親に『しゃぶしゃぶ』だと騙され続けた幼少期
「実家の味」というものはありますか?懐かしい思い出の料理や味。
きっと皆さんもあると思います。
今回もnoteのお題を眺めていて出てきたもので書かせていただきます。
お題は
うちの鍋は「しゃぶしゃぶ」でした。
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僕は北海道の札幌で育ちました。
札幌といえば都会のイメージがあるかもしれませんが、僕の実家は札幌の中でも田舎の方です。
「え?札幌?なに区?」
なんて会話は、東京で札幌出身の人に会うと必ず飛び出るワードです。
そこで僕の実家の区を言うと大体の人が「あぁ〜」と言い始めます。
なにが悪いんだ清田区の。
そんな話は置いておいて。
僕は実家の料理でとても好きなものがあります。それがしゃぶしゃぶでした。
小さい頃に「何か食べたいのある?」と母親に聞かれるといつもリクエストしていた覚えがあります。
大きい鍋にもやしや白菜やネギ、キノコに豆腐などが沢山入っていて、豚肉も鶏肉も沢山入っていて、それをポン酢で食べる。
これが本当に大好きでした。
「毎日しゃぶしゃぶでもいい!」本当にそう思っていました。
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ここまで読んでくれた方は、どこか違和感を感じていることでしょう。
そうです。皆さんが想像しているしゃぶしゃぶと、我が家のしゃぶしゃぶは全然違います。
というよりも、うちのはしゃぶしゃぶではありません。
ただの水炊きちゃんこ鍋なのです。
それに気づいたのは中学3年くらいの時でした。
いつものように家ではしゃぶしゃぶが出てきます。僕はそれを食べながらテレビを見ていた時のこと。冬の料理特集みたいなやつだったと思います。
その中でしゃぶしゃぶが登場しました。僕は違和感を感じました。
「あれ?なんだこれは。肉を鍋に入れて動かしてるぞ?え?これがしゃぶしゃぶ……?」
僕はテレビを見ながら固まっていました。
テレビの中でみんなが美味しそうに食べているものがしゃぶしゃぶ。
では僕が小さい頃から食べていたこの料理は一体なんなのでしょうか。
その日から我が家の食卓にしゃぶしゃぶが並ぶことはありませんでした。
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しばらくしたある日。家に帰ると母親は晩御飯の準備をしていました。
今日はなにが出てくるのかなと思っていたら登場したのは見慣れたあの大きい鍋。
僕はまさかと思い鍋を覗き込みます。そこには僕がずっと大好きだったしゃぶしゃぶがありました。
「しゃぶしゃぶだ!」
僕はとても喜びました。その日のしゃぶしゃぶは最高に美味しかった覚えがあります。
食べながら父親に聞きました。
「あのさぁ。これ昔からしゃぶしゃぶって言ってたけど、これしゃぶしゃぶじゃないよね?」
そう聞くと父親はこう言いました。
「しゃぶしゃぶだよ」
それに続き母親が言います。
「そう。しゃぶしゃぶ。あんたが思ってるのと違うのはしゃぶしゃぶしてないだけでしょ?あんなのめんどくさいから一気に入れてんのよ。食べたら全部一緒」
そう言われて僕は「確かにその通りだな」と思いながら手羽元を食べていました。
─
それから大人になり僕が実家から出て、両親と食事をする機会もめっきり無くなりました。
たまに実家に帰っても、刺身とかちょっぴり背伸びしたようなご飯が出てきます。
そんなんじゃなくて、みんなで食べたあのしゃぶしゃぶが食べたいんだよな。
そんなことを思いながら、今日も僕はしゃぶしゃぶを食べています。