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喘息(11) 診察中の医師の頭の中



0. 本記事のまとめ

・喘息治療後の改善の度合いは人によって様々です。
・明らかに改善してもすぐに治療をやめません。
・改善が改善が今ひとつの時は、治療強度や治療理解度、外的要因などを考えます。
・全く改善がない場合は、そもそも診断が正しいのか考え直します。

1. 喘息の治療反応は人によって様々

Dr.Y: 次の方、どうぞー

吾妻さん: こんにちは

Dr.Y: あーこんにちは。吾妻さん。その後喘息の調子はどうですか。

吾妻さん: 完全ではないですが、結構咳が減ってきました。

Dr.Y: あれからはちゃんと吸入薬続けてくれてますか

吾妻さん: はい。ちゃんと続けてますよ。習慣になってきました。

Dr.Y: 吸入が習慣になるのは良いですね。どうやって習慣にしたんですか。

吾妻さん: 吸入薬を洗面所に置いておくと、朝晩の歯磨きの時に目にするので、そのタイミングで一緒に。顔を洗って、吸入して、歯磨きして、ってルーチンになってしまいました。

Dr.Y: 非常に良いじゃないですか。吸入後の息止めもちゃんと出来てますか?

吾妻さん: はい。5秒以上きちんと止めてます。

Dr.Y: 素晴らしいです。ちょっと聴診させてください。はい、息を吸ってー、吐いてー、今度は大きく吸ってー、一気に吐いてー…

吾妻さん: どうですか?

Dr.Y: 明らかに呼吸の音がきれいになっていますね。ここまで治療反応が良いとこちらまで嬉しくなりますね。

吾妻さん: ここまで治療反応が良くない事もあるんですか

Dr.Y: そうですね。個人差があるので。治療開始して2週間くらいして、吾妻さんみたいに「かなり良くなった!」という人もいれば、「少し良いけれど今ひとつ」という人も、「全然変わらないです」という人もいます。

吾妻さん: 色んな方がいるんですね。そういう感想を患者さんから聞いた時、先生は頭の中でどんな事考えてるんですか?

2. 明らかに改善していても・・・

Dr.Y: そうですね…吾妻さんのように「明らかに改善」した時は、素直にとても嬉しくなります。

Dr.Y: それから、患者さんがこれで安心してしまって吸入治療をすぐに止めてしまわないようにフォローしないといけないな、と思います。

吾妻さん: すぐに止めてしまうとどうなるんですか?

Dr.Y: 喘息で治療をすぐに中断してしまうと、多くの場合ぶり返してきます。

吾妻さん: それは困ります。またあんなつらい思いをするのは嫌です。

Dr.Y: そうやってつらい体験を忘れない方は治療の継続率が高い気がします。

2. 改善が今ひとつの時・・・

吾妻さん: 「少し良いけれど今ひとつ」という時は?

Dr.Y:「改善が今ひとつ」という時は、それが治療強度の問題なのか、治療の理解度の問題なのか、外的要因の問題なのか、考える事が多いですね。

吾妻さん: 治療強度の問題というのは?

Dr.Y: 治療強度の問題というのは、最初に症状の重症度に合わせて治療ステップを決めたでしょう?あの設定が間違っていたのでは、と。

吾妻さん: そういう場合はステップアップするんでしたね。

Dr.Y: はい。ただし安直にステップアップする前に残りの2つの要因ではないかというのは入念にチェックしますね。

吾妻さん: 治療の理解度と外的要因ですか。

Dr.Y: はい。治療の理解度は、例えばちゃんと毎日定期的に吸入してくれているか、とか吸入回数が間違って伝わっていないか、とか吸入後の息止めが十分できているか。

吾妻さん: 息止めをちゃんとしないと吸入の意味がないですもんね。

Dr.Y: はい。ただ、頭では分かっていても、どうしても吸入後にむせてしまって息止めできないケースもあるんです。そういう場合は吸入薬が合っていないので種類を変えた方がよいかなとか考えたりします。

吾妻さん: 外的要因というのは?

Dr.Y: 外的要因というのは、喘息の治療において周囲の環境ってとても大事なんです。いくら薬を使っていても部屋が埃っぽかったり、アレルゲンの曝露があったりすると効き目が悪いです。

吾妻さん: なるほど。体の外(外部要因)と中(薬物治療)から治していかなくてはいけないですもんね。

Dr.Y: 良いこと言いますね!そのとおりです。

外部要因は他にも、実はタバコを吸っていたとか、同居人がタバコを吸っていたとか、あとはペット、そしてストレスなんかもよく目にします。

吾妻さん: タバコはやっぱり駄目ですか。

Dr.Y: そうですね。タバコは自分で吸うのも副流煙を吸うのも、やはり駄目ですね。ニコチンを中心とした有害物質が気管支で炎症を起こすし、痰の分泌も増やしてしまうので。

吾妻さん: ペットは犬とか猫とか?

Dr.Y: そうですね。室内で飼っていたり、一緒に寝たりしている、など。あっ全部が全部駄目という事ではないんですよ。ただ、アレルギー検査で猫アレルギーがあるのに猫を飼い始めたとか、結構あるんです。

吾妻さん: アレルギー検査、私もした方が良いですよね。また相談させてください。あとはストレスも?

Dr.Y: ストレスは馬鹿にできないんです。仕事が忙しくて寝られていません、とか上司と馬が合わなくて苦労していますとか。転職したら喘息のコントロールが良くなった、なんてケースもあります。

3. 全く改善ない場合・・・

吾妻さん: 最後に「全然変わらないです」という時は?

Dr.Y: 「全く改善なし」の時は、今まで話した事の他に、「本当に診断は喘息で合っているのか?」と自分自身に問いかけます。

吾妻さん: えっ誤診したかもという事ですか。

Dr.Y: 「誤診」と言われると破壊力があって不本意ですけどね。前にお話したように、喘息に限らず多くの病気は、絶対にその診断という事はなくて、現時点ではこの病気の可能性が最も高い、と考えて治療をするわけです。

Dr.Y: 治療経過が合わなければ、喘息以外の病気の可能性ももう一度考え直す必要があります。

吾妻さん: 喘息以外の病気というのは?

Dr.Y: 例えば似た病気にアトピー咳嗽というものがあります。これは喘息の治療は全く効きません。その他に後鼻漏とか、逆流性食道炎など、長引く咳の原因と言われているものの可能性について、もう一度考え直します。

吾妻さん: なるほど。

Dr.Y: あとは、結核や、肺癌や、間質性肺炎など、より緊急性のある病気の可能性も。当然、最初にレントゲンを撮っているわけですが、病変が小さくてレントゲンでは検出できなかった可能性を考えて、胸のCTを撮ることを検討します。

吾妻さん: 色々と考える事が多くて大変ですね。

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