究極のアウトソーシング
ファウンデーションの夢
第6部
アルカディアの遺言
第1話~第6話
究極のアウトソーシング
大枠
第一部 ダニールの地球探索
第二部 ガイア
第三部 ウォンダとガールの地球探索
第四部 嵐の気配
第五部 Tee Tree
第六部 ベイタ・ダレル
第七部 アルカディア・ダレル
第八部 アルカディアの遺言
第八部の大枠
58 第1話 究極のアウトソーシング
59 第2話 鶸色の伝説
60 第3話 12858年前
61 第4話 全体主義の恐怖
62 第5話 宇宙最大の謎
63 第6話 ドース・涙の太陽
64 第7話 原子力、宇宙に対する大罪
65 第8話 甦りの銀河
66 第9話 ミーター・新シャーロック・ホームズ
67 第10話 甦りの水
68 第11話 夢を引き継ぐ者
あらすじ
「ファウンデーションの夢」の最終部になります。次作「ミーターの大冒険」を橋渡しする部分になる。
アルカディアは81歳で天寿を全うしようとしていた。暦はターミナス443年。
アルカディア農園はほぼラヴェンダーの畑。第二期のポエニッツ仕様のラヴェンダーのエキスがもうひとつの主役。
アルカディアは全身全霊をかけて14歳から共に歩んできたミーター(ミーター・マロウ アルカディアの命名でダレル家が名門マロウに繋がることを重んじたから。)に訥々と遺言を語る。
ハリ・セルダンとガール・ドーニックによって導かれた銀河復興の希望をミーターに賭けるアルカディアの切実さと真摯さとが最後の息までもその輝きがラヴェンダー畑に染み渡る。
彼女はまず、「反ミュール」の現象から話しはじめる。
第1話 究極のアウトソーシング
58
アルカディア そんなに泣きじゃくる R なんて銀河広しと言えども見たことがないわね。
ミーター、お願い、泣かないで、私の最後の言葉、ちゃんと聞くのよ。ミーターには、私の出来なかったことをやって貰いたいの。もうじきお母様たちが迎えに来るのよ。こんな幸せなことはないわ。偉大なお母様のお仲間に入れさせて貰えるなんて、私は本当に幸せ者よ。
ミーター、私を、先祖さんたちが大勢眠っている、あのラベンダー畑の丘に葬ってね。
ミーター、もうじきここからイオスへ、ラヴェンダーのエキスを運ぶために、ドースさんがやって来るわ。そのエキスは特別なものなの。
第一にそれを見届けて頂戴。
それから私が見届けられなかった二つのことを、私の代わりに見届けて頂戴。
十年前になるわ。アンソーアの最後の知らせで、第二ファウンデーションにも「反ミュール」の動きが見えて来たって言ってたわ。ということは、ガールさんの言ってた時期が間近だっていうことよ。ミーターにはこの際ちゃんと教えますよ。「ヒューミンさんのお仲間の星の人たち」だわ。彼らは別名、「黄色花の人たち」。「ヤマブキ」とも言うらしいの。彼らが出てきたということは、
ガールの願いの成就。銀河の復興。三万年かかるという混沌からの回復。そのためには「四つの花」の結束が必要なのよ。ハリに続くガールは私の心のパパだわ。銀河の復興の英雄ね!ハリが千年に縮めようとしたことを五百年で出来ると言ったのですから。ベイタおばあちゃんもその実現を確信していたんですからね。凄いわ!
ミーター アルカディー、なにをいってるんだい。僕にはそんなこと、無理だって! 決まってる。銀河の復興。混沌からの回復? 僕が?
アルカディア ミーター、心配しなくていいわよ。四つのグループの結束で、それをするのよ。ここターミナスからもお仲間が出かけますよ。そういう手筈は準備出来てます。ある人物に目星をつけていますから。
それにミーターは、メソメソ屋さんですから、ちゃんと可愛い相棒を用意しますよ!
ミーター なんだって、「可愛い相棒」だって?!
アルカディア 超ベッピンさんですよ。私に似て。
第2話 鶸色の伝説
59
アルカディア ミーター、ねえ、もう一つのことについて話す前に、あなたはもう私のことは知っていることなんだけどねえ!
窓辺にヘディキウム(ジンジャーの一種、「花縮砂」)を置いている理由があるのがわかっているわね。
この部屋の壁の色も、「鶸(ひわ)」色だと言うこともね。
もちろん、この花や色が好きなんですけど、それには深い意味があるの。花言葉が、「豊かな心、信頼、慕われる愛、無駄なこと 」なんだけれどもね。
この前、やっと以前に出した二冊目に加えて「続 何度も何度も繰り返して」にすこしだけ書いたエピソード、覚えている?先祖のベリスさんの物語、ですけどね。
(詳しくは、第四部第1話 「涙の黒い太陽」をお読みください。ご要求がございましたら、メッセンジャーでお送りいたしますので、コメント欄にその旨、お書きください。)
最近になって、ジスカルド・ハニス(新進気鋭のジャーナリスト)が、ベリス岬の洞窟で発見した文書を届けてくれたわ。当人にとってはチンプンカンプンだったもので、私ならわかると言ってたわ。それがなんと先祖のベリスとガールパパの出会いの物語だったんですからねえ!驚いたわ!涙の太陽、放浪の宇宙人たちの話ね。
ガールとベリスの娘ドースとそのまた娘(養女)のグレディアが努力して大まかに数ある記録をまとめてくれたんです。
そして直接私がそれらを読めるのは、ちゃんと私のおばあさんベイタのおかげなの。
それから、『ジョン・ナックの歴史思想書』(ベリス以降、紛失してしまった)の原文の一部、ですね。
ホントにそれらに文書には驚いたわ。
それには太古の故郷の星を再発見した不死の従僕が、それまた太古のニフのある娘、ベニサラを想起して、銀河回復の構想を与えられた話など、数々ありますね。
その中でもとても印象深いシーンが二つあるわ。一つは、ベリスさんの夢に現れた女性の指示に、「髪にジンジャーの花を挿してね」という場面ね。それに「萌黄色の梅雨が降っている」という情景ですね。今日のモーヴと同じだわ。
もう一つは、紅皿が捧げたヤマブキを受け取った時のその武将の衣の麗しいこと。その色がなんだっか想像したのよ。おそらくベリスの髪に挿したジンジャーの花の色だって。
ガールパパの卓越性は、
「人間が人間であるために最も大切なことは、限られたリソースを使って問題を解決する」
能力ということを、モーヴ、しいては銀河の人たちに知らせたことだわ。私は、そのことを私の人生の中で、体現したかっただけなの。
第3話 12858年前
60
( そして四つのグループの結束で、500年目にあたるもうすぐに銀河復興が来る。その復興を成し遂げるのが、他ならぬミーターの使命なのだ、と打ち明ける。そしてその目的達成のためには、おそらく歴史消滅の元凶だったかも知れない「不死の従僕」に会うように促す。)
アルカディア ねえ、ミーター、もう少ししゃべらせて。
今、あのオリンサス・ダムが、私が最後に頼んだ、大仕事を彼は、今、仕上げている最中よ。彼には驚いているわ。なにしろ私より元気なんですからね。その仕事というのは、帝国辞書編纂図書館の建て直しよ。その記録を一点に絞ろうとしてくれているの。図書館の全ブック・フィルムのバーチャル機能化ですから。その目的の一つは、照射レンズの焦点の結束点を12858年前に合わせることなの。それというのは、その時以前の人類、銀河の記録が消えていてたどり着かないのよ。これを探るのが私の使命の一つだわ。それがわかれば、銀河回復の秘訣がわかりそうなの。ターミナスとしても最後の大仕事だわ。手掛かりは「児童のための知恵の書」だけなんですから。
もちろん、ハッキリ言って第二ファウンデーション や R・ドースさんに纏わる問題ねえ!そしてその奥に、あの「不死の従僕」の影が見え隠れしているのよ。
ミーター、あなたね、あの不死の従僕を探し出して、彼に直接会って聞いて貰いたいの。
ミーター アルカディー、それは気違いじみたご依頼ですね!まずその「不死さん」が何処にいるのか、知ってるのかい?
アルカディア そうだわね!この広い銀河のどっかだわねえ!
ミーター そんなところだと思った。やれやれ!
第4話 全体主義の恐怖
61
(そしてアルカディアは銀河の歴史に何度も人類を脅かした政治体制の全体主義の恐怖に話しを移す。銀河の暗黒と混沌の原因もこの全体主義が元凶であり、銀河復興はこれからの解放をも意味していることをつまびらかにする。)
アルカディア 忘れてならない大事なことがあるのよ。
ミーター、よく聴いてね。私は、ハリやガールパパたち、ベイタお婆さんの理想を実現するように努力してきたつもりよ。あと三つのグループの人たちも同様よ。もっともそのなかの一つのグループは、単なる人たちではありませんけどね。でもそのグループは私に言わせてもらえば、人間以上の尊敬できる人たち( Rs)だっていうこと。ミーターも同じね。
ミーター 同じ?
アルカディア そうよ、ベイタお婆さんの発見した文書を丁寧に読み込んだことがあるわ。どうも不死の従僕さんが、ハリやガールに会った頃、「ヒューミン」と名乗っていたらしいの。その意味は、「まったく人間的」ですね。二万年の間、彼の生存理由は、人間社会を維持する、その実現のために、「人間」の尊厳を守ることを究極の使命にしたことなんだわ。四つ葉のクローバー、知ってるわね。四つ目が異変体なんだけれども、第零の法則を信奉する Rさんたちのおかげでなんとかここまで導かれて来たのですね!
今のターミナスを見てわかるわね。ハリからもうすぐ500年が過ぎようとしています。銀河復興の刻限が迫って来ているというのに、ベイタの再発見したガールの理想とはだんだん逆になってるみたいでしょう。このターミナスが銀河復興の要になるべきはずが、依然として第2ファウンデーションを目の敵にしていますね。
私がターミナスの政治にはずっと関わらなかった理由、ミーターにはわかるわね。私のお母さんが第二ファウンデーション人だと言うこともあるけど、そういうターミナスの雰囲気に巻き込まれたくなかったからなの。危ない傾向だわ。全体主義※の復権よ。あのミュールよりずっと恐怖だわね!
状況はあのインドバーの王政より悪化しているみたい。
私の理想、ご先祖様の理想は単なる民主主義を越えて「一人一人が自律して、他を極限まで尊重し、有能な心で全体をも配慮」することだからね。
ミーター、質問。この理想の反対、真逆はなあに?
ミーター う~。???
わかった。オリンサスさん!
アルカディア 馬鹿ね~!冗談が得意な R はこの広い銀河のなかでミーターだけだわ。呆れる!!
※全体主義とは、政府に反対する政党の存在を認めず、個人が政府に異を唱えることを禁ずる思想または政治体制。
第5話 宇宙最大の謎
62
(アルカディアは尚も気丈夫に最後の気力を振り絞って宇宙最大の謎について語る。それはアタカナ(地球)の悲惨さ状況についてであり、放射能の悲惨さについてであった。)
アルカディア 銀河はまるで謎に満ちてるわ。
ミーター、私はねぇ、銀河の、昔昔はどうなっていたのでしょうと、幼い頃からいつも考えて、いつもお父さんに質問攻めして困らせていたのよ。とくにハブロックの年表を穴が開くほど読み込んでいたのよ。でもなんだか辻褄が合わないところが多いのに気がついたの。さっき話しました結束点(歴史記憶消滅以前、以後)もそうですけどね。
おばあ様ベイタ・ダレルの『伝記』と『児童のための知識の書』を注意深く読んで不死の従僕さんが、トランター帝国の宰相をハリ・セルダンに譲ったあと、混沌化が二、三万年続くことを察知して、ハリの銀河復興の理論、「二、三万年を千年に縮める」を補強するために「ふるさと」の星への帰還の旅に出た、というふうに読めるのよ。私にしてみれば驚くべき発見だったわ。
その旅の途中で、もう一つの目的、ハリを支えるある人物、ガール・ドーニックをシンナックス星で見いだしたのよ。ガールパパは外見はひ弱な風貌でしたけど、芯は鋭い洞察力を秘めていて、それをフルに発揮していくことになるのよ。
そのあとで、ハリの孫娘ウォンダさんと不死の従僕が訪れた故郷の星を再調査したのよ。
そしてもう一度、究極な銀河復興の原理を発見するためにここターミナスから最後の旅に出たのですよ。この三度の探索は何のためであったのでしょうか?
きっと、ミーターちゃん、このことが銀河復興の秘密の鍵なんだわ。
ミーター アルカディー、ホームズ君。ターミナスの反対側のシリウス星系に「アタカナ星」という伝説の星がそうじゃないかと言われているのは、当然知っていて、僕に聞いているの?
アルカディア そうよ。でも不思議な謎があるのよ。そのアタカナ星は「放射能」に塗(まみれ)て人間は住居不可能なのよ。
ジョン・ワトソン君、君ならこの大事件、どう解く?
ミーター 放射能!?!?
第6話 ドース 涙の太陽
63
(アルカディアは、夢の中でハリ・セルダンの妻のドースと夢の中で話し、彼女に第零の法則について質問をする。ドースは、陽電子の動きと人間の未来に夢を託すことでR・ミーターに生き甲斐を見出すことをアルカディアに教える。また、アルカディアは、先祖のベリスに現れたシンナックス人のことにふれ、故郷の太陽を救うことを託されたと語る。アルカディアは、これらのビジョンが宇宙の謎を解く鍵であり、「放射能」が銀河の究極的な解決の源であることに気付く。そして、皮肉にもこれらの洞察を得るのは彼女の終焉間際であり、遺された課題はミーターに委ねられていると語る。)
アルカディア ミーター、「放射能」。ねえ、それに答える前に言っておきたいことがあるの。
夢でよくドースさんが出て来てね。よく話をするのよ。
ミーター ドースさんが?
アルカディア そうよ。我らが母ドース!女神ドース。偉大なるハリ・セルダンの可愛い奥さん!
彼女によく夢の中で、質問するのよ。
「第零の法則で、この銀河を救うことは出来ないのですか?」ってね。そうすると彼女はいつも笑って優しく答えてくれるわ。
「アルカディーちゃん。いいわね、R
の生き甲斐って言うのは、陽電子の動きで、人間の開かれた未来に自分たちの夢を託すの!
」。
そして我らが母ベリスに現れた黒い涙の太陽。汗を流し、苦労を一身に背負う太陽。もしやカビレ星。それが語りかけて来るの。
「アルカディア、あなたがわたし(太陽)を救うのです」。
そういう声を聞いて、いつも目が覚めて、起き上がるのよ。あれってなんだったか?それが宇宙の謎を解く鍵なんだわ!
「放射能」。それって銀河の究極的意味の源泉!!
銀河の夜明けの抉じ開け方が見えて来たのよ。皮肉にもわたしの終焉間際に、ねえ!
『究極のアウトソーシング』 完
次話 『夢を引き継ぐもの』をご期待ください。