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コラム: 聴診は服の上から?

0. 本記事のまとめ

厚手の服の上からの聴診は、何も聴こえません。

1. 聴診では何を聴いているの?

十条: いつも先生の外来の時に、「吸って吐いて」の後に「大きく吸って、強く吐いて」と言うじゃないですか。あれは何か意味があるんですか?

Dr.Y: 大アリです。大きく吸ってから強く吐くのを強制呼気と言いますが、強制呼気だと普通に吸って吐いてもらう時は聞こえないような細かい狭窄音が聴こえるのです。

十条: どうして、強制呼気だと普通の呼吸で聴こえない狭窄音が聴こえるようになるんですか?

Dr.Y: 強制呼気のように腹圧をかけて一気に吐き出すやり方だと、肺を外側から一気に圧迫するような力が働くので、中の気管支が虚脱しやすくなるのです。

十条: 聴診も色々意味があるんですね。他には聴診でどんな事が分かるのですか。

Dr.Y: 肺炎の患者さんなどでは水泡音といって、痰絡みのようなボコボコボコという音が聴こえます。それから、間質性肺炎のように肺が硬くなる患者さんでは、息を吸う時にバリバリっというような音が聴こえます。

十条: 聴いているのは呼吸の音だけですか?

Dr.Y: 呼吸音だけでなく、心臓の音が正常か、心臓から弁膜症のような雑音が聴こえてこないか、なども聴いています。

十条: なるほど。病気や臓器ごとに違う音を聴いているんですね。いつも聴診する時に困ることなどありますか?

2. 聴診の際に困ること

Dr.Y: そうですね。聴診をしている最中も色々話しかけてくる人がいますが、少し困りますね。話す音が響いて全く音が聴こえませんし、いちいち聴診を中断しなくてはいけません。聴診が始まったら静かに呼吸だけしてて欲しいですね(笑)。

十条: 確かに、そうですね。

Dr.Y: あとは深呼吸してもらってるはずなのに、全然音が聴こえなくて「あれ?」と思ったら、こちらに気を遣ってるのかものすごく静かに呼吸してる事があるんですよ。静かすぎて呼吸の音が聴こえないので、もっと強く呼吸してもらうように伝えています。

十条: でも、聴診してもらう時って、いつも大きく呼吸しようか静かに優しく呼吸しようか迷うんです。どっちが正解ですか?

Dr.Y: 呼吸音を聴いている時は大きく呼吸してもらった方が分かりやすいですね。逆に心臓の音を聴く時は呼吸音が邪魔なので静かに呼吸してもらった方が良いです。ただし、これは医者側が患者さんに指示する事だと思います。

十条: なるほど。他には?

3. 聴診は服の上から?

Dr.Y: 聴診の時にどこまで服をまくってもらうか、一瞬迷う事があります。

十条: どこまでまくってもらうのが正解ですか?

Dr.Y: 聴診器をあてる場所を確認しながら素肌に直接当てて聴くのが一番よく聴こえるので、医学的な事だけを言うと「上までしっかりまくりあげる」が正解ですね。それに呼吸器内科医は聴診の時に音だけ聴いているわけではないんですよ。

十条: 音を聴いているだけではないんですか?

Dr.Y: ええ。一緒に胸の動きは正常か、痩せすぎていないか、呼吸筋が萎縮していないか、左右対称に胸が動いているか、なども一緒に視診で確かめてます。特に慢性の呼吸器疾患では痩せていってしまう方が多いですからね。

十条: そうですか。やはりしっかりまくって貰う必要がありますね。

Dr.Y: ただ、当然気を遣う場面が2つあります。

十条: 2つとは?

Dr.Y: 1つは女性の聴診の時。羞恥心の問題もありますし変に誤解されて問題になっても困りますから、上まではまくりません。

十条: 色々大変ですね。

Dr.Y: もう1つは、ご年配の方に多いですが、たくさん着込んでいる時。服をまくろうと思ってもなかなかまくれません。仕方ないので服を脱いでもらうとその下からもう一枚出てきて、その下からも・・・と。

十条: 全部脱いでもらうの待っているだけでだいぶ時間がかかりそうですね(笑)。

Dr.Y: そうなんです。これら2つの場合は、服を浮かせてもらうか、服の隙間に聴診器だけ滑り込ませて聴診してますね。ただ、服を全部脱いで行う聴診と同じだけのクオリティで聴けているかというと、残念ながらそんな事はないと思います。良くないんですけどね。

十条: 着ている服によってもだいぶ違いそうですね。

Dr.Y: はい。例えば首元まで詰まっていて上下もつながっているような服だと、どこからも聴診器を入れる隙間がないので、「どうやって聴診しろと?」と思いますね。こういう服は、呼吸器系の受診をする場合は避けた方が良いです。

十条: 服の上から聴くのはどうなんですか?

Dr.Y: 薄手の肌着などであればまだ許容できますが、それ以上になると音が伝わってきませんし、呼吸に合わせて服が擦れる音が混ざって、呼吸の雑音と区別つかなくなりやすいです。特に厚手の服の上からは無理ですね。

十条: 前に厚手のセーターの上から聴いてもらった事ありますよ。

Dr.Y: 非常に言いにくいですが、そういう聴診はほとんど何も聴こえてないと思います。

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