野鳥観察つぶやき(鴗鳥編)
「鴗鳥」とは「そにどり」と訓んで、カワセミのことだそうです。『古事記』のなかには「適后須勢理毘売命(おほきさきすせりびめのみこと)」の嫉妬(うはなりねたみ)が激しいために困惑した八千矛神が詠んだ歌に、
ぬばたまの 黒き御衣を ま具さに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 は
たたぎも 是は適はず 辺つ波 そに脱き棄て 鴗鳥の 青き御衣を
ま具さに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 はたぎも 是も適はず
以下、歌謡の続きは略しましたが、ここに「鴗鳥」と見えています。「青」にかかる言葉だったようで、「青き御衣を」と続いています。当然カワセミの鮮やかで美しい背面が、「青」を呼び起こしたことから生まれた、言葉のかかり方でしょう。
※飛び立っていくカワセミ。B’zの「蒼い弾丸」を思い出します。
それにしても「青き御衣」という文字列を見ると、宮崎監督の「ナウシカ」に出てきた「その者あおき衣をまといて」というセリフを、パブロフの犬のように思い出してしまうものですね。これからはナウシカの着ていた衣は、王蟲の体液ではなくて、カワセミの羽根を想像してしまいます。
※不思議な写真ですが、川面に反射した、飛び立つカワセミさんです。UFO
みたい。
同じく『古事記』には、天若日子が死んだときに「喪屋」が作られた場面が伝えられています。そこには、
乃ち其処に喪屋を作りて、河鴈をきさり持ちとし、鷺を掃持ちとし、翠
鳥を御食人とし、雀を碓女とし、雉を哭女とし……
とあります。「かわかり」「さぎ」「そにどり」「すずめ」「きぎし」など諸鳥が「喪葬儀礼」のいろいろな役目を務めている、という場面です。ここにも「そにどり=翠鳥=かわせみ」が登場しています。
喪葬の場に、役目を担った鳥さんたちが列席するのは、古代日本において、〈死者の魂〉が「鳥になる(鳥に化す)」という考え方があったことに関連するようです。
※こういう姿が「Theカワセミ」という感じですね。そういえば「鳥居」は
村の境界線に建てられた、こうした木の棒の先端に、木彫りの鳥を掘って
飾った「ソッテ」という韓国由来のものが淵源だ、という説を聞いたこと
があります。
※上の写真が、川面に反射したもの。これもまた風情でしょうか。。。
杜甫の「詠懐古跡 五首」の「其四」には、「翠華想像空山裏」という文句があります。この「翠華」とは、天子の旗じるしを言います。かつて天帝の旗はカワセミの羽根で彩ったと言い、それに因んだ言葉だそうです。
そういえばカワセミには「翡翠の鳥は羽を以て自ら害わる」ということわざがあるように、みずからを着飾るその美しい羽根によって、却って、他人に追い立てられて捕まえられてしまう(長所が却って災いすることの比喩)、そうした悲しいことわざも残されています。
※丹念にカキカキ。こんな美しい羽根が、人間の欲のためにむしり取られて
いたなんて。
おそらく「カワセミ」のエピソードとして、野鳥ファンを自称しているだけの私が、もっとも悲しく辛く思う逸話は、サー・トマス・ブラウンの実験んでしょう。
これは、かつてヨーロッパで流布した「カワセミのくちばしを括って全身を掛けておくと、その死骸が〈風の方角をさす〉」という俗説を実証するための実験でした。実験の結果、「全然、ダメじゃん」ということになり、この俗説は退けられたわけですが、それまでに、いったい何羽のカワセミが犠牲になったのかと思うと、悲しさいっぱいです。人であればこそ、同じ過ちは繰り返したくないですね。
※春ですね。カワセミさんは、花粉症にならないのかな??