感想: 舞台「ウマ娘 プリティーダービー」を見ましたか?

はじめに

 皆さんは 舞台「ウマ娘 プリティーダービー」~Sprinters' Story~ を見ましたか? Abemaに3000円課金したら本日2/5(日)まで見れます。すげえもの見たなあって気持ちになって、創作意欲がまた回転を始めました。ネタバレを厭わずに感想を書きますのでご注意ください。

 舞台ウマ娘は、「生きる」ことと「呪いを解く」ことの物語だなと思いました。というかウマ娘は「生きる」ことと「呪いを解く」ことがテーマとしてあるのかな……という風に思っています。
 生きる事は呪いですし、ウマ娘というコンテンツはこれまでも死と向き合って来たコンテンツなので。そうじゃなかったらスズカを扱うことなんてできないじゃないですか。

全体的な感想

 正直なところ、舞台化する発表があった際には「まあ別に……」という具合でした。プロデューサーをやっていた時期も思っていたんですが、ライブとか声優さんを押し出すイベントに苦手意識がありまして……。
 ただ、Twitterのフォロワーさんがとても良かったとツイートされていたのと、そのフォロワーさんが今度舞台に立つというお話を聞いてオンラインチケットを先日買った手前、「ウマ娘の舞台、観れるなら観るか……」と思い立ちました。
 あとは、ぶっちゃけ「ウマ娘の舞台がどんな出来だろうと、今まで見てきた映画よりは間違いなく楽しめるはずだ」と思ったので……。アレの話をするな浅村。

 見た結果なんですが、大変に良かったです。声優さんを押し出したコンテンツともまた違う、ゲームに連なる物語性を持った舞台だったなと思いまして。
 一番始め、ルビーのレースから「タップダンス……何故???」と一瞬思ったんですが、タップの音は蹄鉄の音だと納得しました。レースの時にアンサンブルの方々含めて全員でタップ踏むあの音、これは絶対会場で聞くべき音だと思いましたもの。臨場感激しかっただろうなー……と思う反面、ライブシーンの解説が始まった時は「これ会場で見てたら多分私はぽかんとするやつだ……」と思って、棲み分けだなあと思いました。
 映画の感想のノリで話すと、声優さん、俳優さんって凄いんだなあと思いました。普段見ているものが演技ボロボロとか、そういうものばかり観てるからだよ浅村さん……。

「生きる」こと、「呪いを解く」こと

「生きる」こと

 物語の話をすると、1991年当時の短距離路線を基に、年末のスプリンターズステークスまでを扱っています。そして、死と運命をひっくり返して「おかえり」と言うための話なんだなと……。ケイエスミラクルがメンバーの一人として選ばれている点から、なんとなく想像はしていました。

 ウマ娘のアプリがリリースされた時、ウマ娘を予習したんですよ。その時にアニメ1期の伊藤Pのインタビュー記事を読んで、「ああ、これとんでもねえコンテンツだな」と思いました。沼に入る予感というか。

 伊藤P 事故はありませんでした、で済ませることがストレスというか、見る側への負荷は一番少ないのですが、それでサイレンススズカの物語を描いたことになるのかどうか。目を背けたくなるシーンですが、それを描くからこそサイレンススズカをテーマにする意味があるのだと思いました。

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 ウマ娘から入った自分が何を言えるんだという気持ちもありますが。サイレンススズカやライスシャワー、ケイエスミラクルを扱うその時、絶対にその最期から目を背けることは出来ないなと思います。ウマ娘というコンテンツは、実在の競走馬を扱うにあたって死の話からは逃れられないのだなと思いますし。ウマ娘は死の話に誠実に向き合っているのだなと思います。
 故障をなかったことにするifって、書こうと思えば簡単に書けますよ。でもそれでいいのか? それは本当に彼ら/彼女らの話になるのか?  という疑問はずっとつきまとうことでしょう。だからこそ、なかった事にはせず、形を変えてもそれを乗り越えてゆく物語を。単なるifではないその先を描く物語を"ウマ娘"というコンテンツとして打ち出すのは、とても……難しくて、勇気のいることだったのだろうなと思っています。
 アニメ1期のスズカは故障から復帰してレースに勝利した。アプリの育成シナリオでは栄光の日曜日を掴み取り、ストーリー5章でトレーナーは彼女の背中を押し、スズカはトレーナーの元へと帰ってきた。ライスシャワーは淀の坂を乗り越えて夢を掴んだ。ちょっと事情は違いますが、アストンマーチャンもそうですよね。海へと向かうその手を取って、別世界からの干渉――彼女の終わりを否定した。
 そして、この舞台ウマ娘では、ケイエスミラクルのスプリンターズステークスを描いて、三度目の奇跡を起こす。ミラクル役の佐藤日向さんが、舞台後の挨拶で仰っていた事が、ある種この舞台のすべてなのだろうなとさえ、思います。

91年92年の時に「ただいま」って一番言いたかったのはミラクルだと思いますし、トレーナーのみなさんが一番「おかえり」って言いたかったと思うんです。

千秋楽舞台挨拶時のコメント:ケイエスミラクル役 佐藤日向さん

 誰もが言いたかった「おかえり」を、彼ら/彼女らが言いたかった「ただいま」を描く、だからこそこんなにも熱の篭ったコンテンツとなるのかなと思いました。
 やっぱりみんな夢を見ていたかったんですよ。

「呪いを解く」こと

 その上で、彼女たちウマ娘は呪われて生まれてくる存在だと思っています。(我々の世界において)実在の競走馬の名前を受け継ぎ、物語を受け継ぎ、それを抱えて走る。負けてはいけないレースに負けた。ライバルに勝てなかった。怪我で思うように走れなかった。生まれながらにして失った存在がいた。志半ばで散った。そうした呪いを受け止めて、跳ね除けて、覆して、誰もが夢見たifへと駆け抜ける。本当にとんでもないゲームやっていますよね。作っている人たちの熱量がめちゃくちゃなんですよ。私もよく狂わされています。

 その上で、ウマ娘たちがなぜ走るのかって、おそらく「走りたいから」なんですよね。様々な理由があったって、本能として持っている原初の感情は「走りたい」「走ることが楽しい」なんですよ。そこに各々の物語が、それぞれの呪いが組み合わさって、育成シナリオに繋がっているのだなと思います。1200m×3とかの怪物の話は一旦忘れてください。例外もいます。

 舞台ウマ娘では、ダイイチルビーは一族の栄光のため、ケイエスミラクルは彼女を救ってくれた人達のために走ります。それはモチベーションであり、走る原動力であり、「勝たなきゃいけない」という呪いでもあります。勝たなきゃいけない。でも勝てない。それは焦りとなり枷となる。「楽しく走るのは勝手だけれど、それを押し付けないで」というダイイチルビーの言葉は、自分自身を苦しめる言葉のようにも思いますよね。

 その一方で、ダイタクヘリオスの原動力は「皆で楽しく走る」それだけです。何も背負っていない、その分ルビーの分も背負えるのかも……と思います。重荷で動けなくなった彼女の呪いを解き、それがミラクルの”三度目の奇跡”に繋がるのが……良かったなと思います。ゼファーが「私達の太陽」と称するのもうなずけますよね。まあ太陽に近づきすぎると焼かれたり羽を溶かされたりしますが。

 でも、ルビーの言う「生まれてきた意味のため」って……どうなんでしょうね。意味なんてない派の人間なので

様々なこと

 いや本当にめちゃくちゃ凄いんですよ。この舞台。

 全体を通して一番刺さったのは、ケイエスミラクル役の佐藤日向さんの怪演です。プロセカの瑞希ちゃんのCVだとだけ知っていたのですが、舞台中の力強さがものすごいんですよ。スワンステークスの「ここだ!」という一声やマイルCS後の「おれが……弱すぎた……!!」と絞り出す悲壮な言葉。スプリンターズステークスでブラックアウトする瞬間……。ケイエスミラクルになりきっていたというか、一心同体というか。瞳が潤んでいるように見えてこちらもこみ上げるものがありました。あの気迫は、本当に客席で観るべきだった、体感するべきだったと思っています。本当に。本当に……。

 ヤマニンゼファー役の今泉りおなさんが「(ゼファーは)出番少ないので……」と仰っていましたが、当時はゼファーが本格化していない・怪我でしばらく棒に振っていたのもあって、レースの出番が最後のスプリンターズステークスだけですが、それまでヘリオスを応援したりミラクルを気遣ったりした上で「運命は変えられる、ならば私もその一助となりましょう」は完全に歴史介入者のムーブでいいなあと思いました。史実通りですけど史実を乗り越えるifのように思えて……。あのゼファーは2周目くらいなのでは。
 ハイタッチが分からずヘリオスともたついたり、ヘリオスのギャル語をそのまま返したりなどくすっとくる演出が多くて良かったなと思います。ゼファーは育成してると本当に自由すぎるんですよね……。
 あと挨拶中に鼻をかもうとしたのは笑いました。風を型にはめることなどできませんからね。

 ヘリオスの超シリアスなシーンでの「辛いばっかって……辛いじゃん!!(トートロジー)」で不意打ちを食らったり、ルビーの気迫せまる使命への思いと、それを断ち切ったあとの優しい顔にぐっと来たり……。とても良かった。良かったなと思います。まさかグッズいっぱい買うとは思ってなかった。でもそれだけ心が動いたんですよ。
 ライブパートで一番良かったなと思ったのは、最後のOverrunner! でCメロのタップが入る瞬間です。あの瞬間の力強さすごくないですか?

 残念なことに、Abemaでは今日2/5(日)までしか見れないんですよね。この感想を書くために、そして創作の熱を保つため、とりあえず3周しました。良かったものは3度見ても良いなあと思います。でもやっぱり舞台や演劇は現地で観るのが一番だよなと思うのですよね……。いずれ、きっと。
 ケイエスミラクルが実装された時、どうなるんだろうなと思っています。今までの事を考えれば、ミラクルの育成シナリオもものすごい熱量をぶつけられるんだろうなと。

 これを見てしまうと、ウマ娘のSSちゃんと書かないとなと強く思います。2つ書きかけがあるのはなんとかしようね。頑張ります。いい刺激をもらったのと、創作のエンジンが回る限りはこれを伝えなければと思います。

余談

ケイエスミラクル - ニコ百

ケイエスミラクル(1988 - 1991)とは、日本の競走馬である。
儚い奇跡の結晶としか言いようのない、そんな馬。

ケイエスミラクル - ニコ百

 この一文、とても好きなんですよ。伝えたくなって。

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