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[超短編]呼ぶ

 声が出ない。目の前の貴方へ名前を呼んで、ただ一言助けてを言いたい。その一言が喉つっかえ出てこない。震える口を、強張る喉をむりやり動かして、過呼吸になるのを必死で抑えて名前を呼ぶ。
 それでも私は限界だけれど。貴方は言葉の続きを待っていて。私は困り果てる。
 「なんでもない」その言葉を絞り出し、誤魔化すのが精一杯で笑って私は逃げ出した。