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南海トラフの巨大地震のいくつかの想定震度分布

2024年8月8日に,「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が気象庁から発表されました.この情報のなかで発生する可能性が高まっているとされる「新たな⼤規模地震」について,セットで紹介される震度分布は,「南海トラフの巨大地震モデル検討会」による「想定すべき最大クラスの対象地震」のことが多いと思います.2020年に報告書が出ています.

南海トラフで発生してきた巨大地震は,規模や震源域に多様性があることが知られており,最大クラスではない地震も発生してきています.ここでは,もうひとつ前の想定である「東南海・南海地震等に関する専門調査会」が2003年に公表した想定震度分布とあわせてみてみましょう.なお,ここでは同専門調査会で検討された5ケースのうち3ケースをご紹介します.

まず「南海トラフの巨大地震モデル検討会」による最大ケースです.最近よくみかける推定震度分布がこれだと思います.報告書中の図5.1のデータを整形して,震度観測点での推定震度を描いたのが下の図です.以下のように説明されている震度分布になります.

防災対策を検討する基礎資料となる震度分布については、強震波形計算による震度分布4ケースと、経験的手法による震度分布を重ね合わせたものとすることが適当である(図 5.1)。
その結果、この震度分布では、神奈川県の西部から宮崎県にかけての広い範囲で震度 6 弱となっており、静岡県、愛知県、三重県、兵庫県、和歌山県徳島県、香川県、愛媛県、高知県、宮崎県で震度 7 の地域がある。

南海トラフの巨大地震モデル検討会「南海トラフの巨大地震による震度分布・津波高について(第一次報告)」
南海トラフの巨大地震モデル検討会による最大クラスの地震の推定震度分布.震源から遠い部分は省略されている.


つぎに,「東南海・南海地震等に関する専門調査会」による「東海地震、東南海地震、南海地震の震源域が同時に破壊されるケース」の推定震度分布です.上の「最大クラス」よりひとまわり小さいイメージでしょうか.それでも静岡県から高知県にかけての太平洋沿岸に震度7となる地域があります.

東南海・南海地震等に関する専門調査会による「東海地震、東南海地震、南海地震の震源域が同時に破壊されるケース」の推定震度分布.震源から遠い部分は省略されている.

3つ目は「東南海・南海地震等に関する専門調査会」による「東海地震と東南海地震の震源域が同時に破壊されるケース」の推定震度分布です.南海トラフの東側が震源域となり,強く揺れる範囲も小さくなります.静岡県から三重県にかけて震度7となる地域があります.「南海トラフ地震臨時情報」の枠組みでの「半割れ」が東側だった場合も,このような震度分布になるかもしれません.震源から遠い部分は省略されています.

東南海・南海地震等に関する専門調査会による「東海地震と東南海地震の震源域が同時に破壊されるケース」の推定震度分布.震源から遠い部分は省略されている.

さいごに「東南海・南海地震等に関する専門調査会」による「南海地震が単独で発生するケース」の推定震度分布です.こんどは南海トラフの西側が震源域となります.和歌山県から高知県にかけて震度7となる地域があります.

「東南海・南海地震等に関する専門調査会」による「南海地震が単独で発生するケース」の推定震度分布.震源から遠い部分は省略されている.

なお,2003年の想定では,以下のように書かれていることにも注意が必要かと思います.

瀬戸内海北岸域、長野県諏訪地方、大阪及び奈良地域では、過去の地震の震度よりも小さなものとなっている。今回の強震波形計算による手法では、地震波が集中する可能性がある谷や盆地構造が十分反映されていない面があり、これら地域については過去の震度を踏まえた十分な配慮が必要である。

東南海、南海地震等に関する専門調査会(第16回)資料

以上の4つの図を比較すると,ひとくちに南海トラフで想定されるといっても,震源域の広がりや地震の規模の仮定のちがいによって,震度分布が大きくかわることがわかると思います,次に南海トラフで発生する巨大地震が,どのようなものになるかは分かりませんが,広い範囲で強く揺れることは間違いありません.

また「南海トラフ地震臨時情報」の説明では,小さな地震が先に起き,そのあと大きな地震が起きるというふうにみえるかもしれませんが,いきなり大きな地震が起きることも想定できますので,油断せず,平素から大きな揺れや津波への備えを心がけていただければと思います.

データセット

ここで用いたデータはG空間情報センターで公開されていますので,お住まいの地域を拡大してみるなど,いろいろご検討いただければと思います.

「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応検討ワーキンググループ」の資料には半割れの地震で想定される震度分布の図が載っているのですが,まだオープンデータにはなっていないようなので,ここではひとつ前の中央防災会議(2003)のデータを使用しました.

謝辞

描画にはQGISおよび地理院タイル(陰影起伏図)を使用しました.記して感謝いたします.

参考文献


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