がしやすい状況になる、という利点もあります。

私は日々まちを歩きながら『ここの色がもうちょっとこうだったら、まちなみの連続性が途切れないのにな』とか『もう一段階、この明るさが抑えられていれば汚れが目立ちにくいはず』という感情を抱くことが多くあります。そうした広域的なつながりや時間の経過に対する色のあり方に対し、自分ひとりができる/関われる機会はあまりにもわずかです。

私は都市やまちの色の選定にかかわるあらゆる人たちが、この「ストライクゾーン」という概念により調整の重要性や汎用性の高さに気づき、ごく自然に「納まる/まとまる/長持ちする色選び」ができるようになって欲しい、と考えています。

特に公的な役割を担う住宅団地や、一般的な土木工作物等の外装・外観が「アート作品のように唯一無二のものである」必要性は、ごくわずかです(ないと困ります)。
そのわずかに全力量をかけて最上の・素晴らしいものをつくるという取り組みはもちろん必要ですが、もしかすると色は特異なものより周囲や現況と関係性をつくることの方により「向いて」いて、複雑な調整だからこそ、それを「解く」面白さがあるとも感じています。

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