CO2を減らすには人口を減らすしかない
こんばんはいづつです。もたもたしていたらホットな時期を逸してしまった感。抽象論な内容なのでいつ読まれてもいいものなのですが。
■環境問題、盛り上がってそうで盛り上がってない
グレタさんとおっしゃる学生が、各国首脳の環境問題への意識が低いことにお怒りのようで、国連演説だけで先日のノーベル賞で平和賞の候補になったとかいう話まで。何も成し遂げていないのに賞なんかおかしいだろ、というツッコミは置いておくとして、彼女の主張に対し賛否巻き起こっていますが、私は「理解するが同意しない」という考えで、否定的です。
いつものことなのですが、環境問題に対する取り組みってだいたい瞬間的に沸いては1週間も経てば耳にしなくなるようなものばかり。どうしてうまくいかないのかというと、打つ手がないからです。グレタさんはとにかく科学者の話を聞けとおっしゃるのですが、学者はやめてしまったけどもその分野に10年以上いる私の話もぜひ聞いていただきたく、このnoteを書いています。
■地球温暖化は確かに問題だ
目下の環境問題は温暖化と生態系です。プラごみは視覚的に問題がわかりやすいからやや盛り上がっていますが、実は優先度が低い。生態系の問題は私の専門外なので、温暖化についてだけ書きます。
グレタさんは科学を重視せよと繰り返していますが、主張のほとんどはIntergovernmental Panel on Climate Change (IPCC)という国際機関の記述をほぼ信用して引用しているだけのようで、そのIPCCは温室効果ガスが主原因と考える論調を年々強めています。(私は信じきっていませんが)ちょっと寄り添ってみて温暖化の原因はCO2でほぼ正しかろうということでCO2の排出をいかにして低減するかという話をしてみましょう。
ではどうやってCO2排出を減らしましょうか。という具体的な話になると一気に難しくなります。Recycle, Reuse, Reduceの3Rがよく言われる基本方針ですが、何でもかんでも3Rすればいいのか。どうしたらこの3Rが推進されるのか、という話は科学と政治とビジネスに加えて大衆の感情論までが複雑に絡み合った問題できわめて難しい。ですが、マクロな視点で見ればとてもシンプルな話です。
*以下、私たち人間を天の上から客観的にみるために(生物学上の分類としては意味が広すぎますが)ヒトと呼ぶことにします。
■ヒトは石油を飲んでいる
現代のヒトの生活でCO2排出を伴う、すなわちエネルギーが使われる局面は何が思いつきますか。家庭を見渡せば照明、エアコン、ガスコンロ、スマホの充電など。産業でいえば製鉄、ガラス、化学プラントなんかが大量に消費しています。しかし何を差し置いても、食事が欠かせません。生命を維持するために必要なヒトの食料が最も大事なエネルギーいうことをまず認識してください。
少しだけ余談のようで大事なことを説明しておきたいのが、食料だって石油みたいなものだということ。農作物は今の膨大な数のヒトをカバーするために、限られた農地で早くかつ多く作らなければいけないため、肥料を必要とします。そしてその肥料は石油や天然ガスから作られています。農作物は実質的には加工業、すなわち二次エネルギーということで、ヒトは石油を飲んで生きているようなものです。ということで、食料としてのエネルギーと生活で使う熱や動力のエネルギーは見た目が違うだけで同じものだし、石油で換算してだいたい差し支えないとご理解ください。
いま地球上には77億くらいヒトがいます。そしてそのヒトは生きていくために石油換算で年間約140億トンのエネルギーを消費しています。1人あたり約1.8トン/年、約5 kg/日です。つまりヒトは24時間を生き抜くと、およそ5 kgの石油を飲んだことになります。もちろんこれは平均値なので、先進国ほど値は大きく、途上国ほど小さくなります。
■ひとりあたりの一次エネルギー消費を低減する方法を考える
ここでようやく肝心のCO2に話を戻しますが、CO2はその石油消費量に比例して排出されていますから、CO2排出量は人口に比例し、時間に比例するというきわめてきわめてシンプルな近似式が出来上がります。
CO2排出量 = 係数 x 人口 x 時間
頭の良い方は「そんなことはわかっている。係数を下げることを考えるんだよ」とおっしゃる。グレタさんも経済成長なんて二の次みたいな言い方。1人あたり使う石油の量を5 kg/日から減らせということです。いやはや、まったくそのとおりです。しかし、そこで問うべきことがあります。どうしたらその係数は下がるのかです。何でもかんでも3Rすればいいのかと。この問いに対する答えを考えると、なかなか残酷な話しか出てこない。
IPCCの発表によると45%, グレタさんの話によると50%, CO2排出量を2010年対比2030年、わずか20年、残り10年で削減しないといけないようなので、大急ぎで係数を半分に減らす方法を考えましょう。
「食料を50%減らそう」「エアコンや暖房に使うエネルギーを50%減らそう」みたいなことをすると、たぶん数億人死にます。さすがにヒトが多数死んではいけない。このあたりは仕方なく、下げようがない。では死なない範囲で考えましょう。
「常時計画停電を実施して、電気使用量を50%減らそう」「ガソリンや軽油の課税を一気に増やして、消費量50%減を目指そう」「飛行機を禁止しよう」とかをやるとどうなるか。あらゆる産業が死滅し、世界中で失業者が溢れます。不可能ではないですが、もしかしたら死ぬより辛いかもしれない。例えば、近年だと2011年の東京電力圏に住んでいた計画停電経験者ならば想像しやすい。あれが一生続くなんてまず耐えられない。そもそもヒトは生活水準が向上することを常に目指し、達成して喜びこそしますが、水準が低下することをとても恐れなかなか受け入れません。計画停電が続けば多くのヒトの仕事はなくなり、食料が手に入らなくなり、略奪が始まり、無慈悲な命の奪い合いが起きます。当時の関東地方で暴動が起きなかったのは、あの措置が一時的なものだと分かっていたから我慢できただけのことです。
では、生活に支障がない程度で、エアコンの設定温度だとかプラスチックの消費を減らすとか頑張ってみましょうか。しかしその程度は完全に焼け石に水です。ヒトはこれを節約や質素倹約と呼ぶそうですが、これでどれだけの効果がありますか。エネルギー消費量はお金の消費量とだいたい比例するので見積もってみると、例えば東京に住むヒトは衣食住と諸々の消費に1日1万円くらい使っているとして、そのうち200円の節約で2%です。石油消費量に単位を戻すと、ヒト1人で5 kg/日から4.9 kg/日に減り、世界で140億トン/年が137億トン/年に減る程度。石油の年間生産量はちょうど2%くらいのペース増えているので、この節約活動を全世界が毎日欠かさず維持して、ようやくたった1年分ペースを遅らせられるにすぎません。
ちなみに極限まで質素倹約した生活をおくっている例は、家賃激安なシェアハウスに住む引きこもりネットゲーマーみたいなヒトで、1日を2000円くらいで生きていたりする。とはいっても、そういう不健康な生活を続けているといつかツケが爆発してとんでもないエネルギーを消費し始めるので長い目で見るとぜんぜん質素倹約じゃないのですが。
なぜ係数がなかなか下げられないか。それは市場原理の中で、ヒトが絶えずその係数を下げる努力を続けてきたので大きな改善余地があまり残っていないからです。何か成果物を得るならば、当然コストは低いほうがいい。コストとはエネルギーなので、同じ成果物を得るために必要なエネルギーを極限まで下げようとするのは自然なことです。加工コストを下げることもエネルギー削減だし、ヒトの労働力を減らすのもエネルギー削減です。環境のためと意識してビジネスしているヒトはほとんどいませんが、無意識に燃費改善をやっているのです。
ヒトは最低でも生存に必要なエネルギーは食料という形で摂取し続けるのでそのエネルギーが減ることはないし、ヒトは身体に対して大きすぎる脳が余計なことを考えるため常に食料以外の成果物を求めるのでやはり別のエネルギー消費が避けられません。現代のヒトは生きている限り食料を含む石油換算およそ5 kg/日のペースでエネルギーを使わないと暇すぎて人生やってられないのです。「食事、トイレ、睡眠以外の時間は日光浴でもしていろ」「毎日今日・明日の飯のことしか考えられないような生活をスタンダードにしろ」ということなら、そう言ってみてほしい。その点、私のようなネットゲーマーはきわめて少ないエネルギー消費で長い時間をつぶせるので、わりとエコなヒトです。
ヒトが衣食住以外のことでエネルギーを使いがちならば、強引な手段を考えてみましょうか。前記の脳が大きすぎる問題が理由で石油や天然ガスに支えられている文明は一次エネルギーの供給元となる産油国での産出量が減らない限り退化しませんから、本当に係数を下げたければ消費量を下げようとするのではなく産出量を制限する取り組みをしなければいけません。ただし、本気でやろうとすれば、産油国と非産油国の戦争になるでしょう。そしてエネルギーを絶たれた国が必敗するという過去の歴史を見るにどうせ産油国とその味方が勝つので、やっぱり産出量をコントロールすることはできません。平和的に産出量制限が実現したところで、輸入依存の高い順に飢え死にするだけです。
■CO2を減らすには人口を減らすしかない
さきほどの近似式をもう一度見直し、係数を下げることをあきらめると、CO2を減らすために次に考えることはヒトの数を減らすことです。ググればいくらでも出てくる統計ですが、おもしろいグラフがあります。世界の一次エネルギー(石炭、石油、天然ガスなど)消費量(≒産出量)と人口の推移がほぼ一致します。
世界の一次エネルギー消費量(左)と人口(右)
(引用)Our World in Data
鶏と卵の話でもあって、化石燃料が供給されるからヒトが消費するともいえるし、ヒトが増えるから化石燃料が消費されるともいえる。ひと段落前で語ったのは化石燃料の流通を抑制するという着手でしたが、戦争になるのでできない。よって人口から着手しなければいけない。
当然ながら自国民を積極的に減らす首脳などいないし、民の大半は自己犠牲などまっぴらごめんだからそんな政治を支持しません。各国の偉い人たちがCO2を減らすと宣言する場合、それは人口が減少する予測がたっている国だけ。日本はその筆頭ですし、逆にアメリカやインドはまだ人口増加傾向にあるのでCO2削減の枠組みから逃げ続けています。特にアメリカは自国が産油国ということもあって態度がとてもわかりやすい。パリ協定をこれから離脱しますし、過去は京都議定書からも離脱しています。アメリカのこの性格に批判的な人が散見されますが、この手の国際条約は、「一緒に苦労しよう」という基本的に足の引っ張り合いでしかなく、「一緒に前へ進もう」という手を取り合うようなものではないので、当たり前な思考でもあります。グレタさんは各国首脳ではなく、各国民を説得しないといけません。
っていうか、IPCCのレポートくらい各国政府読んでるからね、グレタさん。わかった上でやっているんです。
■ヒトの数をReduceする
だから、理想はわかるけど実現できないよねという「理解するが同意しない」という感想に落ち着くわけです。冒頭の何を3Rしたらいいのか、という問いに対してはヒトの数をReduceするのがソフトランディング。医療開発を放棄し使用も制限して、食の安全基準を緩めて粗悪なものを食べさせ、ヒトの寿命を短くしたり、出生数を減らさないといけない。そんな未来を誰が支持するのかと。それは本当に子孫のためなのかと。とりあえずあと10年では地球に巨大隕石でも降ってこない限り無理。
ちなみに、私の提唱は「放っておけば2100年くらい(諸説あり)から世界人口は減るので、その人口のピークを凌ぐ技術に化石燃料を投じておけばいい」です。地球温暖化はもはや防ぐものではなく、凌ぐもの。なぜなら、天から見れば一瞬だけ地球の表面でヒトという生命種が異常繁殖しているだけに過ぎないから。環境問題を解決しようとした結果ヒトが減るのと、放っておいた結果ヒトが減るのは、どっちも終着点は同じ。大戦争を誘発してわざわざそれが加速する道を選ばなくてもいいんじゃないのってことです。私は後世に対してこの姿勢で申し訳ないなんてかけらも思いません。こうすれば温暖化の中でも生き残れると思うよという技術的対策を示すほうが有意義だし、よっぽどヒトらしいです。
Yoshiyuki IZUTSU
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