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喘息(11) 診察中の医師の頭の中

(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。

■登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
吾妻さん:40歳女性、2児の育児をしながら市役所に勤務している。ここ数ヶ月咳が続くためDr.Yの外来を受診し、喘息と診断される。


1. 喘息の治療反応は個人差あり

Dr.Y: 次の方、どうぞ。

吾妻: こんにちは。

Dr.Y: こんにちは。吾妻さん。その後喘息の調子はどうですか。

吾妻: 結構咳が減ってきました。

Dr.Y: あれからは吸入薬はきちんと続けてくれてますか?

吾妻: はい。毎日吸入するのが習慣になってきました。

Dr.Y: 良いですね。どうやって習慣にしたんですか。

吾妻: 吸入薬を洗面所に置いておくと、朝晩の歯磨きの時に目にするので、そのタイミングで一緒に。顔を洗って、吸入して、歯磨きして、という感じでルーチンになってしまいました。

Dr.Y: とても良いです。吸入後の息止めもちゃんと出来てますか?

吾妻: はい。5秒以上きちんと止めてます。

Dr.Y: 素晴らしいです。ちょっと聴診しますよ。はい、息を吸ってー、吐いてー、今度は大きく吸ってー、一気に吐いてー…

吾妻: どうですか?

Dr.Y: 呼吸音が明らかにきれいになっていますね。ここまで治療反応が良いとこちらまで嬉しくなります。

吾妻: 治療反応は個人差があるんですか?

Dr.Y: そうですね。吾妻さんのように治療開始後数日〜数週間で「明らかに改善」という人もいれば、「多少良いけれど今ひとつ」という人も、「全然変わらない」という人もいます。

吾妻: 色んな方がいるんですね。先生も患者さんの反応を見ながらその場で次の治療を考えないといけないから大変ですね。

吾妻: その時々の治療の効き具合を見ながら、先生はどんな事を考えるんですか?

2. 明らかに改善していても・・・

Dr.Y: そうですね…吾妻さんのように「明らかに改善」した時はひとまず安心します。ただ、問題はこれからです。

吾妻: これから、というのは?

Dr.Y: 良くなってすぐに吸入をやめてしまう人、多いんです。

吾妻: すぐに止めてしまうとどうなるんですか?

Dr.Y: 喘息で治療をすぐに中断してしまうと、多くの場合ぶり返してきます。

吾妻: 症状が良くなっても、まだ治っていないということですか?

Dr.Y: そうですね。症状の改善と、喘息の病変である気道の炎症の改善はタイムラグがありますから、症状が落ち着いて一見良くなったように感じても気道はまだまだ炎症で真っ赤っ赤という事はよくあるのです。

吾妻: それは困ります。またあんなつらい思いをするのは嫌です。

Dr.Y: そうやってつらい体験を忘れない方は治療の継続率が高い気がします。

3. 改善が今ひとつの時・・・

吾妻: 「多少良いけれど今ひとつ」という時は?

Dr.Y: 治療効果が不十分ということで、それが治療強度の問題なのか、治療の理解度の問題なのか、外的要因の問題なのかを、考える事が多いですね。

吾妻: 治療強度の問題というのは?

Dr.Y: 最初に症状の重症度に合わせて治療ステップを決めたでしょう。治療強度の問題とは、その最初の設定が間違っていたのでは、と。

吾妻: そういう場合は治療を強化、つまりステップアップするんでしたね。

Dr.Y: はい。ただし安直にステップアップする前に残りの2つの要因ではないかというのは入念にチェックします。

吾妻: 治療の理解度と外的要因ですか。

Dr.Y: はい。治療の理解度は、例えばちゃんと毎日定期的に吸入してくれているか、とか吸入回数が間違って伝わっていないか、とか吸入後の息止めが十分できているか。

吾妻: 息止めをちゃんとしないと吸入の意味がないですもんね。

Dr.Y: はい。それに、きちんと使っているつもりでもどうしても吸入薬のデバイスが患者さんに合っていない場合もあります。たとえば小柄で息を吸う力が弱いのに粒子径の大きいものを使っていないか、など。

吾妻: なるほど。一方で、外的要因というのは?

Dr.Y: いくらきちんと薬を使っていても部屋が埃っぽかったり、アレルゲンの曝露があったり、生活環境の中に喘息を悪くする要素があると効き目が悪いです。

吾妻: なるほど。体の外(外部要因)と中(薬物治療)から改善させていく必要がありますね。

Dr.Y: 良いこと言いますね!他にも、実はタバコを吸っていたとか、同居人がタバコを吸っていたとか、あとはペット、そしてストレスなんかもよく目にします。

吾妻: タバコはやっぱり駄目ですか。

Dr.Y: そうですね。タバコは自分で吸うのも副流煙を吸うのも、やはり駄目ですね。ニコチンを中心とした有害物質が気管支で炎症を起こすし、痰の分泌も増やしてしまうので。

吾妻: ペットは犬や猫など?

Dr.Y: ええ。犬や猫自体のアレルギーがあって喘息の引き金になっている場合もあれば、それらの毛に潜むダニが悪さをしている事もあります。いずれにしても、ペットを飼い始めた後に喘息を発症した場合など、アレルギー検査はきちんとしておいた方が良いですね。

吾妻: アレルギー検査、私もした方が良いですよね。また相談させてください。あとはストレスも?

Dr.Y: ストレスは馬鹿にできないですね。仕事が忙しくて寝られていません、とか上司と馬が合わなくて苦労していますとか。転職してストレスフリーになったら喘息のコントロールが良くなった、なんてケースもあります。

4. 全く改善ない場合・・・

吾妻: 最後に「全然変わらない」という時は?

Dr.Y: 全く改善が見られない場合、今まで話した事に加えて「本当に診断は喘息で合っているのか?」と自分自身に問いかけます。

吾妻: えっ誤診したかもという事ですか。

Dr.Y: 「誤診」と言われると破壊力があって不本意ですけどね。前にお話したように、喘息に限らず多くの病気は、絶対にその診断という事はなくて、現時点ではこの病気の可能性が最も高い、と考えて治療をするわけです。

Dr.Y: 治療経過が合わなければ、喘息以外の病気の可能性ももう一度考え直す必要があります。

吾妻: 具体的にどんな病気の可能性があるのですか?

Dr.Y: 例えば似た病気にアトピー咳嗽というものがあります。これは喘息の治療はあまり効きません。その他に鼻水が喉に垂れ込む後鼻漏とか、逆流性食道炎など、長引く咳の原因と言われているものの可能性について、もう一度考え直します。

吾妻: なるほど。

Dr.Y: あとは、結核や、肺癌や、間質性肺炎など、より緊急性のある病気の可能性も。もちろん最初にレントゲンを撮っていますが、より細かく見るためにCTの撮影を検討します。

吾妻: 色々と考える事が多くて大変ですね。


(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。診断や治療については自己判断せず、必ず主治医に相談してください。

参考文献:
日本喘息学会 喘息診療実践ガイドライン2024(協和企画)
滝澤始 喘息治療薬の考え方・使い方ver.2(中外医学社)

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