ジャズが似合う部屋を作りたい
今の家に引っ越してきて一年半が経ったのだけど、今更になって家のインテリアが気になり始めた。
きっかけは些細なことである。スピーカーを買ったのだ。
スピーカーといっても、外にも持ち運べるような簡易的なものである。
好きな曲が気軽に流せればいいなぁというぐらいの気持ちで買ったのだけど、そのスピーカーで何気なく流したジャズのプレイリストが、僕の無味簡素な部屋を、一瞬にして場末のオシャレなバー(みたいな雰囲気)へと早変わりさせた。
それと同時に、目の前に広がる殺風景な自室は、僕をたいそう絶望させた。
借りているアパートは、築50年を超える木造建築で、まぁ……歴史のある建物だ。
なので当初から、オシャレな部屋とか雰囲気のある部屋の構築は諦めていた。このアパートで何をしても無駄だと思っていたからだ。
だけど、スピーカー1つでここまで部屋の雰囲気が変わるのなら、せめてもう少し、家具もこだわってみてもいいんじゃないのかと思い始めたのだ。
一度スイッチが入ると止められないのが僕の良いところでもあり良くないところでもある。
とりあえず目についたダサ家具を一気に取り替えた。他にも、姿見やポスターなど、別に必須ではないけど雰囲気を出すのには便利そうなものも買った。少ない給料から捻出するため、副業でウーバー配達員を再開するはめになったけど、前よりは幾分ジャズが流れていてもツッコミが入るような部屋ではなくなり始めている。
まだ完成とはいえないものの、少し部屋の家具を変えただけで、ここまで自分の部屋に対して愛着が湧くものかと、驚いている。意味もなく部屋を眺めては、ほくそ笑む日々だ。
だが弊害も出ている。インテリアというのは、深い深い”沼”だったのだ。
何か一つ家具を変えると、他の家具の配置やデザインが物凄く気になってくる。前までは結構気に入っていたラグが、テーブルを変えるとなんだかすごく違和感を感じるようになってしまったりと、そういう具合だ。しかし一方で、それをどんな風に取り換えるか考えると、ワクワクする。
最近では、夜寝る時に目を閉じると、頭の中に僕の部屋が浮かび上がってくるので、そこに家具の配置を試みて、理想の部屋を作り上げる妄想をしている。目を開ければすぐそこにあるというのに。
これはしばらく、ウーバーを続けることになりそうな気がしている。