黒歴史大歓迎?「The ANGERME- PERFECTION」で封印楽曲が新しい色に染め上げられた意義
2年半ぶりの単独ツアー、メンバーが大幅に変わったアンジュルムが見せた「今」
アンジュルムの2019年秋以来となる単独コンサートツアーが2022年春から始まり、6月15日の日本武道館公演で千秋楽を迎えた。
20年春からの世界的な情勢の影響で、アンジュルムと所属先のハロー!プロジェクトのグループは、ソロ歌唱や全グループを解体してのユニットといった形で対策をしながらツアーを続けてきたが、ようやく今年に入って情勢が少し落ち着いてきたことから、単独ツアーを再開させた流れ。グループでのライブは単発ではあったが、ハロプロのグループの最もコアな活動である単独コンサートツアーは約2年半なかった。
この世界が混乱した2年半の間はアンジュルムにとっても激動の期間だった。室田瑞希、太田遥香、船木結、笠原桃奈がグループを離れ、川名凜、為永幸音、松本わかな、平山遊季の4人が新加入。以前からいるメンバーは竹内朱莉、佐々木莉佳子、上國料萌衣、川村文乃、伊勢鈴蘭、橋迫鈴の6人だが、前回のツアーの19年秋当時、伊勢と橋迫はまだ加入1年目だった。さらに19年は和田彩花、勝田里奈、中西香菜という、アンジュルムの前身・スマイレージのメンバーだった3人が一気に卒業した年でもあった。
アンジュルムには「次々続々」という代表曲があるが、まさに次々続々卒業加入が目白押しな状態。本来なら20年以降、グループは新しい形を作る作業を積み重ねないといけない時期だったが、解体しての活動を余儀なくされる。とはいえ、その間にも個々人のスキルは磨かれ、グループ活動が無いことによりグループへの愛情もより濃厚に。満を持して始まった春ツアー中、メンバーは皆、ライブMCやブログで、「楽しい」「アンジュルム最高」といった喜びの声を度々上げていたが、その集大成となったのが6月15日の日本武道館の千秋楽だった。
2年半ぶりの単独ツアーということで、所属事務所のアップフロントがどういう企画編成をするか。ハロプロ全体にはツアー中に卒業を控えたメンバーがいるモーニング娘。やJuice=Juiceもいれば、昨年3人の第2期メンバーが入ったばかりのつばきファクトリーがいたり、初の武道館公演となるBEYOOOOONDSもいる。Juice=Juiceは春に3枚目のアルバムを発売したばかりで、新曲をたっぷり披露する機会にもなる。
アンジュルムは昨年末、平山遊季が単独加入したが、今回卒業メンバーもいない。他のグループに比べて、テーマ性が希薄になりかねないタイミングでのツアーだったが、事務所はあえて直球勝負に出た。ツアー名は「The ANGERME(ジ・アンジュルム)」。披露するのは15年のアンジュルム活動開始後のシングルCD曲収録曲オンリー。シングル化されていない曲でも「友よ」「カクゴして」「夏将軍」「赤いイヤホン」等のライブの定番曲は多数あるがそれらは封印した。前回19年のツアー当時から半数近くのメンバーが変わったため、シングルCD曲とはいえ、一度もパフォーマンスしたことの無い曲も彼女たちには多い。なおかつ以前からのメンバーたちにとっても、和田、中西、勝田、室田、笠原、船木、太田のいない状態で披露した曲は少ない。それらの過去のシングルCD曲群に、今のアンジュルムの息を吹き込み、これが今のアンジュルムだ、と示すこと。その意気込みが「The」という定冠詞によって強調されたといえよう。
ツアー全体でシングルCD化曲を全曲で披露し「PERFECTION(完成)」
とはいえスマイレージからアンジュルムに改名した15年以降のシングルCD曲だけでも30曲以上ある。全国でのホールツアー中は、フルメンバーで披露した曲は17曲、数人ずつのユニットで披露した曲は4曲。さすがにシングルオンリーの構成とはいえ、全曲披露が時間的に無理なのも当然で仕方ないと思っていた。だが武道館での千秋楽では、中盤パートでメンバー全10人が個々のソロで、まだ披露していなかった曲のうち10曲をメドレー形式で唄い、さらにグループとしても数曲を初披露し、合わせて全曲披露を達成してしまう。終演時、場内のモニターにはアンジュルムの歴代シングルCD曲がエンドロールのように流され、最後に「PERFECTION(完成)」の文字。歓声禁止のコンサート最後、武道館は大きな拍手で包まれ、ツアー全体と千秋楽のタイトルの意味を嚙み締め、メンバーと共にファンも達成感を持っただろう。
ソロで披露された10曲は1分程度のショートバージョンだったが、それぞれ曲に新たな意味、ストーリーを吹き込むものとなる。とりわけ印象的だったのが「わたし」「夢見た 15年」「ナミダイロノケツイ」という、シングル曲でありながらも各々の事情があってほとんど披露されてこなかった楽曲だ。
福田花音作詞・歌唱「わたし」が、最年少・松本わかなにより再生
トップバッターの最年少メンバー・松本は、アンジュルムの初年度の15年11月に卒業した、スマイレージの創設メンバー・福田花音の卒業曲であり、彼女が作詞した「わたし」を披露した。卒業記念のソロ歌唱曲はそのメンバーの色が濃くなるため、アンジュルムに限らずハロプロの他のユニットでも披露される機会は少ない。福田はアンジュルム卒業後、ブランクを経て大森靖子率いるZOCのメンバーとなり、巫まろの芸名で活動。近年はスキャンダルも続き、アンジュルムの古参ファンからも腫れ物扱いをされがちだったが、今のアンジュルムの高いパフォーマンス能力の礎を築いたメンバーだったことに、そういう人たちも異論は無いだろう。
松本は現在14歳。福田がスマイレージのメンバーになった時と同じ年齢だ。松本も当時“神童”とも呼ばれた福田を彷彿とさせる高いパフォーマンス能力の持ち主。ひたすら明るくフレッシュな歌唱で「わたし」という楽曲を再生させた。今月「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」という映画が公開されたが、TV版ガンダムでは作画崩壊等で黒歴史化していた回が、40年以上の時を経て今のテクノロジーで高いクオリティの作品に生まれ変わった。元の福田の「わたし」は素晴らしい歌唱で、ガンダムの件と比較すると怒られそうだが、奇しくも同じ6月にククルス・ドアン的現象が起こったことに面白さを感じた。アンジュルムのこの春の新曲「ハデにやっちゃいな!」の2番最後には「黒歴史大歓迎」という歌詞もあったが、松本による「わたし」披露には、黒歴史すらも白歴史に転換するようなマジックがあった。
15歳・平山遊季が唄う「夢見た 15年」
その「黒歴史大歓迎」のパートを「ハデにやっちゃいな!」で歌ったのは、昨年末に新加入した平山だったが、15歳の彼女が武道館公演のソロコーナーで歌ったのは「夢見た 15年」。19年、創設メンバーであり当時のリーダー・和田の卒業曲。作詞は福田。曲名は「夢見る 15歳」というスマイレージのメジャーデビュー曲が元ネタ。歌詞にもスマイレージの曲の歌詞が随所で引用され、和田と福田が創設メンバーだったスマイレージの歴史が詰まった曲だった。しかし同類の手法は既に大森靖子作詞のハロプロの先輩グルーブ・℃-uteの卒業間際の曲「夢幻クライマックス」で使われていた。「夢幻~」では隠し絵的なメンバーの名前が歌詞に織り込まれる手法だったのが、福田はストレートに引用したため、「安直だ」という批判もあった。松本が唄った「わたし」同様、個人の卒業曲としての色が濃く、なおかつスマイレージ時代から10年以上リーダー・エースを務めた和田の卒業曲ということで重みが段違いで、和田の卒業後披露されることが無かった。だが、和田と接点の無い平山が唄うことで、シンプルにさわやかな曲として耳に届くことになり、松本による「わたし」同様、新しい色に染まることになる。
「ナミダイロノケツイ」で再現された、田村芽実卒業コンサートのあの光景
ソロ歌唱メドレーのトリを務めたのは上國料。19年の和田卒業後、歌唱でもメディア露出でもエース級の活躍をしてきた彼女が唄ったのは「ナミダイロノケツイ」。作詞・作曲は近藤薫。アンジュルムでは「忘れてあげる」、同じハローのJuice=Juiceでは「続いていくSTORY」「Goal~明日はあっちだよ~」を書いた作家だが、ライブの定番のこれらの楽曲に比べ、「ナミダイロノケツイ」はリリース時以外に披露されたことはわずかだった。
「一緒に育てたこの場所は必ずね守っていくよ」「この場所で待っているから」という歌詞は、この曲が出る半年前の17年1月から病気のため活動休止していた相川茉穂へのエールと受け取れる内容だった。事務所もメンバーもそういったテーマ性を語ることはなかったが「心労もあって休んでいる相川に早期復帰のプレッシャーをかけていいのか」「活動休止を商売のネタにしていいのか」といった批判もファンからあった。同年の大晦日に相川の引退が発表され、この曲の歌詞に込められた思いが虚しさを増してしまった。だがそれから5年を経て、相川の1つ下の期の後輩で、相川からダンスを教わることの多かった上國料が、持ち前のクリスタルボイスでさわやかに歌い上げることで、歌詞の意味合いが新しいものになる。「一緒に育てたこの場所は必ずね守っていくよ」という歌詞は、相川一人ではなく、和田、中西、勝田、室田、笠原、船木、太田という、これまで一緒に活動した卒業メンバー全体へのメッセージにも聞こえてくる。
この日の武道館は円形の会場にセンターステージが設けられ、センターステージから十字状に花道が作られれた。ソロ歌唱メドレー中、センターステージには約3メートル四方のイスが出現し、十字の花道の先端でメンバー1人が唄う間、残りの9人がセンターのイスに座りながら拍手や踊りで、ソロで唄うメンバーを盛り立てる演出が施された。通常、9人のメンバーは東西南北の四方に向いて座っていたのだが、「ナミダイロノケツイ」を北側の花道で上國料が唄っている最中、他の9人は上國料がいる北側の1辺のほうに移動し、1列に密集する。北を向いて唄っていた後ろの上國料がセンターステージのほうに振り向くと、いつのまにかズラリ並んで声援を送る9人のメンバー。この演出はおそらく上國料もリハーサル時点で知っていたはずとはいえ、上國料の涙声はじわじわと涙声の成分が濃くなる。最後の「この場所で待っているから」のパートを唄う際にはセンターステージのメンバーに駆け寄り、列の中央に座って、メンバーに肩を組まれながら唄い、全員笑顔でソロ歌唱メドレーが集結する。
この光景、同じ武道館で田村芽実が16年春に卒業コンサートを行い、終盤にソロで「自転車チリリン」を唄った最後のシーンと似ている。この時の上國料は在籍1年目。相川が長い右手を高く振り続けて田村をメインステージの椅子に呼び寄せる光景が印象的だった。今回は曲が違うとはいえ、当時一番後輩だった上國料が、上から数えるほうが早い立場となって、メンバーに呼び寄せられる立場となる。上國料は今回、6年前の新人当時の武道館の出来事がフラッシュバックしたのだろうか。「泣かない そう決めたね」という歌詞から始まる曲だったが、最後泣いてしまった上國料は、終盤のMCで「泣くつもりなかったのに、みんなの笑顔で胸いっぱいになって涙出て、私卒業する?ってなった」と話し、ファンや他のメンバーを笑わせたが、誰も卒業しない武道館公演が久々だったことも相まって味わい深いコメントとなった。
BDでも“PERFECTION”な形で全曲残してほしい!
「わたし」「夢見た 15年」「ナミダイロノケツイ」に共通するのは、リリース時に曲に込められたテーマが、福田・和田・相川という卒業したメンバーの色が濃厚で、残ったメンバーが触れにくい楽曲だったこと。しかしそれぞれ、リリースから3~7年が経過。彼女たちと接点の無いメンバーが大半となり、世界的な情勢の影響で2年半単独ツアーのブランクもあった。当時の苦い思いも薄まり、松本・平山・上國料がさわやかに歌い上げることで、曲自体がもっている本来の素材の良さを素直に楽しめるようになったことは意義深い。
ほかにも橋迫が自身のアンジュルム加入最初のシングル曲「私を創るのは私」をソロで唄い、つんく♂から直接指導を受けた数少ない現役メンバーの一人である竹内が、数少ないつんく♂作のアンジュルム曲「全然起き上がれない SUNDAY」を、つんく♂イズム満載の歌唱とダンスで歌い上げるなど、見所の多いソロ歌唱メドレーとなった。
このコラムではソロ歌唱メドレーについて重点的に記したが、ライブの大半はもちろん、メンバー全体で歌う楽曲が主体(上動画ではうち2曲が見られる)。リリース時や前回19年のツアー時とメンバーが大きく変わったことで歌割も大幅に変わり、同じ個所を唄っていたメンバーも歌唱力が向上し、どの楽曲からも「今のThe ANGERME」が伝わる良質なコンサートとなった。筆者も武道館だけでなく中野サンプラザ公演も一度見たので、通しでアンジュルムシングルCD曲収録曲を全部生で聞けた形となったこともうれしかったし、スマイレージからアンジュルムに変わってからの7年を、こうやって改めて振り返ることができる良い機会となった。今回の武道館公演は当然、BD/DVDで発売されるだろうが、恒例のBDのボーナスディスクには、是非ともホールツアー時のユニット曲を収録して、盤全体でシングルCD曲をコンプリートし、“PERFECTION”な形で物理的に残してくれることを願いたい。
(参考資料)「アンジュルム CONCERT TOUR-The ANGERME- PERFECTION」2022年6月15日 日本武道館 セットリスト
引用元:音楽ナタリー
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メドレー / わたし(松本わかな)~愛さえあればなんにもいらない(伊勢鈴蘭)~上手く言えない(為永幸音)~魔法使いサリー(川名凜)~全然起き上がれない SUNDAY(竹内朱莉)~君だけじゃないさ...friends(全員)~臥薪嘗胆(川村文乃)~夢見た 15年(平山遊季)~愛のため今日まで進化してきた人間 愛のためすべて退化してきた人間(佐々木莉佳子)~私を創るのは私(橋迫鈴)~ナミダイロノケツイ(上國料萌衣)
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