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[#2]:思考をした、それは希望につながり、疑念に、憎悪に

次に落ちてきたのは希望に満ちた青年。青年は困惑した。意義を、正義を、大義を掲げ真っ当に生きてきた。だから己はきっと天国に行ける。だから一つ目の怪物の前でも怯む事無くその目を見つめた。だというのに、己は数々の試練を突破し清い魂だったはずなのに。なぜ、いま塵芥と混ぜ合わされているのだ。不快だ、不愉快だ。何が駄目だった。なぜ私は天国に居ないのだ。明らかにここは地獄ではないか!
「やだ!やだぁ!!」
あんなに苦しんで人生を歩んだのに。あんなに人々に希望を与えたのに!こんな仕打ちはあんまりだ!藻掻き逃げようとするも全てが無意味だった。そんな抵抗を笑うかのように青年はどんどん沼芥に飲み込まれる。己はきっと天国に行けると、死後も幸福に在れるそう信じてどんな苦行も耐えて希望を持ち続け生きた、生き抜いた。それでも世界は、神は、運命は嘲笑うように希望を打ち砕き絶望へと叩き落した。青年は歯を食いしばり、消えゆく意識の中、己をこんなところに追いやった存在全てに憎しみを叫んだ。
「呪ってやる!殺してやる!許さない!!私は!!私は!!」
とぷん、又沼芥の中に新たな憎悪が、新たなものが溶け込んだ。沼芥は嵩を減らし静かで平坦な灰色に戻る。頭に慟哭が響く。嘆きが聞こえる。なぜ、どうして、只管に己の運命を、一つ目の選別者を呪う言葉が沼芥の中に響き渡る。それはとても沼芥には重く。灰色には黒すぎた。ぐちゃぐちゃの頭の中、沼芥は思う。この世界はどこまで広がるのだろう。どれほど吸収し、取り込んでも取り込む時以外で嵩が増えることはない。ならば世界が広がっているんだろうか……。そこで沼芥は思考の主導権を失った。また数々の嘆きが、恨みが頭を占める。そうして沼芥は考えるのをやめた。

選別者は今日も又、死したものたちを区別する。希望を持って生きていたもの。絶望の末死を選んだもの。数々のものをみた。そして選別者は区別して、堕とし、受け入れ、記録し、廃棄し。そうしていく内にある疑念を持ってしまった。『意味』があるとは何か、『価値』とは?『意義』とは?『本質』とは?そうして選別して、選別して。数々の生の過程を、数々の思考を見た。そうして果たして己は『カテゴリー』を見る、区別する権利はあれど正確さはあるのだろうか。己のコア、内からの声に従い様々なものを価値がないとした、意義があるとした。それで世界に記録するものと廃棄するものを決めてきた。では、この内からの声が正しいという確証は?そもそも己に『本質』は___?

___あるとも、ある。無くてはならない。だってそうあるべきなのだ。己は。疑ってはいけない。この終わらない世界でこの終わらない選別をするのが己の『本質』であり、『意義』であり、『意味』であるのだ。